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シスエン° ~姉援~  作者: ハルカ カズラ
優しい世界
9/9

8.ネコと僕とケント


 不思議な夢を見た。僕はケント。犬人けんとと呼ばれていて、これまで出会ったお姉さんたちが何故か、僕の妹として出てくる夢。年齢も姿もまるで違ってた。大学生の犬人は、すごく活発で特殊能力も持っててすごく面白い人だった。


 夢の中に、アリサも出て来たしミオおねーさんも出て来た。何だか今とあまり変わってないみたい。その中に、最初に出会ったお姉さんも妹として出て来て、やっぱり優しく頭を撫でてくれていた。


「悲しみも涙も半分に……」


 あの言葉ってそういう意味だったのかなあ。大人だった僕と今の僕……半分は僕で、もう半分は犬人。それに、同級生のカナタちゃんも夢に出てた。どうして僕を守ってくれているんだろ? 夢の中と今とであまり変わってない姿をしてたけど、気持ちも変わってないのかな。


 犬人が僕だったとしたら、どうしてこんなことになったのかな。僕には分からないよ。それに、夕方に出会ったお姉さん、夕映さん。僕のことを最初から見抜いていた。夢が本当なら彼女はまだ、能力を持ったままで僕にあんなことを言って来たのかな。


 ネコが答えを知っているなんて、でも言葉は分からないよ。僕は元に戻りたいのかな? 誰か教えてよ。


「おーい、ケント? 寝ちまったのか?」


「……ん。ミオセンセー?」


「お? よく眠れたか?」


「ミオセンセーは僕をシャテイにしたいの?」


「へ? 舎弟……? どこからそんな言葉が……ケント、お前記憶が戻ったのか?」


「ううん、夢で見たから」


 夢の中の僕は、犬人。記憶の中のケント。でも、僕じゃない。だから記憶が戻るなんて言葉はきっと違うよ。記憶が戻っても、多分今より良くなるわけじゃないよ。悲しみが今よりも増えるような気がするんだ。だから、僕はこのままでいいよ。お姉さんたちに援助されて守られて、それで僕は良くなってきているんだ。


「そ、そうか。夢の中のケントは妹が好きとか言ってたか?」


「言ってた」


「……そいつは犬人って奴だった。あたしが好きになった男なんだ。ケントは犬人の……記憶を持ってるんだ。でも、今のケントがあいつに取って代わられるわけじゃない。ケントは今のケントなんだ。そしてこれは確実に言える。ケントはきっと、あいつよりもイイ男に成長する。あたしが保証するよ! ケント、これからもあたしと会って話をするか?」


「うん。僕はミオセンセーのこと、好きだよ」


「おぉぉ!? こ、これはマジだな。とうとうあたしも独身が終わるのか。いや、でも歳の差は……ぬう」


「え、ミオセンセー今は何歳なの?」


「おっとー、駄目だぞケント。お姉さんの年齢は聞いちゃいけないのが世の中の決まりなんだ。それはきちんと覚えるんだぞ?」


「う、うん。分かったよ」


 ミオセンセーの目が本気だった。そ、そうだよね。女の人の年齢はお姉さんじゃなくても聞いちゃ駄目だよね。それにしても夢の最後に出て来た女の子の名前は何だったんだろう? よく見えなかったよ。


「僕、そろそろ帰るね。ミオセンセー、バイバイ」


「おう、ケント。あたしはお前の味方だからな。またいじめられたらあたしがぶんなぐ……じゃなくて、怒ってやるからな。ケントを強くして、あたしはお前と一緒に暮らしたいんだ。もう少ししたらお前の本当のお姉さんになってやるぞ。それまでガンバレ、ケント」


「うん、分かったよ」


 ミオセンセーと別れて、僕は自分の家に帰って来た。部屋に入ると、ネコがやっぱり大人しく座っていて、まるで僕に話しかけてきそうな感じがした。でも、ネコの言葉なんて分からないよ。


「キミは誰なのかな? 僕はケントだよ。もしかしたら、夢の中に出て来た犬人を待ってるのかな? それならごめんね。ボクはケント。彼には戻れないんだ。妹の記憶どころか僕には夢で出て来た女の子の名前も思い出せないんだ。だから、君の名前も……」


「にゃー」


 やっぱりネコの言葉なんて分からないよ。ごめんね、ごめん。僕はそのままそこで眠った。ネコは僕の傍に体をすり寄せてきて一緒になって、眠って来た。そしてまた記憶の夢を見た。


「ケントくん、忘れないでね。わたしの名前はサクラ。わたしの本当の名前は……コ。でも、もうその名前はいいの。わたしの名前を呼んであげてね。そしたらきっと、君もわたしも笑顔になれるから――」



 目が覚めて、僕は忘れないうちに夢の中の名前を口に出した。


「さくら?」


「ケントくん……?」


「ネ、ネコが喋った!?」


「にゃ~……」


「あれ? そんなわけないよね。でも、何だか懐かしい気持ちになれた」


「にゃう……」


「あは、笑ってるように見えるよ。そっか、キミはサクラって言うんだね。じゃあ、僕と一緒にずっといてね、さくら! 僕はケントだよ。さくらがいてくれたら僕は嬉しいな。だから、これからよろしくね!」


 この子、ネコのさくらと一緒にいると、自然と笑顔になれる。そんな気がした。そしてネコの彼女も僕の傍から離れようとはしなかった。僕の昔の記憶は今でも夢で出てくるけど、もう寂しいってことにはならなくて、僕は強くなれるんだ。そう思えた。僕を癒してくれるお姉さんたちと、さくらが傍に居てくれる限り、僕は笑顔を絶やさないケントでいられるよ。だから、夢の中の犬人けんとも頑張ってね。

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