6.双子姉妹と僕
6.双子姉妹と僕
異国のお姉さん、アリサに助けられた僕はまた一つ、心を強くしてお姉さんと別れた。自由行動と言っても、暗くなるまでに戻らないと学校にもみんなにも迷惑をかけてしまう。だから僕は、アリサとまた会うって約束をしてお姉さんの元を離れた。
迷っていた道も、何となく歩いていたらそれまで分からなかった道がスムーズに開けて来てて、なにか狐にでもつままれたのかなと思うくらいだった。
表通りに出た僕は、カナタさんたちが待っている待ち合わせの時間に間に合うようにすればいい。そう思いながら、焦りで見えなかった街並みと風景を眺めながら歩いていた。ふと、目に止まったのがどこにでもあるゲームセンターだった。外からすぐに見える位置に、ぬいぐるみを取れるアレがいくつも置いてあってそれが何だか気になって、お店の中に入ってしまった。
そもそも修学旅行で使えるお小遣いなんて、決まっているのにここまで来てぬいぐるみを取るためにお金を使うことは僕には厳しくて、誰かがやっているのを黙って眺めるしかなかった。
「よしっ! これでふたつ目ゲットォ~~! ねえ、あんたもやりなよ?」
「やらないし。てかさ、学校サボってぬいぐるみ取ってるのってどうなの? どれだけ好きなの……」
「何言ってんの? そういうあんたもサボってんじゃん! カタいこと言うよね相変わらずさ~……って、んん? ねえ、あの子って中学生くらいに見える? もしかしてウチラを見てたりすんのかな?」
「うん、見えるね。そして、見てるでしょ。こんだけうるさければさ」
僕以外で店内にいるお客さんは、ぬいぐるみを取るのに騒いでいたお姉さんたちだけだった。普段はきっと学校に行ってていないはずのお姉さんたち。気になって見ていたら、僕に気付いたらしく声をかけてきた。
「ねえ、キミ。キミは中学生くらい? 1人なの? 学校はどうしたの」
「ぼく、僕は……」
「ちょっと、シズク! 男の子、泣きそうになってるじゃん! もう少し屈んで話したら?」
「コノハは黙っててよ! あ、ごめんね? わたしたちは、高校生なの。まぁ、サボりなんだけどさ」
やっぱりそうなんだ。こんな時間に高校生がいるわけないよね。そういう僕もそうかもしれないけど。
「僕は修学旅行で来ていて、それでここに……」
「あ、そうなんだね。中学生かぁ。お名前聞いてもいい? わたしはシズク。で、あっちのうるさいのがコノハね。双子なんだけど、コノハはバカみたいにうるさくてね~」
「シズクお姉さんとコノハお姉さん。僕は、ケントです」
「……ケント。そ、そっか。会えて嬉しいな」
気のせいなのかな? 僕の名前を聞いて一瞬、動きを止めたように見えたけど。また誰かの思い出と重なったのかな?
「ケントか~。そっかそっか、ウチラは双子の……って、それはもうシズクから聞いたんだったね? 偶然の出会いは必然って言うけど、これも何かの運命を感じるなぁ」
「コノハ! ケントくんが困ってる」
「ごっめーん! そ、そうだ! ケントくんにウチラ姉妹と出会えた思い出にコレをあげるね。さっき、取れたばかりのぬいぐるみキーホルダーだよ。双子のネコなの。よかったら、もらってくれるかな?」
ネコのぬいぐるみ……。双子? 何だろう、何で僕はこんなにも泣きたくなるんだろう。
「あらら、泣いちゃったよ。こら、コノハ! 男の子を泣かせてどうするのよ?」
「だ、大丈夫でしょ。たぶん、嬉し泣きかなにかだと……」
涙が出やすくなってるのは何だか恥ずかしい。そう思って僕はお姉さんたちにお礼を言って、店の外に出ることにした。
「シズクお姉さんと、コノハお姉さん。僕、ネコのぬいぐるみを大切にするね。だからもう、行くね。ありがとう、お姉さん! ばいばい~」
姿が見えなくなるまでふたりのお姉さんに手を振って、僕は待ち合わせの場所へ向かった。
「ケント、子供だった」
「ええ、そうですね。雫はこの運命を受け入れたの?」
「彼が生きて来た証。わたしたちを残してくれた想いと証。それはかけがえのないモノ。この出会いが例え、彼女によって仕組まれていたとしてもそれでも、わたしは受け入れる。木葉もそうでしょう?」
「彼の運命はこれから、わたしたち姉たちが支えていけばいい。そう思う」
幼いケントに私たちの記憶は無い。それでも違う姿になって出会えた運命をわたしたち、そしてケントが忘れないでいてくれたら、わたしたちはきっと救われる。そう信じている。ケント、頑張ってね。