5.異国のお姉さん
5.異国のお姉さん
「そこのボーイ」
「えっ」
「先ほどから同じところを歩いているようじゃが、道に迷ったのか?」
き、金髪のお姉さん……あれ……でも、日本語? 日本人? ど、どっちだろ。
「お、お姉さんは日本人?」
「イヤ、ワタシは心は日本人と信じてるぞ。瞳の色も髪の色も、生まれは日本ではないがの。ボーイの名は何と申すのじゃ? ワタシはアリサ。ヨロシク頼むぞ」
何だろ? なんか言葉がおかしいけど、でも何だか優しいな。
「アリサお姉さん。僕はケントだよ。よろし――」
「ケ、ケン!! お前があのケンなのじゃな!? あぁっ……ここで会えたが百年目、ワタシはお主をもう離さぬ。そう決めたのじゃ!」
「え? え? ぼ、僕はケントだよ。ケンじゃないよ。お姉さん?」
どうしてだろうか。僕と偶然にも出会うお姉さんたちは、まるで昔に僕と似た誰かを想いながら僕を抱きしめて、涙を流して再会に浸っているみたいだ。僕はケント……ケン……僕……?
「ケ、ケン!? どうしたのじゃ? し、しっかりせい! ぬぅ、こうしておれぬ。ケン、ワシが助けてやるゾ。すぐに良くなる。まさかこうしてお前を抱っこする日が来ようとはナ」
× × × × ×
「ふ、アリサは何でそんな変な日本語を覚えたんだよ? もうちっと何とかならなかったのか?」
「わ、笑うでないわ! ケンだって人の事言えぬではないか! お主の言葉には何か悪が満ちておるぞ?」
「時代劇で培った日本語、か。その変な言葉はともかく、俺はアリサが好きだぜ? また会えたら、俺はアリサと一緒に――」
※
「……ケン! ケン……、ケント!! 起きぬか! ワタシだ、アリサじゃ。どうしても起きぬと言うのならば、こうしてくれようぞ! い、いくぞ」
何か夢を見てた気がする。そして、夢に出ていたお姉さんの声が聞こえて来てそして、途端に息が苦しくなった。むぐぐぐ……
「わあああああ!? な、なにするの?」
「ぬ!? お、起きたか! ビックリしたか? これはな、日本では古来より伝わる目覚めのキスというモノじゃ! フフ、効果は抜群なのじゃな」
「そ、それって、何か全然違う様な気がするよ。で、でも、何でだろ。嫌じゃないし、何だか涙が止まらないよ……アリサ? 僕はお姉さんと会ったことがあるのかな?」
「……あぁ、そうじゃな。そうとも言えるしそうでないとも言える。じゃが、今はこうしてお主と出会えている。それが何よりの証拠じゃ」
「夢、夢を見たんだ。僕はお姉さんと話をしていて、将来の約束をしていたんだ。それが何なのかは見えなくてでも……すごく、嬉しくて涙が止まらないんだ」
「そうか、そうか……子供となっても、記憶までは断ち切れぬか。出来ることならお主と共にいたい。じゃが、ワタシは今はこの古都で修行をしておる身じゃ。いつまでも一緒にはいられぬのじゃ。すまぬ」
「ううん、僕も今は修学旅行で来てるだけだから、だからお姉さんも元気だしてね」
「アリサ。ワタシをそれで呼んでよい」
「アリサ……うん、ありがとう」
道に迷い、迷い込んだ路地裏で僕は、記憶の中のアリサと出会った。僕はケント。僕は、何かを思い出そうとしているのだろうか? それとも、僕はどうなりたいんだろう。ねえ、アリサ。僕って、どんな奴?