4.旅先で出会う
4.旅先で出会う
クラスメイトとは変わらずの状態だけど今、僕は修学旅行に来ていた。僕以外はみんな、グループが出来ていて、楽しそうにそして見せつけるようにバスや新幹線で騒いでいた。
僕は孤独なんだ。そう思っていたけど、体育倉庫での出来事以来、先生たちは男子たちの行動に目を光らせ、目に付くようないじめをされることがなくなっていた。男子たちの行動に制限がかかると、それまで僕に話しかけてくることが無かった女子たちが、僕の元へ近付きそして僕は、女子たちのグループに入れてもらえた。
そして、僕たちは今、修学旅行に来ていて新幹線に乗っている。僕の周りはみんな女子がいるせいか、緊張して、顔を上げることが出来ないでいる。
「ケントくん、どうしたの? 具合悪い?」
「ううん、大丈夫。あ、ありがとう、えっと……」
「あっ、そうだよね。わたしはカナタ。ケントくん、よろしくね」
「カナタさん。僕、ここにいていいのかな? 周り、女子だけだし僕がいたら……」
「平気だよ。ね、みんな?」
「うん。ケント君なら大丈夫。他の男子はうるさいし、からかってくるもの」
そう言ってくれる優しさが嬉しくて、僕は緊張と嬉しさの両面でまともに顔を上げることが出来ない。例え、少しの涙でも女子に見られたくない。そんな気持ちでいっぱいだった。
「ケント君はどうする? わたしたちと一緒に名所めぐりする?」
「え、えっと……うん」
今の状況を考えれば、僕は女子たちに付いて行くしかなかった。いくら目に見えてのいじめが無いと言っても、それでもどこかに隙があって泊まる部屋はどうしても、女子も先生も目が届かない。だから、僕は少しずつ、気を取り戻して強く気持ちを持たなければいけないんだ。
目的地に着き、ホテルに荷物を置いてクラスごとの決められたルートを歩き、観光を楽しんだ。そこまでは、先生も近くに引率しているし、女子たちと一緒に行動していたからよかった。けど、自由時間になった時、僕はまたそれを言われることになる。
「ケント、お前、女子に守られて弱っちいな。さすが子供は違うよな~弱すぎ」
「弱すぎケント。お前一人じゃ何にも出来ないんじゃないのか~」
この時、僕の中で負けたくない気持ちが勝って、いつものようにからかってくる男子たちに反論してしまう。でも、それがそのことが修学旅行先で迷惑をかけることに繋がるだなんてこの時は思ってなかった。
「……出来る。一人でも、出来る。だから、構わないでいいよ」
「お? じゃあ、ケント一人で歩けるんだろ? 女子たちと離れて一人で楽しんで来いよ」
「度胸がついたか~いいな。一人で名所めぐりにいってこーい」
そういう意味で言ったわけじゃなく、でも、何を言っても僕のことをどんな形でもからかいたかった彼らはここぞとばかりに僕を追い詰めた。
男子たちは勝手に、僕のグループの女子たちにこのことを告げて、僕は1人だけになった。僕とは誰とも行動する人がいなくなった。遠く離れた旅先で、僕は一人ぼっちになってしまった。
女子のグループで僕のことを気に掛けてくれたカナタさんは男子たちの言葉に、最後まで反論してくれたけど、でも、僕は結局一人で動くことになった。先生も、女子も、そして今まで友達だと思っていた男子たちも一緒に歩いてくれない。僕は、旅先で孤独になった。
それでも、あらかじめガイドブックやしおりに目を通していたこともあって、こうなったら一人で回れるところは回ろうと思うしかなかった。歩いていればもしかしたら、女子たちに再会するかもしれない。そんなことを密かに思いながら、僕は修学旅行先の見知らぬ街を1人で歩くことを決意した。
決意したというのに、僕は見事に迷子になった。慣れない地理と見上げるビル群をぐるぐると歩き回り、いつの間にか、見知らぬ路地や通りに迷い込んでいた。表通りの大きな通りなら誰かに気付いてもらえたかもしれないのに、どうしてなのか、裏道や段々と狭くなる路地に迷い込んでしまった。
上を見上げれば、全てが見知らぬ屋根の色と、道を行き交う大人たちはうかつに声をかけてはこない。僕はまた、ここで停滞しなければいけないのだろうか。そんなことを頭の中で思っていると、見知らぬ人から声をかけられた。
その人はたぶん、ううんきっと、日本の人じゃないお姉さんだと一目見て分かった。