2.約束、な!
世話焼きあねさん?
僕は一人っ子の一人暮らし。僕の両親は海外で仕事をしている関係で、僕は一人で大きな家に住んでいる。もちろん、生活にかかるお金とかは叔父さんがやってくれてるけど、僕はいつも一人だ。
学校では一人じゃない。だけど、友達と遊んでいても寂しさを感じることがある。それが何なのかなんて分からないけど、僕は他の子と違って守ってくれる家族、親が近くにいない。どうしてなのか分からない。
「けんとって、家に遊び行ってもお母さんいないんだろ? なんで?」
「何でなのか僕には分からないよ」
「変じゃね? けんとはどうやって生きてきたんだよ? お前って何なの?」
「分かんないよ」
同級生たちは僕をいじめてるわけじゃない。だけど、僕は他のみんなと違うってことは何となく分かる。大きい家に子供が一人で住んでいる……なんて、非常識なことだから。
僕が家に帰る時も学校の友達は仲がいいように見えて、僕にはずっと疑問を投げかけて来る。そうやって、ずっと同じことばかり言われながら過ごしていると、みんなとの距離を置くようになってくる。
微妙な年齢、微妙な境界線……それが中学二年生男子。僕はこれからどうしていけばいいんだ。どうやってこれから――
公園で出会ったお姉さんとはあれ以来、会えていない。あの公園に行った所で、あの人がいるとは限らないのに……僕の行くところはそこしかないのだろうか。
小学校の違う僕を知っている同級生は中学にはいなくて、ずっと僕には行くところがない。友達は学校の中だけの友達。家に行って遊びに行くまでの友達になれていない。
頼れる存在が僕にはいない。誰にも話せない、誰とも仲良しになれない。そして僕は、心を閉ざして行く――
そんなことばかり思っていると、それまで友達だった同級生たちは違う存在を除けようと思い始め……僕は、その”対象”になった。
帰り道、僕は一人で誰もいない家に向かって歩いている。そんな僕を数人の同級生たちが茶化してくる。いつものように、いつもの言葉で僕に向かって投げられる言葉の数々……ただ下を向いて歩き続けるしかない僕。
「ケントは親なし~心なし~! へっへー可哀相な奴ー」
こんなことを言って来るのは同じ男子しかいなく、女子は僕のことを見ようともしていない。これが僕の毎日。両親のいない家のあるこの街にどうして僕は帰って来たのだろう……
同級生たちに言葉責めをされながら、僕はあの公園へ逃げ込んだ。ここに来たからと言って、どうなるわけでもないのに。
「ケント、お前の親はどこにいるんだよ? なぁ、言ってみろよ!」
「知らないよ」
「お前、生意気。そろそろ言葉だけじゃ効かないかな? 叩いたら痛いぞ~? 痛い目見てみるか?」
そうして言葉に飽きて来た一人が僕に向かって、手をあげようとした時だった。
「おいこらぁ!? お前ら一人によってたかってだせぇことしてんじゃねえよ! どこ中よ? このお姉様がお仕置きしてやろう。さぁ、どいつでもいいぜ? かかって来いよ!」
「ひぃっ……白衣ババアだ。に、逃げろ」
「おい、誰がババアだ! お前ツラ覚えたからな!!」
同級生たちを追い払った人は、病院で見るような白衣を着ていた。イメージとは程遠い、男っぽい言葉を使っているのが印象に残った。不思議と怖い感じは受けなかった。
「さて、キミ、大丈夫だった? ひどいね、あいつら。全く最近のガキはタイマンが出来ないくせにイキがってる奴多くて、嫌になるよ。キミ、お名前は?」
「僕の名前は……ケント。真野犬人……お姉さんは?」
「えっ……お前……け、けんと? お前だったのか……まさかこんな」
どうしたんだろう。僕の名前を聞いて白衣のお姉さんは驚きと戸惑いが交差しているみたいだ。僕のことを知っている? それはいつの僕?
「お姉さんの名前は?」
「美青だよ。美しい青と書いてミオ。私は西川美青! けんと、よろしくな!」
「ミオお姉さん?」
「おぉぉ……!! まさかの萌えがわたしの言葉から出てくるとは……お姉さんか、なんていい響きなんだ……! けんとからお姉さんと呼ばれる日が来るなんて。あぁぁぁ……萌え死んじまう」
ど、どうしたのかな? 僕を見ながら照れながらも嬉しそうに見つめているなんて。僕はお姉さんとは初めて会うのに。お姉さんは僕を知っている……いや、知ってたみたいに言ってる。
「ミオお姉さん、僕を助けてくれてありがとう。でもその格好でどうして公園に?」
病院はここの近くには無いし、それともいつもそんな格好なのかな?
「えーと……(タバコを吸いになんて言えねえ)きゅ、休憩にね」
「そうなんだ。病院の中じゃ休憩できないほど居心地よくないの?」
「そうじゃねえよ! そうじゃないよ? 外の空気を吸いたいから、だよ。それより、けんとは、何であんな目にあってたんだ? もしかして、学校であんな目にあってるのか?」
「――んと」
「お前、やり返さねえのかよ? そんな弱い奴じゃないはずだろ……あ、いや、男は黙ってやられたら駄目なんだぞ? どうしてだ?」
「僕は家に一人ぼっちなんだ。親もいないし……僕には誰も頼れる人がいないんだ。だから、友達も作れないんだ。共通の話も遊びも、ゲームも何もないんだ。だから……僕は一人なんだよ」
「(あぁ、やっぱあたしが引き取ってやれればよかったな……)そ、そうか。で、でも家の中のことは誰かがやってるんだろ?」
「叔父さんが時々来るけど、話し相手にはなってくれないんだ。忙しいみたいだから……。それに、僕は中学以前の記憶が無くて、何も思い出せないんだ」
「そうか……そうか」
「え、お姉さん……?」
白衣を着たお姉さんは僕を包むように抱き締めて来た。突然でびっくりしたけど、どうしてだろう……何だか懐かしい気がする。優しさと微かなタバコの臭いが僕を落ち着かせてくれた気がした。
「なぁ、ケント。あたしがお前を守ってやるよ! 今、学校で大変な目にあってんだろ? あんなガキどもにお前が黙ってやられてんの見てると、どうにも昔の血が騒ぎまくって収まりがつかねえ。だから、ケント! このミオセンセー……いや、ミオお姉さんを頼れ頼れ! さっきお前は誰も味方がいないとか言ってたが、今、出来たぜ? いつもいつも頼っちゃ駄目だぜ。一応あたしは医者だしな」
「ミオお姉さんを頼りに……?」
「おぅよ! あたしを頼りなって! ほら、これで少しだけ気が楽になったろ? ケントはもう、1人じゃないよ。だから、少しずつでいい、心を開いて……ね? 約束だよ、ケント」
そう言った白衣のお姉さんは僕と握手を交わした。約束……うん、少しずつそうなっていけるように、僕は頑張って行けたらいいな――