九十九話 大きくなりました
長身で細身。切れ長の瞳でこちらを見つめる優男。それがクロノスくんの今の姿でした。
成長したせいか、着ている服がいつもと違うものでした。おそらくですが、軍服でしょう。かっちりした軍服に長い髪を首の辺りで一つにくくっているので、見ようによっては男装の麗人にも見えます。
ここまで変わり果てた姿の人をクロノスくんだと判断した一番の理由は、しゃべり方です。それと私の呼び方ですね。なんとなく面影はあるような気もするのですが、違う人だと言われればそんな気もします。
判断材料に乏しかったですが、他に候補もいないのでクロノスくんだという体で話すことにします。
「私になにか用ですか?」
「小生と戦うであります!!」
しゃべり方で判断していたのですが、こうやって聞くとしゃべり方もちょっと違いますね。いつものクロノスくんは舌足らずで発音がちゃんとできない言葉が多いのですが、目の前のクロノスくんはずいぶんと発音がハッキリしています。
「ええと、クロノスくん、ですよね? なぜあなたと戦わなくてはいけないんですか?」
「小生に勝たないと、先へは進めないでありますよ!!」
それは私の理由であって、クロノスくんの理由ではないはずですが……その辺がわからないということは、やはり操られているのでしょう。クロノスくんはなんだかんだで賢いですから、普通なら自力で気づくはずです。
ですが、クロノスくん相手に戦うのは正直勘弁してほしいです。だって、クロノスくんって時間止められるんですよ? 数秒とは言え時間止められるって、チートにもほどがあるじゃないですか。
いくら私がそれなりに魔法が使えるとは言え、時間を止める力を持っている相手に勝てるわけがありません。その気になれば、瞬殺されてしまいます。
そんなわけで慎重に出方を窺っていると、クロノスくんはなぜか背中に背負っていたずだ袋を地面に下ろしました。
なにをし出すのかと思っていると、中から引っ張りだされたのはトランプでした――って、トランプ!? え、ちょっとどこから出した、というかどこにあったんですかそれ!?
私がポカンとしていると、クロノスくんがディーラー顔負けの手さばきでカードを配り始めました。なぜか、三人分。
「やるのは大富豪であります!!」
「いえあの……なんでです?」
勝負内容がトランプの時点で肩すかしというかどうしたらいいのかわからないのですが、しかもなぜチョイスが大富豪なんでしょう。関係ないですが、私は大富豪呼びですが私の周りは大貧民派の方が多かったんですよね。
私の疑問に、クロノスくんの方こそ不思議そうでした。
「? 勝負をしないと先に進めないからでありますよ?」
「そうではなくてですね、どうしてやるのが大富豪なのかと訊いているんですよ」
「あとなんであたしまで勝負することになってるんスか? あたし大富豪ってキライなんスけど……ていうかババ抜き以外のトランプ苦手ッス」
ルナちゃんまで疑問を呈して来ましたよ。それにルナちゃんの場合、もしや頭を使うゲーム全般が苦手なのでは?
なぜよりにもよって、ローカルルールが多くて面倒な大富豪なのかが不思議なんですよ。もっと簡単なものがあるでしょうに。
「むむむ……大富豪がイヤであれば、ポーカーでもいいでありますが」
「まあそっちの方がマシではありますが……いいんですか? 勝負の内容が本当にトランプで」
「男に二言はないであります!!」
よくわかりませんが……クロノスくんがそれでいいと言うのであれば、私としてはポーカーの方がありがたいんでポーカーにしましょうか。大富豪なんてやった日には、ルナちゃんがとんでもない引っ掻き回し方しそうなんですもん。自分で革命しといて、自分で困ってそうなのが目に浮かびます。
三人でポーカーをやってもよかったのですが、やはりディーラーがいた方がいいのでルナちゃんにディーラーをお願いすることにしました。配り方は教えたので、おそらく大丈夫だと思いますが……
一度配られたカードを回収し、ルナちゃんはちゃんと五枚ずつ私とクロノスくんに配り直してくれました。
「で、このあと二枚チェンジするんスよね!?」
「違いますって。私たちが変えたいカード渡すので、それと同じ枚数渡してくれればいいんですってば」
「了解したッス!!」
大丈夫ですかねぇ……すごく心配です。
とりあえず、まず私に配られたカードはKが二枚の10、9、6。柄がそれぞれクローバー、スペード、スペード、スペード、ハートでした。
ワンペアですか……微妙な手ですねぇ。これなに狙ったらいいのか、わからなくなるやつですよ。ワンペアあるのでそれを捨ててまでストレートは狙いにくいですし、フラッシュも難しいです。だからと言って残り三枚変えても、いいのが来るとは思えませんし……
「ちなみにクロノスくん。これって一発勝負ってことでいいんですか?」
「そうであります!!」
うーん、一回勝負ですか……それだと仕込みもできません。そうですね。もういっそのこと、ここで負けたら実力行使で行きましょう。不意をつけば、どうにか……卑怯なので、あまりやりたくないのですが。クロノスくんを倒さねば話が進まないとなれば、どうすることもできません。
「全部チェンジで」
「あいあいッス!!」
勝負をあきらめた私は、面倒なのでオールチェンジを選択。それを見ていたクロノスくんはといえば、ノーチェンジを選択しました。
「「勝負!!」」
攻撃するために身構えながら出した手は。
クロノスくん、ツーペア。私、フルハウス。
「な、なんかすみません……」
完全に運だけで勝ってしまった私は、申し訳なく思いながら固まるクロノスくんに謝ったのでした。




