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九話 一難去ってまた一難って、誰が考えたんでしょうね? 1

 目を覚ますと、足元に白い布で覆われた人間が転がっていました。


「って、え!? なんですかこの状況!?」


 私の記憶が確かであれば、寝る前はこんなことになっていなかったはずです。って、寝たのは五十年ほど前なんですから、そりゃそうですよね。見たところ転がっているの、若い娘さんのようですし……多分、割と最近の出来事かと。


 そんな推理をしていると、シルフさんがどこからともなく現れて、困った顔でこちらを見ていました。


「おはようございます、ミーシャ様。その、ご覧の通り、大変な事態になっておりまして……」


「そのようですね……何があったか、わかることだけでも話していただいてもいいですか?」


 そんなわけで聞いたシルフさんの話によれば、どうもこの子は近所に住む村の子らしいです。ついさっき、白い布で首から下を覆われた状態でここまで運ばれて来たようですね。その布が妙な感じにめくれ、布に覆われて見えたようです。


 娘さんは、見たところ十五歳くらいでしょうか。顔の一部と足元しか見えないので、完全なる推定ですが。


 美容院で髪を切られる時のような恰好になっており、なぜか両足を縄できつく結ばれています。どこからどう見ても、事件の臭いしかしません。……ん? 見るなら臭いはおかしいですね。事件の気配……?


 まあそれはどちらでもいいのですが、とにかく事件です。婦女誘拐事件。


 少々悩みましたが、娘さんの前に姿を現すことにしました。透け透けの状態で実体がありませんので、触ることはできませんが。


「もしもし、お嬢さん、起きてください」


 どう声をかけていいのかわからなかったので、変な声のかけ方をしてしまいました。ですが聞こえてなかったようで、反応がありません。


 やっぱり、実体がないのは不便ですねぇ……


「シルフさんって、要は魔力の塊なのですよね? あなたは実体あるのですか?」


 隣で見ていたシルフさんに訊いてみると、返って来たのは困惑気味の眼差しでした。まさか自分に振られるとは思ってもみなかった、って顔です。


「本来はないのですが、少しの時間でしたらマナの密度を上げれば可能です」


「でしたら、その子を起こすのをお願いしてもいいですか? 私には実体がありませんから、できないみたいで」


「ミーシャ様のお願いでしたら、たとえ火の中水の中草の中森の中ですよ!」


「ええと、後半二つは忘れてください」


 とても聞き覚えのあるフレーズですが、色々とまずそうなのでそれ以上は自粛の方向でお願いしたいところです。そう言えば前に、そんな話もしましたね。くだらない話でもキッチリ覚えてしまうので、話す内容は吟味すべきみたいです。


 私のお願いを聞き入れてくださったシルフさんは、目をつむって深呼吸をしました。するとシルフさんの体内のマナの流れが変わり、中心に集まって行くのが見えます。ほんの数秒で、シルフさんの気配が濃くなったのを感じました。どうやらそれで、実体を得ることに成功したみたいです。


 実体を得たシルフさんは、厳しい目つきで娘さんの頭にチョップを喰らわせ、ってえぇっ!?


「おい、起きろ人間! ミーシャ様の御前で、不敬であるぞ!!」

「シルフさん!? そんな起こし方をしてくれとは頼んでませんよ!?」


 ら、乱暴すぎますよ!! 他に起こし方あるでしょうに!!


「も、申し訳ございません。ですが、人間など起こしたことがございませんので、加減が……」


 そういう問題では……って、冷静になって考えてみれば、この方々って人間じゃないんでした。起こされるという経験自体、存在しませんよね。多少は大目にみましょう。


 今度常識という観点からの話もしようと心に決めていると、それまでピクリとも動かなかった娘さんに変化がありました。


「う……」


 もぞりと動いたかと思うと、どこか夢うつつの様子で上体を起こしました。それからぼんやりとした瞳で辺りを見回すと、すぐ横で実体化するシルフさんと目が合ったようです。


「あ、あなたはまさか、ウワサの女神様……!?」


「わたくしごときが女神様など、恐れ多い!! 我は女神ミーシャ様の右腕、シルフである!!」


 あの、シルフさん? 私はあなたを右腕扱いしたことは、一度もないのですが。確かに一番長くそばにいてくれて、世話も焼いてくださるので間違ってはいません。まあ、害があるわけではないので否定はしませんけど。


 そんなことを考えている間に、娘さんは私の存在を認識したようです。


「ももも、申し訳ございませんでしたっ!! 知らなかったこととは言え、とんだご無礼を……!!」


 大慌てで土下座されましたが、格好が恰好なのでどことなく滑稽です。ただの土下座でも困るのに、こんな面白土下座されたらもっと困るのですが。


「あの、顔を上げてもらってもいいですか? その体勢でいられると、話し辛いです」


「で、ですが……」


「大丈夫です。私は全く怒ってませんから、普通に話しましょう」


「さ、流石は女神様、慈悲深い……!! それでは、お言葉に甘えさせていただきます」


 そう言って、娘さんはゆっくりと顔を上げました。


 なかなか整った顔立ちの美人さんです。少し目つきが鋭いですが、それがいかにもクールビューティーという雰囲気を醸し出しています。


 髪の毛はなんと桃色で、まさに異世界! って感じです。くせっ毛なのか、あちこちがぴょこぴょこと跳ねているので、目つきは鋭いのにどこか抜けた感じです。これで黒髪ロングとかなら、完璧なクールビューティーなんですけどねぇ。


 首から下を覆う白い布のせいで、服装はよくわかりません。


 ともかく、面を上げた娘さんですが、どことなく怯えているように見えます。それも、私を。私に怖がられるような要素って、ないと思うんですが。見た目だけなら、パーフェクト女神ですし。ていうか、そうなるように作りましたし。


 そんなわけで不思議に思っていると、娘さんから衝撃的なひと言が。


「こんなに慈悲深い女神様であるならば、どうか自分の命だけで許してください!!」


「……はい?」


 よくわかりませんが、何やら厄介事が起こることだけは間違いない予感がビンビンします。


 話が長引きそうですので、続きはCMのあとで! って、できたら楽なんですけどねー……


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