七話 私の生態って、どうなってるのでしょう?
目が覚めると、前回からおよそ五十年経っていました。
「うーん、最近大体五十年単位で寝たり起きたりしてる気がします」
私の記憶が確かならば、最初は数年単位で起きて寝てを繰り返していました。ですが最近、それが五十年単位に伸びているのです。これは寝すぎなのか違うのか、一度調べておいた方がよさそうですね。
「あ、おはようございますミーシャ様!! 本日も、ご機嫌麗しゅう」
「おはようございますシルフさん。何か私の眠っている間に、変化はありましたか?」
「ダークウルフの方々なのですが、一部が完全に二足歩行で生活するようになりました。それと、同じ現象の起こった種族がいくつか。ミーシャ様が前にお伝えした通りのことを伝えたところ、みな安心して帰って行きましたが」
「そうですか、ご苦労様です」
「滅相もございません!! わたくしはミーシャ様のお役に立つことこそが、至上の喜びなのですから!!」
うーん、毎度のことながら、この人大げさななんですよねぇ。悪い方ではないのですが、時と場合によってはちょっぴり疲れます。もしシルフさんがイケメンか美少年、はたまた美少女なら癒されたんですがねぇ。
残念ながら、シルフさん女性なんですよね。もし癒しを精霊の方に求めるのであれば、適任はおそらくウィルちゃんかシェイドさんでしょうか。それから別枠でノームちゃん。今度、少しお願いしてみましょう。
そこでふと、疑問が湧いて来ました。当然のことですが、シルフさん含め、精霊の方々は私が寝ている間も活動しているわけです。他の方は自由に過ごしているでしょうが、シルフさんはどうしているのでしょう?
「そう言えば、シルフさんって私が眠っている間は何をしていらっしゃるんですか?」
何の気なしに訊いてみると、シルフさんはいつも通り馬鹿真面目に考え出しました。
「あの、雑談のつもりで適当に答えてくれていいんですよ?」
「ミーシャ様の疑問に、適当な答えなど返せるはずもございません!!」
「え、ええと、適当には適度に、という意味もありますので、そっちを採用する方向で答えていただけますか」
こう言って、ようやく答えてくれました。
「ミーシャ様に悪い虫がつかないよう見張ったり、人間の様子を見たりしています。後はミーシャ様が起きている時に報告することを考え、相談に来る者がいれば出来る限りミーシャ様のご意思に沿うように相談に乗りますね」
「すみません、なんか苦労かけているみたいで……」
悪い虫は、恐らく本気で昆虫でしょうね。今この世界に、私に言い寄ろうとするような存在がいるわけないですから。
「これはわたくしが好きでやっていることですので。ミーシャ様がお気に病む必要は、これっぽっちもございません」
そうだとしても、けっこう申し訳ないです。今度、何かお疲れ会的なものを開くとしましょう。
さて、いつものシルフさんについてはわかりました。いい機会ですから、他にも色々訊いてみましょう。
「いつもありがとうございます。では、ついでに教えて欲しいのですが、私が眠っている間ってどんな感じなのですか? なにぶん寝ている間のことなので、よくわからないんですよ」
起きる度に足元に大量の枯葉が積もっているのには驚かなくなりましたが、それがいつ積もったのか少し興味があったんですよね。
私の質問に、シルフさんは少し困った顔をしていました。
「ええと、なんと言えばよろしいのか……ミーシャ様は、自分のお体のことをどれくらい理解しておいででしょうか」
「ほぼ何も。一年ごとに年輪がキッチリ増えることと、すごい量の枯葉が出ることくらいしか」
一度寝ないで頑張ろうとしたことがありますが、ムリでしたからねぇ。
「では、僭越ながら答えさせていただきます。まずミーシャ様は完全に眠りに落ちる直前、それはそれはお美しい花をいっぱいに咲かせるのです」
「花、ですか」
「ええ。薄紅色の、丸く可愛らしい花が咲き誇る姿は、この世のものとは思えぬほど美しいものです」
ちょ、ちょっと見てみたいです……!! けど寝てる時のことでは、どうにもできません。何か方法を考えてみましょう。
「そのあとどうなるんですか?」
「その花は四十年ほど咲き続け、それから葉とともに五年かけ散ります。その後、更に五年かけて新しい葉が生い茂るのです。新しい葉が生えそろってから、ミーシャ様はお目覚めになることが多いですね」
「なるほど……」
シルフさん、しっかり見てますね。とてもありがたいです。まあ、見方を変えてみると、ストーカー気質だということでもあるのですが。シルフさんに訊いたら、私の知らないクセとか把握してそうで少々怖いです。
「ありがとうございます、シルフさん。こうしてみると、私あまりお仕事していないですねぇ」
「めっそうもございません!! ミーシャ様は、常にお仕事をされていらっしゃいます!!」
「え、そうなんですか?」
そんな自覚は一切ないですが……
「はい。ミーシャ様は眠っていらっしゃる時も起きていらっしゃる時も、地中から生命力を吸い上げ、世界中に広めているではありませんか!! 確かに、眠っていらっしゃる時は、その量が減っておりますが……」
「そんなことしてたんですね私」
完全に無自覚でした。ということは、一応は世界樹としてのお仕事をしていることになります。ニートではないのです。それに割と安心しました。
このまま、何事もなくスローライフ的な生活が送れると、私的には万々歳なのですが。