六十四話 巣は巣でも……
シンデレラスワンのピィアさんを追いかけること、およそ三分。ギリギリで追いつけないものの姿が見える位置まで行けた私たちは、ピィアさんの着地点に首をかしげました。
「ここは……どう見ても、水なんて一切ないですよねぇ……」
ピィアさんが着地したその場所は、なぜか砂漠でした。前にダンジョンが建設された近くで、この近所に水場がないことはよく知っています。なぜ水場に住むはずのシンデレラスワンであるピィアさんが、こんな場所に着地をしたのでしょう?
私の記憶が正しければ、ここにはオアシスはあるもののだいぶ離れた地点のはずです。少なくとも、キロ単位は離れていたかと。
全員で首をかしげていると、着地したばかりのピィアさんの姿がフッとかき消えたではありませんか。
「え、どこ行きました!? ピィアさんのあの巨体で、見失うわけが……」
「んー!! んー!!」
驚いていると、どこからかくぐもった声が聞こえて来ました。隣を見れば、なぜか自分で自分の口をふさぐルナちゃんが。
「どうしました?」
「ん、んんん、んー!!」
「いえあの、どうしました? なにが言いたいのかわかりませんよ?」
「んーうー……」
なぜか困った様子を見せるルナちゃんにむしろこちらが困っていると、そばにいたクロノスくんにそでを引かれました。
「どうしました? クロノスくんもなにか気づいたんですか?」
「え、ええとあの、ミーシャさま。きっとルナさまは、さっきミーシャさまにだまっていたらまほーを教えてくれるといわれたから、いまもだまっているのだと思われるであります」
「あー、言いましたねぇ……それで黙ってるんですか?」
無言のままこくこくとうなずくルナちゃんに、なんだかがくっと身体の力が抜けました。
言いました、言いましたけどね? それはずっと黙っていろと言う意味ではなかったんですよ。余計なことを言うなという意味で言ったんですよ……
「ルナちゃん、ピィアさん相手でなければ普通にしゃべって大丈夫ですから。なにかあったなら話してもらってもいいですか?」
そう訊いてみると、ルナちゃんはビシリと遠くの砂山を指さしました。
「ぷはっ、センパイあれッス!! その、ええと、ピーピーさんあれじゃないッスか!?」
「ピーピーじゃなくてピィアさんですが……って、え?」
ルナちゃんが指さした方を見てみますと、そこには小さな人影が。
灰色の腰元まである髪の、白くフワフワなドレスを着た十七、八歳の少女がそこにはいました。後ろ姿なので少女かどうかはわからないはずなのですが、なぜか少女だという確信がありました。
「もしかしてあれ、ピィアさんですか……?」
状況的にはそうなるでしょう。けれどピィアさんが人間になっているとは……
「たぶんそうッス。ピーさんの消えたあと、同じ場所にいたッス!!」
「伏字みたいな呼び方が気になりますが、ルナちゃんよく見てましたね」
「えっへんッス!!」
とすれば、ピィアさんは人化の魔法を使えることになります。まさかそんな魔法を使うことのできる生物が自然発生するとは、思ってもみませんでしたよ。
ジッと見ていると、灰色の少女は溶けるように消えたではありませんか。
ですが、今度は私も見逃しませんでしたよ。灰色の少女の周りで、魔力がうずまくのが見えました。しかもそのあと、砂山にも魔力がうずまいていたということは、おそらく……
「あそこに、秘密の入口かなにかがあるみたいです」
全員で注意をしながら砂山に近づくと、そこでかすかにおかしな力が働いているのを感じます。私たちがいつも使ってる魔法とは、若干違うみたいです。どうも変わったアレンジがされています。それとも、人間や私たちが使う魔法と、他の生物が使う魔法は少し違うんでしょうか。
まあとにかく、解析してみましょう。
「ふうむ……うん、これなら解呪できそうです。ちょっと待ってください」
およそ十秒ほどかけて、砂山にかけられていた魔法を解きます。するとそこに現れたのは、一つの扉でした。
茶色い木でできた、重厚な扉です。なんとなく、板チョコに似たデザインをしています。窓などはついていないので、開けてみないと中の様子はわからないみたいですね。
「砂山にくっついてるみたいですね……というかこの砂山、触っても崩れませんね。ということは、この砂山見せかけだけなのかもしれないです」
「大丈夫ッスよ! どっちにしろ入らないと中わからないんスから、ここはどーんと中に入ってみればいいんスよ!! それで解決ッス!!」
「え、あのルナちゃんちょっと!?」
私が止める間もなく、ルナちゃんは現れた扉をためらうことなく開け放ちました。
「ちわー、お邪魔するッスー!」
そんな国民的アニメの酒屋のようなかけ声で中に入ったルナちゃんに続き、仕方なくあとへ続くと。そこに広がっていたのは、異様な光景でした。
中にあったのは、十畳ほどの簡素な土間のある部屋。そこにはヤカンがかけられ、なにやら料理のいい匂いもします。そして極めつけに。
疲れた顔であぐらをかいて座るシェイドさんの口元に、小さなスプーンでなにかの料理を運ぶ灰色の美しい少女の姿でした。




