六十一話 大きい方って、どんな方なのでしょうね?
みんなで一度私の本体である世界樹まで帰った、その翌日のことでした。
「それではみなさん、闇恵山に出発――」
「すみません、ミーシャ様。ウィルから連絡が来ました」
出発しようとあくび交じりでぼんやりしているクロノスくんとルナちゃんを起こしていると、シルフさんがやたらと真剣な顔でストップを出しました。
「連絡……昨日の今日で、なにかあったんですか?」
よほど真面目な話なのか、シルフさんはいつもよりも長めに黙り込んでいました。次に口を開いた時、シルフさんの顔がくもっているのに気が付きました。つまり、なにかよくない知らせということです。
「ミーシャ様、その、今ウィルから連絡があったのですが……」
「どうしました? ずいぶんと難しい顔をしていますが」
「ええ、その、先ほどウィルがシェイドに今行っても大丈夫かと連絡したらしいのですが。どうも、シェイドがよくわからぬことに巻き込まれているようでして……」
「よくわからない? それはそんなに事態が複雑、ということでしょうか」
「いえその、ウィルの話がまったく要領を得ず……すみませんミーシャ様、一度シャイラーに向かってもらってもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ。私も詳しい話を直接聞きたいですから」
さて瞬間移動をしようと後ろを向けば、クロノスくんは目が覚めたように見えるものの、ルナちゃんが全力の二度寝を決行していました。
「ルナちゃん!! 行きますよ!! 起きてください!!」
「わかりましたよ……起きてます、だってほら、ここは銀河系の外じゃないですかぁ、だからあれです、クリームパンがあれば変身できて掃除機が倒せるんですむにゃあ……」
「ダメですこの子、完全に寝ぼけてます……!!」
まったくもって意味不明のことを言ってますよこの子。というかクリームパンでどうやって掃除機倒すんでしょう? 魔法少女の変身アイテムとかですかね? それ以前に掃除機を倒す理由が不明すぎますが。
「もういいです。ルナちゃんが寝てるままでも瞬間移動はできるので、強制的に発動させますね」
起きている二人に確認を取ってから、瞬間移動を発動させました。次の瞬間目に飛び込んで来たのは、オロオロと心配そうにそこいらをうろつくウィルちゃんと、困った様子であちこちに座り込むドラゴンたちでした。
「あ、ミーシャ様!!」
私に気がついたウィルちゃんが、困惑した様子でこちらに走り寄って来ました。
「おはようございます、ウィルちゃん。なにがあったのか、説明してもらってもいいですか?」
「は、はいですの。えとえと、さっきシェイ兄に連絡したのですの。そしたらどうしてかノイズが多くて……最後に『大きい』と『話していて』って聞こえただけで、あとはよく聞こえなかったですの……シェイ兄、大丈夫ですの……?」
「うーん……」
情報が少なすぎて、なんとも言い難いです。もう少しなにか情報がないと……
「その時、周りに誰かいるような感じでしたか?」
「はいですの。昨日言った人が、まだいるような感じでしたの。たぶん、その大きいしゃべるお友達の話をしてたですの」
となると、その大きしゃべる誰かが関わっていると見て間違いないでしょう。シェイドさんになにかあった原因なのか、それとも一緒に運悪く巻き込まれてしまった方なのかまではわかりかねますが。
「ここはやはり、直接行ってみるしかないでしょうね」
「大丈夫でしょうか。話を聞いているかぎり、シェイドはなにか事件に巻き込まれた恐れがありますが……」
「だとすると、よけいに行かないとです。ウィルちゃんがコンタクトを取っているのに返事ができないとなると、ピンチだってこともありえますから」
シェイドさん自体はけっこう強かったはずですが、それだって昔ちょっと顔合わせた時のぼんやりとした記憶の中でのことです。でもたしか、シルフさんといい勝負だったはずなんですよ。だとすると、戦闘面では心配しなくてもいいと思いますが……
どちらにせよ、ここでうじうじ悩んでいたところで解決はしません。
「では闇恵山に行くとして……問題はどうやって、というかどの辺りに行けばいいのか、なんですよね」
なにせ目的地が山ですから、高低差がかなりあります。ジェンさんに聞いたところ、ここにはジェンさんや他数体のドラゴンが多数の結界を張っているらしく、呼吸するのに問題はないらしいのです。ですが闇恵山は広い山ですし、全体にそんな結界が張っているとは思えません。
私は実体がないのでどこへ行こうと大丈夫なのですが、全員がそうであるともかぎりません。シルフさんとクロノスくんは精霊なので同じく大丈夫でしょうが、問題はまだ寝ぼけている様子のルナちゃんです。
ルナちゃんも一応は神扱いみたいですが、私たちと違って実体があります。いえ私の場合、正確に言えば実体そのものは世界樹なのでまた話は違うのですが。
とにかく問題なのは、ルナちゃんの存在ベースがウサギだというところなわけです。
昨日夜になったら普通に寝ていたことも、その前にキッチリ夕食を食べていたことも併せて考慮すると、強さはおいといて肉体はウサギ準拠だと思われます。ウサギは基本的に夜行性というか、早朝などの中途半端な時間に一番活発になることの多い生物のはずなので夜に寝てるところにツッコミたいにはツッコミたいのですが……まあ、元が人間ですから仕方のない部分もあるでしょう。
どちらにせよ肉体がしっかりと存在してるルナちゃんが突然結界もなにもない高所に行けば、高山病を起こしかねません。
これについては、昨日あとで反省したんですよ。私ベースで考えていたため急に瞬間移動とか使ってましたが、肉体があるルナちゃんがいるのであれば、移動先のことも考えて使うべきでした。でもこれでここに留守番とかになったら、ルナちゃんあとで怒りますよねぇ……
「こうしましょう。とりあえず、もう一度瞬間移動で少し先の下に降ります。そこから徒歩で闇恵山を目指しましょう。そこからなら、歩いても一時間かからずにふもとまでたどりつけますから。ふもとまで瞬間移動で行くと、近くに魔物がいても
察知できませんからね」
というわけで、一度下に降りることになりました。さてここで最大の難関として立ちはだかるのは、今度は抹茶を倒すためにヘアスプレーの一気飲みをしようとか言い出したルナちゃんを、どうやって起こそうかということなのでした。