六十話 この結果は望んでいなかったのですが……
「女神様、自分これから女神様の舎弟にならせていただきます、なんなりとお申し付けくださいませっ!!」
「え、えぇ……」
すべての白刃を消し去ったあと、涙目のクロコさんに全力土下座をかまされました。ドラゴンなのに、ずいぶんとキレイな土下座です。ウロコのせいで、人間がするより辛そうなんですが……
あの、別にそこまでしなくてもいいんですけど……罵倒したみなさんに謝っていただければ、私としてはそれでいいんですが。ここまで過剰に反省しなくてもいいんですよ?
「あのクロコさん、私は別にですね――」
「なんでしょう女神様!! 女神様のためであれば、どんな敵も打ち倒してみせましょう!!」
「いえあの、別に倒してほしい敵はいないので――」
「ではなにかお持ちしましょうか、なんなら世界の果てにしか咲かないという死者をもよみがえらせる治癒力を持つ、ヴァルリアの花でもお持ちしましょうか!?」
「いえ必要ないので、私としては――」
「では自分イスになりますので、上にでもお座りくださいませ!!」
こ、この人、いえ人ではないんですけど、とにかくめんどくさいんですけど……!!
先ほどとは違う方向性で、とってもめんどくさいです。そして一切話を聞きません。これはこれでさっきと同じで、もうホントに困ります。
私がどうしたらいいのかわからず困惑していると、その様子を見かねたのかジェンさんが口を開きました。
「クロコ、お前はいつも他人の話を聞かなさすぎる。ミーシャ様が困っているだろう? 周りをもっとよく見ないか」
「え、ああぁ申し訳ないです女神様!! では自分は黙っています!!」
言うや否や、クロコさんは器用に爪の生えた腕で自分の口を塞ぎました。それっきり本当になにも言わなくなったので、おそらく根は素直な方なのでしょうね。
「本当に困ったやつだ……すみませんミーシャ様、なにからなにまでご迷惑をおかけしまして……」
「ああいえ、大丈夫ですよ。なんと言いますか、私もやりすぎてしまったわけですし……」
クロコさんの豹変ぶりを見れば、私のすえたお灸が効きすぎてしまったことは明白でした。さっき出した三日月型の刃物、念のために刃を潰してあったんですけどね……
そーっと後ろを見れば、シルフさんはすでに普通でしたが、それ以外の三人が固まっていました。ウィルちゃんもクロノスくんも涙目で、なんか心苦しいと言うかちょっと罪悪感が……どうやら、怖がらせてしまったみたいです。
よくよく見れば、あのルナちゃんですら黙って大人しくしていましたよ。それだけで、私のやりすぎ度がとっても理解できます……
「え、ええと、とにかくあれですよ! クロコさんの件は一件落着として、その、できればウィルちゃんに連絡を取ってもらいたいなぁと思いまして!」
「ふえう!? え、ええ大丈夫ですの、お任せするですの!!」
慌てたように居住まいを正され、なんか距離ができてしまったなーとさみしくなりました。あれですね、色々気を付けましょう。今後はもう少し自制して、あまり脅さないようにしましょうホント。これ以上、怖がられたくないですし。
できるかぎり笑顔を心がけて、ゆっくりとウィルちゃんに話しかけました。
「あのですね、この近くの闇恵山と言う場所に、シェイドさんが住んでいるようなのです。今から行こうと思っているのですが、先に連絡したいと思いまして。ウィルちゃんは確か、シェイドさんと連絡を取ることが可能でしたよね? 今から連絡を取っていただいてもいいでしょうか?」
「それくらいであればお安い御用ですの! ちょっと待っててほしいですの!!」
言うが早いか、ウィルちゃんは目をつぶってなにやら念じているようでした。シルフさんとは、だいぶ連絡の取り方が違うのでしょうか。割と時間をかけてから、ウィルちゃんはピコンとかわいらしく片手を挙げました。
「連絡取れましたの!! 今なら行っても大丈夫なのですけど、他にお客さんが来ているそうですの!! その方は長く滞在するそうなのですが、それでもよければ、ということでしたの」
「お客さん? どんな方ですか?」
「それが、よくわからなかったですの。シェイドさんが言うには、なんか大きくてしゃべるそうですの!! ウィルはまだ会ったことない種族の方みたいですの」
「大きくてしゃべる、ですか……」
これだけでは特定するのはムリですね。ドラゴンだってこの定義に当てはまりますし、解釈の仕方によっては私も当てはまります。本体大きいですし、こうしてしゃべってますし。ではここは、会ってからのお楽しみ、ということにしておきましょうか。
「では行きましょう……って、ずいぶん日が傾いてますね。これから行ったとしても、紹介だけならどうにかなりそうですが……どうします、みなさん? 一度戻ってから日を改めるか、これから向かうか。移動手段は瞬間移動限定になりますが」
私が私本体の一部から百メートルから離れられないため、ここから帰る手段は瞬間移動限定になるんですよね。たぶん、ここに歩いて来ようと思ったらムリだったことでしょう。
「わたくしはいつでも構いません。しばらくの間は予定もありませんし」
「あ、あたしも大丈夫ッスよ!? センパイ様のお好きなようにしていただくでそうろうッスよ!!」
「あのルナちゃん、これまで通りでお願いします」
よほど怖がらせてしまったのか、ルナちゃんの目が泳ぎまくっています。頑張って敬語を使おうとしたようなのですが、使い慣れていないせいで謎言語化してますし。
ブンブンとうなずくルナちゃんに苦笑いを返してから、最後に残ったクロノスくんに目を向けました。すると、とても申し訳なさそうにおずおずと切り出しました。
「あ、あの、しょーせーはかえりたいであります。その、しょーせーはあのどーくつで以外では、まだ周りのじかんを止めずにねむれないのでありまして……」
「そうでした、その問題がありましたね。では今日のところは戻って、明日改めて出直しましょう。ウィルちゃん、シェイドさんにそのように連絡しておいてもらっても大丈夫ですか?」
「大丈夫ですの!! ちゃんと伝えておくですの!!」
そんなわけで、今日のところはひとまず帰って、改めて明日行くことになりました。