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六話 進化にもいろいろあります

「あ、あの、少々よろしいでしょうか!!」


 珍しく慌てた様子でやって来たのは、何やら後ろに真っ暗なオオカミっぽい生物を連れたシルフさんです。


「どうしましたか?」


「ええとその、なんと言えばよろしいのか……わたくしごときではなんとも。こちらのお話をお聞きください」


 シルフさんに前へと押し出されたオオカミさんは、とても困惑した顔で平伏しました。


「お、俺っち、いえわ、わたしは近くの森に住むダークウルフの長を務めておりやす、ああえっと――」


「いいですよ、普通に話していただいて。その方がわかりやすいです。あと、跪かなくてもいいですよ」


「す、すいやせん。ではお言葉に甘えやして」


 ふぅ、と息を吐いたダークウルフさんは、私の言葉を聞いた途端ひょいっと立ち上がったではないですか。


「ええと、話って言うのはこれのことでして……最近俺っち達ダークウルフの間で、こんな感じで人間っぽくなっちまってるやつらが増えて来てるんでい」


「言われてみれば……どことなく人間っぽい気もしますね」


 二本足で立ち上がってますし、前脚も五指が発達して来ております。


「あなた、お名前は?」


「こ、これはとんだご無礼を!! 俺っちの名前はガオラって言いやす!!」


「いえ呼びかけ辛かったので訊いただけですから……それでガオラさん。その現象に心当たりとかありますか?」


 私の質問に、ガオラさんは真剣な顔で頭を抱えます。ですが何も思いつかないのか、しょんぼりと首を横に振りました。


「申し訳ございやせん。心当たりなんざこれっぽっちもないんですわ。人間に近づいたとか、人間ばっか食べたってこともねーですし……人間と交尾したってわけでもなく……」


 交尾と来ましたか……いえまあ、確かにそうすれば人間の遺伝子を持つ子供が生まれても説明がつくと言えばつきますけども。たぶん、オオカミと人間ではムリかと。この世界じゃどうか知りませんが。


「つまり全く心当たりがないのにも関わらず、気づけば人間の特徴を備えたダークウルフさん方が増えていると言うことで、間違いないでしょうか?」


「へ、へえ。そう言うことでさ」


 ふむ、困りました。いえ正確に言えば、困ったというほどではないんですよね。正直に言いますと、ダークウルフさん達が全員人間のようになったからと言って、何か実害が出るところを想像できないんですよ。そのせいで、あまり困れないんでしょうね。


 ガオラさんは緊張した面持ちで、視線をさまよわせていました。そんなところも、かなり人間っぽいです。


「んー、一つ提案なのですが、走査魔法を使ってもいいですか?」


「そうさまほう……?」


「ええとですね、ガオラさんの体の構造なんかを調べるための魔法です」


 これも前に暇な時に作った、魔法の一つです。まあ作っていなかったとしても、たいていのことが今の私には魔法でできるみたいですから、即興でもいいんですけどね。


 私の提案にガオラさんは頭を悩ませていましたが、体に影響がないならという条件付きで、使ってもいいということになりました。


 そんなわけでさっそく、走査魔法を使ってみます。


 すると私にだけ見える形で、いくつもの数値が羅列されていきます。あっという間に視界いっぱいを埋め尽くすほどに出て来た数字のうち、必要なものだけをえり分け、解析してみました。

 この解析も、魔法頼みです。もっと自動化できると便利なのですが、そうすると一度魔法の細分化が必要になって来るんですよね……大枠で作っちゃうと、あとで応用しづらいですし。


 面倒ですが、今はとりあえず解析魔法で解析してみます。


「ええと……特に問題はないですね」


 肉体の構造などを含めたあらゆる身体データを解析してみたのですが、どれもこれも異常なし。オールグリーンの健康体です。


「も、問題ない……だ、だったら、これはいったいどういうことで……?」


「有体に言ってしまうと、進化ですね」


「しん、か……?」


 ダークウルフさん達には馴染みのない概念なのか、理解できない様子で固まってしまいました。


 まあ生物が生まれてさほど経っていないこの世界で、進化の話はまだ難しいですよね。進化論とかないでしょうし。もちろんですが高名な偉人の方々も存在してないですから、まだ研究もされていないですものね。


「とりあえず異常がないことだけは確かですので、安心してください。進化は生物が生きてく上でもっと便利になろうとする働きですから、放っておいても大丈夫ですよ」


 進化の方向を間違えて、すごくとんがった謎生物になることもあり得るのですが……これは今、話す必要はないですね。怯えさせるだけになってしまいかねません。


 ガオラさんはしばらくポカンとしていましたが、問題がないことを保証されたことは理解してくれたようで、ホッとした様子で帰って行きました。


「さすがミーシャ様! 鮮やかなお手並み、惚れ惚れいたしました‼」


「あはは……」


 相談されるのは得意な方ではないのですが、仕方ありません。これも世界樹の務めですから、受け入れるしかありません。少なくとも、私にも世界樹のお仕事が務まりそうなのはよかったです。

 普通に平穏に、のんびり何事もなく過ごせると、私的にはとてもありがたいなと思うのですけどね。


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