五十二話 交流を深めましょう
ルナちゃんのテンションに圧倒されたせいか黙り込んでしまった三人と会話をしてもらうために、とりあえず席を設けさせていただきました。前にロイヤルガーデンでやったお茶会みたいな感じです。
適当にそれっぽいセットを出すと、全員が席に着きます。人数が半端なため、切り株風の円卓を出してみました。これでお茶があれば最高なのですが、贅沢は言っていられません。魔法で食事を出すのはかなり面倒な手順を踏む必要があるので、今回は見送りました。
場所が世界樹に近いところから時計回りで私、シルフさん、クロノスくん、フィーマさん、そしてルナちゃんです。
「ええと、まずは私が眠っていた間のことを聞きましょうか」
「そもそもなんで寝てたッスか? 木って寝るんスか!?」
「すみませんルナちゃん。話が進まないので、その説明はあとでまとめてしますから勘弁してください」
そんなわけでルナちゃんのことはスルーで、この五十年間のことを聞きました。
「わたくしの方で、大きな異常は確認しておりません。人間の数が爆発的に増え、あちこちに国はできましたがこちらに接触して来た者は皆無でした。おそらく人間からすれば、近づくのも恐れ多いという考えなのでしょう」
「ふむ、なにもかも頼られるよりは健全ですかね」
フィーマさんの時のように、干ばつが起きたからと生け贄を捧げられるのが一番困りますし。自力で解決する方向に向かっているのであれば、私としては喜ばしいです。
シルフさんの次は席順的にフィーマさんです。
「わたしの方も、大きなものはありません。とても個人的なことになるのですが、四十年ほど前に子宝に恵まれました。今度機会があれば、連れて来ようと思っています」
「え、フィーマさん子供産んだんですか!? 女の子ですか、男の子ですか!?」
な、なんかすごい情報出ましたよ!? でも考えてみればそうですよね。結婚して五十年ですから、金婚式ですよ。そりゃ子供の一人や二人、余裕でいます。……なんだかおいていかれたみたいで、ちょっぴりさみしいですけどね。
「女の子ですよ。ミーシャ様からお名前をいただきまして、リーシャと名付けさせていただきました。それとリーシャを育てていて気が付いたのですが、どうやらエルフは十代半ばくらいまで人間と成長速度は変わらないようです。そこから老化するまでが、とてもゆっくりになるみたいで」
「なるほど、そういうタイプのエルフですか。ならまあ寿命も長いでしょうし、変化は乏しくなるかもしれないですね」
自分の名前をもじってつけられた子供がいるというのは、こう、くすぐったい気分です。ていうか照れます。今度王城に遊びに行った時にでも、そのリーシャちゃんに会わせてもらいましょう。
最後は、クロノスくんの番です。が、ここでクロノスくん困った顔をしていました。
「しょーせーはずっとどーくつにいたゆえ、くわしいことは知りませぬ。しょーせーにほーこくできるのは、修行のけっか、少しは力があつかえるようになったことくらいであります。すくなくとも、起きてても勝手にじかんがすすむことはなくなったであります」
「充分すごいじゃないですか! これで近所に暮らしても大丈夫ですね」
「そのことなのですが、寝るとじかんが止まるところはまだなおってないであります……」
まさしくしょぼーんといった様子で、クロノスくんはうつむいてしまいました。時間という大きな力は、扱いが難しいのでしょう。それでも起きている時に制御できるようになったのは、単純にいいことです。
「それなら、あの洞窟を寝床すればいいんです。それなら、周りに被害は及びません。起きている時は、いつでも遊びに来てください。待ってますから」
「りょーかいであります!」
とても嬉しそうに笑うクロノスくんは、ごく普通の子供のようでした。やっぱり子供はかわいいです。手の届く距離にいれば、頭を撫でまわしていたかもしれません。今度頭撫でさせてくれるか頼んでみましょうかね……?
こほん。これでここ五十年の報告は以上のようです。なら次に話題にすべきは、キョトンとした顔で話を聞いているのかいないのか、よくわからないルナちゃんのことです。
「それで先ほどもお話しましたが、この子は私の後輩にあたるルナちゃんです。どうもウサギの神獣らしいのですが、詳しいことはわかっていません。ルナちゃんは、吉田さんからどこまで聞いているんですか?」
「あたしが聞いたのは、異世界に転生して、そこにいる転生先輩に話を聞けってことくらいッス。あと、魔法があって精霊とかいるのは聞いたッス! ということは、アカシックレコードもあるってことッスよね!?」
「申し訳ありませんが、アカシックレコードに関しましてはなにも知らないです。少なくとも、私の認識範囲でそんなけったいなものを見たことはありません」
「ガーンッス!?」
ショックなのをわざわざ口で表現してますよこの子。それほどショックだったんでしょうか。
なにより重要なのはルナちゃんの話を聞いても、収穫はほぼなかったことです。つまり吉田さん、なにも話してないってことですよ。私の時と同じく、ろくすっぽ説明せずに異世界に放り込んだわけです。
説明もそうですけど、まずどうにかしなくてはならないのが精霊さんたちに紹介しなくちゃってところです。一応、神類ですし。
「ではまず、ウンディーネさんあたりのところから――」
「センパイセンパイ、あたしのこの姿って変えられたりしないッスかね!?」
人の話聞いてくださいよ……この子めっちゃマイペースですよ。もしや吉田さん、それがわかっててあんなに挙動不審な頼み方して来たんですかね? だとしたら次に会った時、一発くらい殴ってもいいですよね……?
今ここにいない吉田さんにはどうしようもできないので、仕方なく目の前のことからどうにかすることにしました。
「姿を変えることそのものは簡単です。魔法を使えばそれくらいわけないのですが……そうですね、説明も面倒です。ルナちゃん、頭の中でなりたい姿を強く想い描いてください」
「……できたッス!」
「では、三つ数えますよ。三、二、一!」
成功するといいなーと適当に念じながら、魔法を発動させました。内容は、ルナちゃんの想像する姿をコピペして今のルナちゃんに被せる魔法。言ってしまえば幻覚魔法に近いものです。
魔法の効果は、一瞬で現れました。
背の高かったルナちゃんはみるみる縮み、百四十センチそこそこに。茶色かった髪は白銀色に変わりながら、腰まで伸びました。どちらかと言えばキレイ系だった顔立ちは幼いものに変わり、それに合わせるように体型も完全に小学生レベルにまでなりました。瞳は血のような紅に染まり、丸くパッチリしたドングリ眼になっています。
最後に着ていた制服が人形しか着ないような、ピンクでふりふりのレースやリボンだらけの服へと変貌しました。この間、およそ十秒。
「できたッスか!?」
声を弾ませて尋ねるルナちゃんの前に鏡を出してあげると、大喜びで謎のダンスを披露しはじめました。
「やったッス!! これがあたしの理想の姿ッス! 転生バンザイ、異世界バンザイッスー!!」
くるくる踊るルナちゃんは、いつの間にか髪の毛を左右対照にちょこんと結ぶ、サイドテールにしていました。踊りながら髪を結うだなんて、すごい芸当です。それとも、まだ魔法の効果が残っていたんでしょうか。
さて、こうしてルナちゃんの姿は変わったわけなのですが。テンションがマックスまで上がってしまったルナちゃんを落ち着かせるのに、なんと三十分近くを要したのでした……




