四百二十九話 最近人を探してばかりです
大佐とシンシアちゃんの仲直りから一夜明け、私たちは大佐の案内で砂漠へとやって来ていました。
別にすぐでなくてもよかったんですけどね。久しぶりに仲直りしたんですから、二人でゆっくりしなくていいんですかと訊いたんですが、久しぶり過ぎてまだ若干気まずいのでむしろいて欲しいと言われましたよ。まあ、わからなくはないですが。
そんなわけなので今日、昨日のメンバーからコルザさんを引いた全員で砂漠に来ています。コルザさんが来なかったのは以前クロコさんが心配していると言っていたのを思い出したので、大佐たちが仲直りしたのであれば帰った方がいいと言ったからです。いるはずのない姉を探してるってことで、姿をみないのとは別方向にも心配されてましたからね……
さて、砂漠に来たはいいものの実はすでに行き詰っている感がありました。
「以前大佐が見た時は、この辺りにいた……んですよね? 今、ものの見事に更地ですけど」
そう。大佐が以前私本体の枝を折ったと言っていた人たちを見かけた場所に来ているのですが、なんにもないのです。陰も形もありません。
一応確認すると、大佐は一度あたりを見回してから頷きました。
「間違いなくここであるな。我の一部が瞬間移動でここに跳べたのは、来たことがあったからだ。あとは大抵空を飛んでおったゆえ、ここでないなら瞬間移動先は相当高い空中になるはずだ。この辺りに人の気配があったのを見かけたために降りたのであり、なにもないところで降りようとは思わぬ」
確認のために先にここへ跳ばした左手を元に戻しながら言うところを見るに、十年以上ぶりなせいで細かい場所がわからなかったとかいうことはないようです。以前は確かに、ここに住んでいた人がいたのでしょう。今は完全にもぬけの殻ですけど。
「今思い返してみるに、あやつらが住んでおったのは天幕であったからな……あれは移動することを前提に作られた家であろう」
「ああ、なるほど。旅一座みたいな感じですかね? でも砂漠のど真ん中に住んでいるのもそうですけど、移動した理由も謎ですね……多少でも草が生えるような場所なら、放牧していたのができなくなったから移動した、とかわかるんですが」
見渡す限り砂しかありません。草が生えていた痕跡すらないんですよねぇ……強いて言えば、他より砂の色が若干濃いような気はします。気のせいって言われたら気のせいかなと思うくらいですけど。
「汝の探知魔法でどうにかならんのか?」
「うーん、難しいですねぇ。なぜかこの辺り、探知魔法の効果範囲が他より狭いみたいなんですよ。なので探すことはできますが、時間かかりますね。まあ、急いでいないのでそれでもいいっちゃいいんですけど」
急いではいませんが、確実に話は聞かないといけないという微妙に困った案件です。見つからないならいいやで放置できるレベルならよかったんですけどねぇ。
地道に探すしかないかなと私は思っていたのですが、大佐はなにかを納得したかのような顔で遠くを見ていました。
「大佐? なにかわかったんですか?」
「仮説ならば立てられたな。それを立証するには、汝の協力が必要であるが」
「これに関しては私の管轄なので協力は惜しみませんよ。ただ、どんな仮説なの先に聞いても?」
あんまり突飛なことだと困るなと思いつつ訊くと、大佐は少し悩んだ様子で目線を下に向けました。
「ふむ……汝は汝本体の根が、周囲のマナを吸収する性質があるのは知っていると言っていたな? そしてその根の分布には、偏りがある話もしたであろう?」
「ええ、多い場所と少ない場所があるみたいですね」
「そのうち、汝の根がもっとも少ないのは森であるというのは知っているか?」
「森、ですか? いえ、知らないですけど……」
「おそらく、汝の根が多いところではマナが少ないせいで植物が育ちにくいのであろう。逆に少なければ地中のマナが豊富であり、森ができやすくなる、というわけだ」
なるほど、そんな因果関係があったんですね。あれ? でも……
「でもセンパイの周りめっちゃ木あるッスよ」
一緒に話を聞いていたルナちゃんも同じことを思ったようで、不思議そうな顔をしていました。隣で全く同じ顔でミツカミさんが首を傾げているのが、なんだか面白いです。
「ふむ、そちらは逆に地中ではなく空気中のマナが豊富であるのが理由であろう。汝本体から溢れるマナによって成長している、というわけだ」
「なるほど……それで、その話がどこに結び付くんですか?」
「根が少なければ森ができやすい。であれば逆に根が多いところは植物が育ちにくい、と言える。そしてこの辺りは、なぜか他に比べてわずかではあるがマナが多いのだ。汝の根が多いはずの砂漠であるにも関わらず」
言われて調べてみれば、確かに若干砂の色が違っている範囲はマナが多いです。なんとなく色が違うと思ったのは、気のせいではなく含まれるマナの量が違っていたからなんですね。
「つまり汝の枝を折った連中は、それだけに飽き足らず汝の根も採取していたのではないかと思ってな。もしそうであるなら、汝の根が減っている箇所を調べれば自ずとたどりつけるのではないか、というのが思いついた仮説だ」
なるほど……それはやってみる価値があります。自分の根がある場所はだいたいわかりますから。他より少ない場所を調べれば、その人たちにたどり着けることでしょう。
早めにたどり着かないと、更に怒りを増したシルフさんがなにしでかすかわかりませんからね……後ろで殺気を放ち始めたので、これ以上怒りをため込む前になんとか私の枝を折った人たちを見つけなくちゃいけません。いっそ、シルフさんをおいて来れたらよかったんですけどね……なにがなんでも行くと言われましたからね……大人しくしていてくれることを祈りましょう。