四百十七話 大佐を集めましょう
大佐、粉々のバラバラになってあちこちに散らばってました。破片の数が七つとかであれば探すのは難しくなかったでしょうが、あいにくと桁が違います。反応からして、普通にその三十倍くらいありそうです。
なんでそんな粉微塵になってるんですか大佐……七つ集めたら願いが叶うやつですら集めるの超大変なのに、それが百を余裕で超えるとなったら集める前から挫折するんですけど。
大佐は自分の姿形をある程度変えることができるようでしたが、いくらなんでも自主的に欠片にはならないでしょう。ならなぜこんなに粉々に……ならないですよね? でも大佐ってなにをしでかすかわかりませんし……ですが、大佐を攻撃して粉々にできるような存在の方があり得ないです。この人、戦闘でいたらこの世界最強クラスですもん。
ですがそうなると、やはり自主的に欠片になったとしか思えません。隠れようとして欠片になったはいいものの、戻れなくなったとか……こればっかりは本人に訊かないとわかりませんね。
「理由はわかりませんが、たぶんこの辺に転がってる白い石、全部大佐の欠片です」
そう告げると、欠片を拾った時点で察していたらしいルナちゃんとクロノスくん以外が驚いた顔で欠片を見ていました。
「え、これ集めると石の人になるの?」
指を拾って来ていても状況を理解していなかったらしいミツカミさんは、ビックリしたように手の中の指を見ていました。太さと長さからして、親指でしょうか。根本からキレイにぽっきりと折れたように見えます。
ルナちゃんの持っている目玉らしきものはまん丸なのですが、大佐目玉あったんですね。ていうか目玉がちゃんとあるなら、内蔵も石製のものがしっかりあったんでしょうか? 若干気になりますが、それは探している内にわかることでしょう。
「ええ、ほぼ間違いなくなりますよ」
私が肯定すると、ミツカミさんは困ったように服のポケットをあさってオロオロしだしました。
「どうしよう、ぼくノリ持ってないからくっつけられない。るーちゃん持ってる?」
「いやぁ、ノリ持ち歩いてる人ってあんまいないと思うッスよ」
「じゃあごはんつぶでつける!! お弁当におにぎり持って来てる!!」
「大佐石製ッスし、それでくっつけるのは無謀ッス。あとご飯がもったいないからやめるッス。ていうかせっかく美味しいお米作ったのに、そんな使い方したら作った人に失礼ッス」
「というかノリを持っていたとしても、ジグソーパズルのごとく組み立てるのはムリじゃないでしょうかねこれ……」
だって何ピースだと思ってるんですかこれ。世の中には一万ピースのジグソーパズルを組み立てる人がいるらしいですが、あれは組み立てるために作られたものであり、こんな風に組み立てる側のことを一切考えずバラッバラに砕けた破片を何百ピースも組み立てるのでは難易度が桁違いでしょう。
「とにかく……まずは全部集めてみるしかありませんね。ただ魔法を使って探しても、気配が微か過ぎて完全に集めきるのはたぶんムリです。なのである程度集まった辺りで、一度呼び掛けてみます。コルザさんが呼び掛ければ、欠片の状態でも反応があるかもしれませんから」
というわけで、森に散らばった大佐の欠片を集めることになりました。範囲がそこまで広大でなかったのは不幸中の幸いでしょうか。これが半径何キロとかになって来ると、流石に心が折れていたでしょうから。まあ、今の時点でけっこう折れそうですけど。
日が暮れるまで辺りを捜索した結果、かなりの欠片を集めることができました。ですが量からすると、たぶん大佐全体の……七割くらいしかありません。これ以上は暗くなってしまったので目視じゃわかりませんし、気配が薄すぎて魔法でも判別できませんでした。
大佐が作ったクレーターの手前の空いたスペースに、見つけた大佐の欠片を全部集めます。パッと見は、ただ石が積まれているだけです。これでもし呼んでも反応がなかったら、別の手を考えなくてはならなくなります。
「コルザさん、お願いします」
声をかけると、頷いたコルザさんが欠片の一つに触れました。
「師匠、アタシずっと探してたんです。とっとと起きて姉弟子と仲直りしてください。他にも兄弟子とかエルーとかヴィアとかも心配してましたよ!!」
そんなに弟子いたんですかあの人……いつの間にそんな増えたんですか。なんですか、もしかして大佐一門とかあるんじゃないでしょうね……
コルザさんの言葉に微妙にイヤな予感がしましたが、それは本人に確認するとしましょう。何度かコルザさんが声をかけますが変化はなく、これじゃダメかと思い始めた時でした。一瞬、集めた大佐の欠片がドロリと溶けたように見えたのです。
見間違いかと思いましたが、見る間に欠片たちの形が崩れて一つに集まっていくではないですか。グネグネと粘土のように欠片は動き、一度べしゃりと潰れるとあっという間に人型へと変貌しました。ただし、なぜか体育座りの恰好で。
「た、大佐……?」
体育座りをしている大佐に声をかけると、壊れかけのオモチャのようにぎこちない動きでこちらを見上げました。その目は死んだ魚のように濁っていて、思わず悲鳴をあげかけます。
「なんだ、ミーシャか……」
ぼそりとつぶやかれたその言葉に覇気は皆無で、明らかに様子がおかしいです。こんなにテンションの低い大佐、初めて見ましたよ。どうしてこんなあからさまなことに……