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四話 初めましてです

 魔法を開発すること、早千年が経ちました。だって、他にやることないんですもん。


 というわけで、今日も今日とて魔法開発。最近のマイブームは、何かいい感じの一文にルビを振るタイプの魔法を考えるやつです。


「『風よ。数多の世界を吹き荒ぶ、汝の力を我が手に。踊り狂うは罪深き木っ端どもの亡骸。出でよ!美しき旋風の調べ(ウィンド・ハーモニー)』」


 すさまじい音を立てて、烈風が吹き荒れます。地面を抉って、筋が付くような威力で。これはあまりよくないですねえ。長いですし。もっとコンパクトなの目指しましょう。


 長い間魔法を使った弊害で、この世界の地形変わりまくりですけど……大丈夫ですよね。誰もいないことは、探査魔法を作って確かめましたし。


 パチパチパチパチ

「あれ!?」


 い、今どこからか拍手聞こえませんでした!?


 慌てて辺りを見回しましたが、目視できる範囲には誰もいません。


「気のせい……ですよね?」


 きっと独りが長過ぎて幻聴が聞こえた系ですよね。……って、そっちの方がやばくないですか?


「ここは探知魔法を使う絶好の機会ですよね。……あれ、詠唱なんでしたっけ?」


 まあいいですけどね。ぶっちゃけ気分で適当に考えただけなので、そんなのなくても魔法は発動しますから。


 そんなわけで使ってみました、探知魔法。


『探知結果:極小生命体大量検知』


「極小生命体……?」


 脳内に浮かんだその文章。やっぱり、探知魔法便利ですね。


 それにしても、極小生命体ってなんでしょうね? ええと、拡大魔法を使ってみましょう。確かそんなのも作ったはずです。


 するとどうでしょう。それまで見えなかったものが、大きくなって見えるではありませんか。

 見えたのは、四枚のふわふわな羽根が生えた小さな人達。一言で言えば、妖精達です。


「は、初めまして……って言って、理解できます? というか聞こえてますか?」


 私の質問に、妖精らしき方々は全員が同じように答えました。


『はい、聞こえてます。あるじさまー』


「あ、あるじさま……?」


 日本語が通じるのはよかったですが、この呼ばれ方はどうかと思います。


「ええと、他の呼び方でお願いできませんか?」


『じゃーかみさまー?』


「……ミーシャでお願いします」


 今の私の姿であれば、むしろ違和感のない名前です。まさか転生しても、同じ名前を名乗るとは思ってもみませんでした。


『了解しました、ミーシャ様ー』


 様いらないんですけど……まあ、神様とかよりはマシですか。とりあえず、質問してみましょう。


「あなた方は、いつから存在しているんですか?」


『魔法ができた瞬間ですー』


「けっこう前ですよね!?」


 千年ほど前からいるんですけど……え、じゃあなんで探知魔法に引っかからなかったんでしょう?


 妖精達の話は要領を得ない上に長かったので、私なりに要約するとこうなりました。


 つい最近まで妖精達には自我がなく、生物ですらなかった。けれど私が魔法を使う度に数が増え、自我が強化された結果、生物としての存在を確定できたらしいです。


「あなた方は妖精……ですよね?」


『知りませんー。私達は私達ですー』


「では、お名前は?」


『私達は私達で、私ではないのですー』


 ……あれですかね、あくまで群体として存在するのであって、個ではないってことですかね。


 でも困りました。名前がないと、とても呼びづらいです。


「ではせめて、何か種族としての名前をつけましょう」


 精霊……とはちょっと違いますし、妖精と呼ぶには小さすぎます。肉眼じゃ見えないですしね。小妖精だと微妙ですし……


「そうです。あなた方とても小さいですから、『ナノ』とお呼びしましょう」


『ナノ? ナノなのー?』


「ご不満でしたら、他の名称を考えますが」


『気に入ったー。ナノ、私達はナノなのー』


 きゃいきゃいと笑いながら喜ぶ、妖精改めナノさん達。喜んでもらえるのなら何よりです。


「ではナノさん方。お暇でしたら、私の話し相手になってもらえませんか?」


『話し相手ー? 何を話すのー?』


「なんでもいいんです。ただ雑談がしたいだけなので」


 やることないうえに誰もいないので、そろそろ寝て過ごそうかと思ってたくらいなんですから。どんな話題であれ、反応してくれる相手がいるのといないのでは雲泥の差です。


「ではさっそく。実は私、この世界とは別の世界から来てるのですが――」


 そのまま私は、眠ることも忘れ喋りまくりました。どれほど喋っていたかは定かではありませんが、相当長い間だったことだけは間違いないです。なぜかと言うと――


「いつの間にか、普通に肉眼サイズのナノさんが増えてます……」


 もはやナノじゃないじゃないですか。ただの妖精です。いえ、どっちかと言うと精霊ですかね? 身長が私よりありますもの。百八十センチくらいでしょうか。髪が長く全体的に緑色をした、整ったお顔立ちの方です。


「初めまして。あなたは?」


「わたくしは風のナノが寄り集まり、別個の自我を持った存在です、ミーシャ様」


 普通に会話が成立します。サイズもサイズですし、実体がないだけでほぼ人間ですね。


「ちなみに訊きたいのですが、あなた以外に水や炎の方はいらっしゃるんですか?」


「水のナノの集合体でしたら。まだ自我が薄いですが……炎の方には会ったことはありません。他には地、木、氷、闇、光の方が存在しかけております」


 どこかで聞いた組み合わせです。炎がいないのは、私が炎系統の魔法をほぼ使っていないからでしょう。おそらくこの方は、精霊と呼ばれる方でしょうね。


「なるほどなるほど……でしたら、名前がないと不便ですね。では、あなたの名前はシルフにしましょう」


「わたくしなんぞに名前など、もったいない……!! 恐悦至極にございます」


 どこで覚えて来たんでしょう、この言い回し。あれですかね、調子に乗ってナノさん達に二次元の話もしまくったのが原因ですかね? ナノさん達もやたら気に入って、何度も二次元の話をせがんで来ましたし……


 まあともかく、害はないのでよしとしましょう。


 この世界に生まれて、千年と少し。ようやくこの世界は、ちゃんと世界らしくなって来ました。


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