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三百三十二話 まだやらなくてはいけないことは残っています

 喣金家の方々に頼まれていたドワーフのガドラスさんを紹介し、そこで行われた魔道具制作講座も無事終了しました。これで私が今回起きている間にしなければならないことは、あと二つのはずです。


 一つはダイスさんの件。こちらは未だにダイスさんからの連絡や相談はありません。そろそろ時間的にヤバいので、気にはなっているのですが……だからと言ってムリに急かして、後悔するような選択をしてほしくありません。


 そうなって来ると、やはり現在私にできることはない、という結論になります。心配ではありますが、ダイスさんを信じて見守ることしかできないでしょう。


 というわけなので今私にできる、しなければならないことはあと一つ。ナノさんたちとのおしゃべりです。


 ナノさんたちはあまり長い間放置してしまうと、とんでもないことやらかします。だからと言って構いすぎたり変なことを言ってしまうと、ノリがいい方たちなので思いつきで行動しだすんですよねぇ……


 以前二回ほど突然建築されたダンジョンも、私がうっかりゲームの話とかしちゃったことがあるのが原因で間違いないですし。それをなにかの拍子に思い出したナノさんたちが、面白そうだと思って造ったのでしょう。


 ある程度安全が確保されているのであれば、ダンジョンを造ってもいいっちゃいいんですけどね……ナノさんたちが前に造ったやつは二つとも、初見で入った人が全滅してもおかしくないレベルでしたし。


 一回目のあれが原因で、フィーマさんたちがエルフ化するという事態も起こってしまいました。本人たちは魔法が自由に使えるようになったり寿命が延びたりでさして問題にしていないっぽいのですが、あんまり元の形からかけ離れた存在にはしたくないんですよね。


 私が原因で世界のありようが変わったりしてしまうと、本当に申し訳ないですから。どこでバタフライエフェクトを起こして、わけのわからないことが起こったりしたら目も当てられません。力だけはムダに持ってしまっているので、そこのところは気をつけないといけません。


 さて、この辺りを踏まえてナノさんたちとおしゃべりするわけですが……今回、想定していない事態がすでに起こっていました。


「あの……ルナちゃんは別に参加しなくても大丈夫なんですよ?」


 そう。なぜかルナちゃんまでこのおしゃべりに参加しようとしている、ということです。現在地は、私本体の根元から少し離れた森なのですが……なんか、ルナちゃんついて来ちゃってるんですよ。


 ちなみになぜ私の本体すぐ近くでおしゃべりをしないかと言えば、こういう事態を避けたかったからなんですが……ものの見事に意味を失くしています。


 私がやんわり帰ってくれないかなぁ、ってオーラを出すと、ルナちゃんはとても不満げに頬を膨らませました。


「いいじゃないッスか!! あたしだってちっちゃい人たちとお話したいッス!!」


「ナノさんたちです。ていうか、あなたが参加するとナノさんたちが余計な知恵をつけて大惨事になりかねないので、個人的には参加してほしくないんですが……」


 余計な知恵というか、余計なアイディアですかね。ゲームの話とか神話の話大好きなので、ナノさんたちが聞いたら絶対に再現しだすんですよ。


「でもセンパイ言ってたじゃないッスか!! ナノちゃんほっとくと、拗ねて色々やるって!! だったらセンパイが寝てる間、あたしがおしゃべりすればいいと思うんスよ!!」


「言ってることは合っていますし一応ありがたいんですけど、内容によっては本当にヤバイんですって。またわけのわからないダンジョン造ったりとか、下手をしたら大洪水起こしたり終末もたらしかねないんですよ」


「? 今日はもう週末ッス、フィーさんがこの間言ってた暦通りならッスけど」


「その週末じゃないです。世界が終わるワールドエンドな方の終末です」


「え、ナノちゃんそんなことしだすんスか!?」


「そうですよ。だからこそ、慎重におしゃべりしなくちゃいけないんですよ」


 ナノさんたちってなにを話しても楽しそうに聞いてくれるので、つい話し過ぎちゃうんですよね。それもあって、厨二病真っただ中のルナちゃんと長話させたくないんですよ……どんな化学反応を起こしてしまうかわかったもんじゃないので。


「ていうか、大洪水ってなんで起こったんスか?」


「それはおそらく、私が以前聖書の話をしちゃったのが原因でしょうね。しかも箱舟を造るのは人間で、そこに一種類につきつがいの二匹ずつの動物乗せて避難させるのに、ナノさんたちったらどこで話をねじ曲げたのか箱舟から雨降らしてましたから」


「なんか……すごいことになったんスね」


 ルナちゃんがびっくりした顔でそんなことを言っていますが、これどこまでわかってくれたかちょっとわかりませんね……大丈夫でしょうか。もうちょっと釘刺した方がいいですかね?


「ええ、下手をすればこの辺一帯沈んでいてもおかしくなかったわけです。つまり、ゲームとか神話とかの話は本当にしちゃダメなんですよ。なるべく被害を出さないよう、慎重に検討してからしゃべらなくちゃいけないわけで……ルナちゃんにそれができるか、本気で心配なんですよ」


 そう言うと、ルナちゃんはしばらく考えこむ素振りを見せていました。諦めて帰ってくれるかなとも思ったのですが、ルナちゃんに諦めるという選択肢はなかったようです。


「大丈夫ッス!! あたし、センパイのいない間もちゃんとガンバれるッス!!」


「……まあ、そこまで言うなら……」


 結局、私が折れることとなり。いよいよナノさんたちとの緊張感あふれるおしゃべりが、森のすみで密かに始まろうとしていました。


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