三十二話 フィーマさんの住む村に行ってみました 2
フィーマさんの住むフォスト村にやって来た私は、村長を自称するおっさんと対峙しております。村長と名乗ってはいますが、実際はただの偉そうなおっさんですよねこれ。
しかもこのおっさん、私の友達バカにしてますからね。万死とは行かないまでも、それなりの目には遭っていただかないとですよねうふふふ……
「それで、あなたはどうやら偉いらしいですが、フィーマさんがなにをしたと言うんです?」
「なにを、だと? なにもしないからお荷物なんだろう、その小娘は!! いい年をして働かずにフラフラと遊び歩き、ほとんどうちに寄りつかないんだぞ!? そんなごく潰し、いらないと思うのは当然だろう!!」
真っ赤な顔をして怒鳴り散らす声が聞こえるのか、あちこちから人が集まって来ていました。しかも、みな一様にうんうんと頷いているではありませんか。
「……フィーマさん、念のためお聞きしますが、この人の言っていることは事実ですか?」
水を向けられたフィーマさんは、泣きそうな顔でこう答えました。
「た、確かにわたしは働いてはいません。でっ、ですがそれは、村長がお前なんか邪魔だ目ざわりだと、視界にいることを許してくれないためで……家に帰らないのは、その……」
視線をさまよわせるその姿は、なにか言いにくいことがあることが明白でした。こんなゴミに義理立てする必要ないと思うんですけどね。
「いいんですよ、正直に言って。なにを言おうが、私が責任取るので」
「なに様だお前!! そうかお前だな、フィーマにいらん知恵を付けて面倒なことになっ――」
「今すぐ黙らないとその寂しい頭頂部の雑草、残らず全部むしり取ってやりますよ」
「な、なんっ……!?」
怒りのあまり声が出なくなったのか、パクパクと口を開閉するだけになったドゥンガ。静かになってなによりです。こんなやつにさん付けする必要なんてないですよねぇ……
「どうぞ、フィーマさん」
少しの間逡巡する素振りを見せていたフィーマさんでしたが、意を決したのかハッキリと言いました。
「家に帰らないのは、私の分だけ食事が用意されないからです。私が狩って来た獲物も、住まわせてやっているのだからとすべて取られ、私は野菜くずしかもらえなくて……」
「ウソを吐くんじゃ――」
「黙れ。そう言いましたよね?」
ビクンと跳ねたドゥンガ。やっとなにかを感じたのか、微妙に震えています。ですが今更怯えたところで、後の祭りなのですよ。
「要はあなた方、フィーマさんに身寄りがないのをいいことに、虐待及び搾取していたわけですね。おそらくネグレクトもしていたでしょうし、生け贄に差し出したということは殺人未遂も追加しましょうか。世が世ならけっこうな年数檻の中なんですが……まだこの世界はそんなに発展してないのが残念でなりません」
言っていることの半分もわからないのか、周りの全員が首をかしげていましたが、そんなの知ったこっちゃありません。
「先に言っておきますけど。フィーマさんにこれからなにかした場合、私は容赦なく断罪いたしますのでよろしくお願いします。あなた方に拒否権はありません」
「な、なにを勝手なことをのたまっている!! ここではおれが一番年長者なんだから、一番偉いのはおれだ!!」
フリーズからようやく立ち直ったドゥンガがなにか言っています。年功序列を持ち込んだ覚えはないのですが……勝手に芽生えたかうっかり話してしまったかはさておいて、これはこれで都合がいいと言えばいいですね。
それにしても、四十代程度で最年長ですか……まだこの世界の平均寿命はかなり短いみたいですね。よく見れば、周りにいるのは子供が多いですし。早めの医療発展が望まれます。今度どうにかして、治癒魔法を開発するとしましょう。
寿命の件はおいといて、今はフィーマさんのことです。
「ドゥンガっていいましたねあなた。つまりあなたは、歳をとっていればいるほど偉い。そう言いたいんですね?」
「ああそうだとも。当たり前だ。長生きしているやつは、強いから長生きなのだ。強いことは偉い。つまりおれが一番偉いのだ!!」
「なるほどなるほど。では、あなたより年上の者がいれば、その者の指示に従うんですね?」
「そりゃあそうだろう。だがおれより年上の者など、どこにも存在しない。みんな墓の下だからな!!」
まあ、だからこそこんなのが村長やっているんでしょうね。年功序列でもない限り、こんな頭の中身がおがくずみたいな人間が長なんてできませんもんね。
勝ち誇るドゥンガですが、言っていることはとても間違っていました。言っていることと言うか、言った相手ですね。
「ではドゥンガ。これからは私の指示に従ってくださいね。私、これでも数千年生きているので」
「……は?」
ポカンと間抜けな顔をするドゥンガですが、冗談だと思ったのかすぐに腹を抱えて笑い出しました。
「す、数千年と来たか小娘!! ウソにしてもヒド過ぎるわ!!」
「いえウソじゃないんですよ、これが。ところでドゥンガ、あそこに一本の樹が立っているの、見えますか?」
「は? ああ、世界樹様か。見えるに決まっているだろう」
「あれ、私です」
「…………え?」
ピタリと動きを止めたドゥンガの顔が、面白いくらいにサーッと青くなって行きます。赤くなったり青くなったり、なんともまあ忙しい人間ですね。
「ま、まさかあなた様は、世界樹の女神様――」
「ミーシャと申します。最初にそう言ったはずですが?」
ニッコリと、満面の笑みでもう一度名乗ってあげました。ほんの数分前のできごとも忘れるだなんて、なんてお粗末な頭でしょうね。それとも、ミーシャって名前この世界では珍しくないんですかね?
自分がこれまでして来たことがどれほどのことだったかようやく思い至ったようで、地面にへたり込んでしまいました。大の男が情けないですねぇ。周りの野次馬達も状況を察したのか、青くなって固まる者と、我先にすたこら逃げる者の二種類に分かれていました。
ちなみに今結界張ったので、誰も逃げられませんよ?
「あ、あ……」
「ずいぶん顔色が悪いですね。どうかしましたか?」
ガタガタと震えるドゥンガは今にも漏らしてしまいそうなほど、怯えていました。ですがこの程度で許すと思ったら、大間違いなのです。
「先ほども言ったとおり、フィーマさんは私の唯一の、大切な友人です。もしなにかあった時は、そうですね……」
ヒュンッと空気を裂く甲高い音と、パラパラと落ちる黄緑色の髪の毛の束。
「ひっ……!?」
必死に頭をペタペタと触り、自分の毛髪になにが起きたかを知ったようです。ちょーっと残っていた雑草を、残らずキレイに刈り取ってあげたのを。
「これでスッキリしましたね? もし次、なんてことがあれば、手元が狂ってもっと大きなものを刈り取ってしまうかもしれないですね? 例えば、脳みそからっぽな首とか」
そう言ったとたん、グルリと白目を向いたドゥンガは意識を手放してしまいました。下半身びしょ濡れで泡を吹くスキンヘッドなおっさんに需要はないので、近くにいた適当な人にお願いして引き取ってもらいました。
「みなさんもいいですね? フィーマさんに限らず、他人を無意味に傷付けた者には私が直々に裁きを下します。覚えておきなさい」
恐怖に染まった顔で頷く村人を尻目に、私とフィーマさんだけはその場を離れたのでした。




