三百十九 誰も望んでいない戦いです
ちょっぴり渋々な大佐と、申し訳なさそうにオロオロしながらのコルザさん。どちらも真の意味で戦いたいわけではないはずなんですが、どうして戦いになってるのか謎です。まあ、だいたい大佐のせいですが。
コルザさんもあまり強くない自己申告があるとは言え、ドラゴンです。普通に戦ったら周囲に被害が出ることは間違いないでしょう。というわけで、今回は私が二人のいるフィールドに結界を張ることにしました。これなら多少派手に戦ったところで壊れることはないでしょう。
例外として、大佐が本気で封印破壊魔法を使えばちょっとやばいかもですが、使う理由はないので大丈夫でしょう。使っても意味ないですし。コルザさんと戦うと見せかけて私に勝負を挑んで来る、なんてからめ手を使って来る……のも大佐じゃないですね。割と正々堂々と戦うタイプですし。
こうして考えてみると、私って大佐のこと信用してないわけじゃないんですよね。うっとうしいからキライなだけで。いえ、キライって言うか苦手、ですかね？ 人間性に致命的な問題があるわけじゃないですし。もうちょっと周りの迷惑さえ考えてくれるなら、ぶっちゃけいい人と言って過言じゃないですしね。
それに今回多少は空気を読んで対戦相手をコルザさんで妥協している時点で、前よりまともになってるわけですし……ここでもう一声ガンバって、戦わないって選択肢を選んでくれるのであれば私も邪険にはしないんですけどね。まあ、マシになっただけでよしとしましょう。
そういえば大佐、これまでを振り返るとだいぶ常識的にはなっているんですよね。出会い頭に攻撃とかして来ないですし、シンシアちゃんにもかなり好かれてますし。本気で非常識な人なら、シンシアちゃんに見限られていてもおかしくないですしね。
やっぱり、大佐にはこのまま常識人になってもらうことを期待しましょう。それなら相当量の心配がなくなりますし、私が寝ている間のことを任せても大丈夫ですし。少なくとも、武力面ではこれまで会ったなかで最強クラスですからね。
やりようによっては、精霊さんたちにも勝てる可能性あるんですよね……突然大佐がシルフさんとか勝負を挑んだりしないように祈っておきましょう。祈り先どこにすればいいのかわかんないですが……まずはこのバトルを片付けるのが先決でしょう。
「えーと、とりあえず降参ありで、相手が死ぬような攻撃はなし、ってことでいいですよね？」
「我はそれで構わんが、あっちの黄色いトカゲの方は本気を出しても問題ないぞ。ドラゴンブレス程度で我は死なん。高確率で爪や牙も通らないであろう」
「そりゃあなた、元が石なんですからそうでしょうけど……ていうかちゃんとドラゴンブレスを認識してるなら、トカゲじゃなくてドラゴン呼びでいいじゃないですか。なぜ頑なにトカゲ呼びなんですか」
自分を殺せない存在なんて下に見ていいってことでしょうか。いえでもそれで言ったら、シンシアちゃんとかいます。シンシアちゃんは真面目に戦っても相性の面で大佐に勝つのは不可能と言っていいでしょう。大佐、毒効かないので。
例外として、敬称つけで呼ぶナノさんたちもいますが……あれはナノさんたちを創造主だと思ってるからでしょうし。一応、大佐にも尊敬って感情存在するんですよね。
大佐は私の質問に、おおよそ思った通りの返答をしました。
「それは以前我が勝負して勝ったからだな。我のイメージ上のドラゴンはもっとこう……一息で森一つ焼き払うような、そんな感じだったのだ。だが、実際はそこまでではなかったからトカゲでよいだろう、というのが我が出した結論だ」
ああ、だいたい想像通りの返答です。あと、そんなレベルのドラゴンが存在していたら超困りますよ。ドラゴンブレスで森焼き払えたら、私まで丸焦げにされかねませんし……それにそんな炎を吐けるとか、トラウマ蘇るのでドラゴンさんたちに近づけなくなります。
私の呆れた顔が気に入らないのか、大半はやや不満そうに眉をひそめました。
「ミーシャよ、汝はいつも些末なことに拘りすぎではなかろうか」
「いや名前って大事ですよ。全然些末じゃないです。相手のことをよく知るって、人間関係を構築するうえで重要です。まあ、私もあなたも厳密な意味では人間じゃないですけど……名は体を表すって言いますし、名前をちゃんと認識することが相手をよく知ることの第一歩だと思ってます」
それもあって、もうちょっとまともなネーミングセンスがほしいんですけどね。私がつける名前って、いくら名は体を表すと言ってもそのまんますぎますし。なんかこう、つけられて嬉しい名前とか思いつきたいんですけどね……キラキラネームよりはマシだと思ってくれてるとありがたいです。
と私が自分のネーミングセンスについて考えている間に、大佐は律儀に名前について考えていたみたいです。
「確かに、ミーシャの言うことも一理あるやもしれぬな。では、訂正しよう。そこの黄色い汝よ、名は？」
「え、コルザ、です……」
コルザさんの返事にうなずいた大佐は、いつの間にか見たことのない魔法少女みたいな杖を取り出し構えました。
「了解した。ではコルザよ、いざ尋常に勝負！！」
そう言った大佐の顔は真面目なものでしたが……あのゴテゴテしてやたらファンシーなピンク色のステッキって、ツッコミ待ちだったりするんでしょうか？
