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三百十五話 大佐は通常運転です

「というわけで、我と勝負するのだ、トカゲの長よ!!」


 ウィルちゃんの指さした方へ向かえば、思ったとおりジェンさんにからんでいる大佐の後ろ姿が見えました。相も変わらず人にケンカ売るのが好きな人なんですから……


 対するジェンさんは、鋭い爪で角の付け根をゴリゴリ引っかいて困ったような顔をしています。


「いや、某はあまり戦うのは好まないのだが……」


「だがな――」

「大佐、ジェンさんに迷惑かけるなら力ずくで退場させますよ」


 なにやら言い合いをしている、というか大佐が一方的に因縁ふっかけてるらしき現場に割り込むと、大佐は振り向いて驚いた顔を見せました。


「なにゆえミーシャがこの場にいるのだ!?」


「それ、どちらかと言えば私のセリフなんですよ。なんでわざわざシャイラーまで来てドラゴンの方たちに迷惑かけてるんですか? あなたどんだけヒマなんですか」


 全力で呆れながら言うと、なぜか大佐がわかりやすくムッとしたのが見えました。


「別にヒマだから来ているのではない! そもそも今回に限っては、我はちゃんと了承を得てからこの場に来たぞ!!」


「いや……どう見てもジェンさん困ってるじゃないですか。すみません、ジェンさん。この人戦闘狂と言いますか、戦うのが大好き人間でして……いえ正確には戦うの大好きゴーレムですかね」


「ああいえ、今回は我々側にも少々問題がありまして……久しぶりに来ていただいたのに、このような事態に巻き込むのは恐縮なのですが……」


「問題、ですか?」


「ええ」


 それ見たことかとでも言いそうな大佐に事情を聞きたくないので、このままジェンさんとの会話を続行させようと思います。わかりやすく胸を張っていますが、見なかったことにしてスルーです。


「事の発端は、我が同胞のうちの一体が調子に乗って飛びすぎたことにあるのです。……あ、今回はクロコではありません。流石にあの者もあれ以来反省し大人しくなりましたので」


「それはよかったです」


 これでまた犯人がイキっちゃってる厨二ドラゴンのクロコさんだったら、色々残念な気持ちになっていたでしょう。私がまさか、という顔をしたのがジェンさんに通じたみたいでわざわざ説明してくれてありがたいです。


「我が同胞――名をコルザという年若いドラゴンなんですが、無鉄砲なうえ方向音痴でして……どこまで飛べるか挑戦した挙句に帰り道がわからなくなったところを、そちらの――ええとドゥームさんでしたか。に、助けていただいたとお聞きしました」


「そう。師匠、人助けした。……ドラゴン助け?」


 いつの間にか話に参加していたシンシアちゃんが、誇らしげにそう付け加えてくれました。どうやらこの様子だと、今でも二人は上手くいってるみたいですね。ならシンシアちゃんの様子見ミッションはクリアですが……余計な問題があるんですよね。


「それで? 大佐がドラゴンのコルザさんを道案内してここまで連れて来てくれたのはわかりました」


「違う。師匠、山の向こうからこっちの方まで、風でばびゅんって飛ばした」


「ずいぶんと乱暴に家に帰しましたね!? てかなにやってんですかあなた!!」


「ま、待て、違うのだ!! 道案内しようにも、あの黄色いトカゲの近くはものすごい突風が吹き荒れるので並んで飛ぶどころか近づくことも困難だったので仕方なくだ!!」


 大慌てで弁解する大佐を横目にジェンさんを見ると、苦笑いっぽい顔でうなずいているのでウソではないでしょう。確かにあんなに大きな生命体が空を飛んでいたら、突風も吹きますよね……まあ方法に問題がないわけじゃないですが、今回は見逃しましょう。


「で、ええと……とにかくコルザさんを帰れるようにしてくれたのはわかりました。それとジェンさんにケンカをふっかけたのには、どんな因果関係があるんですか?」


「我がここへ送り届けると、黄色いトカゲの方からなにか礼がしたいと言って来たのだ。だから我はその黄色いトカゲに勝負を挑んだのだが、端的に『疲れているからパス』と言われてしまってな。代わりに紹介されたのがこの瑠璃色トカゲというわけだ」


「つまり、悪いのは全部他人に丸投げしたコルザさん……ってことですか?」


「ええ、そうなのです」


 これは……まあ、大佐が悪いかどうかって話なら微妙ですね。いいことをしたら報酬をくれると言われて、一番ほしい強者との戦闘を願ったところ、ジェンさんを紹介されたわけですし。本人に話が通ってないからややこしいことになってますけど。


 一応、大佐がやったことにアウトな部分はないです。正当な報酬――かどうかは判断に困るのでおいておきますが、無理難題を言ったわけじゃないですし。となると、これを解決するには……


「これはいい加減なこと言った本人に責任を取らせるべきですね。そのコルザさんって方を呼んで来てもらえませんか? 自分でお礼をすると言ったんですから、せめて自分で対処しなくちゃです」


「そう、なのですが……」


 どうしてか少し悩む素振りを見せたジェンさんでしたが、やがてなにかを思いなおしたようにうなずくと近くにいたピンク色のドラゴンの方にコルザさんを呼んで来るように言いました。


 それからおよそ三分後。ドスドスと、地響きのような音が近づいて来ます。その音は段々大きくなり、やがてすぐ近くで止まりました。


 音がした方を振り返ると、そこにいたのは見たこともないタイプのドラゴンでした。なんと言いますか、ずいぶんその……大きいと言いますか、移動が大変そうと言いますか……


 一言で言ってしまえば。やって来た鮮やかな黄色いドラゴンさんは、爬虫類の概念が崩壊しそうなほどに太っていらっしゃいました。


「ふわ……どーもー、アタシがコルザって言いまーす」


 しかも女性ですよこの方!? なにをどうしたらドラゴンってこんな姿になるんですか!?


 色々な驚きが渦巻き、私はしばらく口を開くことができないのでした。


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