三話 そうだ、魔法があるじゃないですか
「きゃあーーー!?」
目覚めると、髪の毛が全て足元に抜け落ちていました。
「って、なんだ枯葉でしたか……」
よく見れば、足元に散らばっているのは葉っぱでした。それに上を見れば、すでにそこには青々とした葉が生い茂っています。
「冷静になってみれば、今の私に髪の毛なんてないんでした」
葉っぱって、樹にとっては髪の毛みたいなものなんですね。
「それにしても、もうすでに一週間はボーっとしてる気がします」
伸びをしてから立ち上がり、年輪を見てみるとなんと七本も増えてました。と言うことは、初日から七年は経ってることになります。
「時間の感覚がめちゃくちゃですね……まあ、樹なんですから、人間と時間の感覚が違ってもおかしくないですけど」
それ以前にこの世界に変化がなさ過ぎて、どれほど時間が経っていても年輪確認しないとわからないんですけどね。
「何か暇を潰せるものはないですかねぇ……」
本があれば、無限に時間を潰せる自信あるんですけどね。アニメのDVDとかでもいいんですが。
そう言えば、もう本当だったらあの本が発売してるはずです。あれを読まずに死んだことは、ちょっとだけ未練があるんですよね……新キャラの魔法、どんなのか楽しみだったんですけど。
「……そうだ、魔法ですよ!!」
そう。確か私は、魔法がある世界がいいと言ったんですよ!! ここまで言ったことがムダに叶っているんですから、きっと魔法だってあります。と言うか、無かったら本気で困ります。
「でも、魔法の使い方なんて教わってないですし……」
チュートリアルどころか、一つだって説明受けてないんですよねー。吉田さん、実は新人だったんでしょうか。死んだ年齢のまま固定されているのなら、見た目の年齢なんて関係ないでしょうし。
「まあともかく、やってみるだけやってみましょう」
魔法と言えばマンガやラノベ、アニメでたくさん見て来ました。今まで見て来た二次元の知識を総動員し、それっぽい行動をしてみましょう。
「個人的には、魔法陣を使うやつとか、歌で発動させるのが好きなんですが……ここは普通に、呪文を唱えるべきでしょうね」
魔法陣に関しては、描きたくても実体がないのでムリなのが現状です。あれ、いっぺんやってみたかったんですけどね。
「前に見たラノベにあった呪文をそのまま唱えるのは……やっぱり、つまんないですよねぇ」
ここは一つ、オリジナルで考えてみるとしましょう。不幸なのか幸運なのか、時間だけはムダにありますし。
まずは派手で効果のわかりやすい、炎系統にしてみましょうか。
「普通、威力が高いと詠唱も長いですよね。なら……『地獄の業火、冥界の煉獄。我が呼び声に応え、その姿を顕現し、罪深き者どもを骨も残さず燃やし尽くせ。世界を浄化せし焔の力、今ここに! ヘルブレイズ!!』」
ドガッ、とか、キュガッとか、そんなすさまじい音がしたような気がしました。私が認識できたのはそれだけ。
「あ、あぁ……」
火。炎。熱い熱い燃える死ぬ、私死ぬんですか? なんでこんな、炎が、熱くて痛くてもうこんなのイヤダ――
「――はっ!?」
気が付くと、ぼんやりと虚空を見つめていました。
「……今、のは」
もしかして、死ぬ直前の記憶でしょうか。
「火に過剰反応した……? もしかして、炎がトラウマになっているとか……?」
前世の、最期の記憶。覚えていないと思ってましたが、存在しないのではなく思い出せないだけのようです。
「冷静になってみれば、今の私って樹なんですよね……炎が怖くて当たり前と言えば当たり前でした」
なのに初っ端から炎属性の、それも相当な高威力魔法を使うとか……アホですか私は。
「それによく見れば、遠くにえげつない焦げ跡が……」
十数キロほど先でしょうか。深さが百メートルはあるクレーターが、ぽっかりと存在していました。どれだけ放心していたのか定かではないですが、十分は経っているはずです。にも関わらず、未だにブスブスと黒煙を上げ、淵が真っ赤に溶けていました。
端的に言って、やり過ぎです。地形めっちゃ変わってますよ。誰もいない世界でホントよかったです。
「まさか即興で作った呪文で、ここまで威力の高い魔法ができるとは……私、魔法の才能あるんですかね?」
いくら魔法の才能があったところで、私一人しかいないこの世界では、なんの意味もないんですけどね?
「なんでもいいので、私以外の存在が生まれませんかねぇ……」
私だけしか存在しないと、基準がないので実力がよくわからないんですよね。最悪、虫とかでも……いえ、やっぱいいです。虫はいなくてホントいいです。私と虫しかいない世界とか、それどんないじめ? って感じですもん。
「仕方ありません。しばらくは、魔法を使って気を紛らわせましょう。幸い、魔法の呪文のアイデアならたくさんありますし」
さっきはノーマルな魔法を使ったので、次は何かこう……四字熟語とかもじってみましょうかね? それとも、剣で出す技名っぽくしてみましょうか。いっそ全然違う方向でも、例え変身とか――
「姿を変えるってのは可能なんでしょうか」
自分の体を見下ろして、前世と同じなことにげんなりするのは嫌ですし。実体化だけはどう頑張ってもムリでしたが、もしかしたらこの幽霊状態の見た目は変わるかもしれません。
「そうですね……せっかくですから、ここはアニメみたいな見た目にしましょう」
思い立ったが吉日です。そんなわけで、念じてみること約五分。
「あ、いいじゃないですか!!」
ついでに開発した水で鏡を作る魔法に映った自分の姿は、どこからどう見ても自分ではありませんでした。
足元まである太陽の光のような、長く美しいゆるふわな金髪。どこまでも澄んだ、泉のようなアクアブルーの瞳。年齢は前世に合わせ、十七歳ほどにしてみました。……ちょ、ちょっと盛ったりとかしましたが、許容範囲ってことでいいですよね。
「うわぁ……初めて転生していいなと思いましたよ」
そうです。私は生まれ変わったのです。なら、前世と同じ姿でいる必要なんてなかったのです。だからそう、一部分の成長だけ著しいのは、ええと……あれです、偶然です!!
「誰に言い訳してるんでしょう私……まあいいです」
服はファンタジーっぽく、ヒラヒラで肩の出た薄緑のロングドレスにしてみましたが……この恰好、元の体じゃ絶対似合わなかったですよねぇ。なんと言うか……ずり落ちそうですし。
とりあえず、暇つぶしを見つけたのは一歩前進ですかね。