二百八十一話 全面戦争とかありえないです
全面戦争。もう響きからして最悪です。戦争とか戦いとか、私大嫌いなんですよ。バトルジャンキーな大佐の気持ちが、一ミクロンもわからないタイプの人間です。現在人間じゃないですが。
とりあえず、どうやって防ぐかの話し合いを始めようとした時でした。
「戦争、なに?」
ミツカミさん、戦争知らなかったみたいです。中身幼児なので、仕方ありませんが。
「戦争というのはですね――」
「規模の大きい大ゲンカッス!!」
「まあ……だいたい合ってます」
大きいと大ゲンカで文言被ってますけど、間違ってはないので別にいいです。
「ケンカ、よくない」
「そッス!! だから止めるッス!!」
「ん、わかった。じゃ、ケンカの前。全部先倒す」
「予想外に乱暴な案出して来ましたね!?」
確かに、戦争自体は回避できます。できますけど、そんなことしたら被害よけい大きくなるじゃないですか。
「あ、クロくんにみんな止めてもらうのはどうッスか!?」
「その、しょーせーではそんなにたくさんのひとを止めるのはムリであります。それに、ホントに時間稼ぎにしかならないであります」
さっきみたいに、時間を止めたらってことですね。できても問題先送りが限界なんですよねぇ。こう、根本的にどうにかしないといけないわけで。
「誰か、いい案ないですか?」
「ミツカミ様の意見ではないですが、先に拘束してしまうのはどうでしょう。ミーシャ様でしたら、たやすいことだと思いますが」
「まあ、捕まえるだけならたぶん楽勝ですけど……やっぱり解決にはなりませんね。それに鼈氷さん的にはいいんですか? 旦那さん捕まえることになりますが」
「全然問題ないです」
力強くうなずかれてしまいましたよ……別にキライってわけじゃないんでしょうけど、まあ全面戦争企てるような人ですからね。ちょっとは懲りろ、みたいな気持ちもあるんでしょうたぶん。
そんなことを思っていると、スッとシルフさんが静かに手を挙げていました。
「もうこの際、人間のことは放っておいてよろしいのではないでしょうか。始めから終わりまで、全て人間の起こしたこと。ミーシャ様がなにもしなくても、人間同士でどうにかするのではないでしょうか」
「シルフさんの意見もわからなくはないです。わからなくはないですけど、イヤです。私、戦争とか本気でキライですから。こういう大量に死人が出そうな件は、手を出さない範疇を超えると思ってます」
いつもであれば、やたら手を貸したりはしません。多少問題があっても、それを私が全部片づけてはみんな堕落してしまうからです。困ったことがあれば神を頼ればなんとかしてくれるだろ、なんてことになったら、もう人間終わりだと思うんですよ。
私、この世界の人たちを操り人形にしたいわけでもなにもできない子供にしたいわけでもないんです。なのでいつもは手を多少貸すことはあっても、必要以上に干渉しないようにしているつもりです。でも、こういう戦争とかは別です。
まあ、ただの私のわがままなんですけどね。単に、人の死とかそういう重い話題を考えたくないだけです。
シルフさんもわかってくれたのか、重々しくうなずいていました。
と、そこでみんな黙り込んでしまいました。戦争を止める方法、なんてそうそうあるわけないのはわかっていましたが……全く妙案が浮かばないと、ちょっと落ち込みます。私が力ずくで止めるのは、本当の本当に最終手段ですし。もっとこう、スマートに話を収める方法はないものでしょうか。
悩む私たちでしたが、なかなかいい案は浮かびません。これはもう力ずくか、と半ば覚悟した時でした。
「なんで、ケンカする?」
ふと、不思議そうにミツカミさんがつぶやいたのです。
「それは、ええと……秘術がほしいからですね」
「じゃ、あげちゃえば、いい。みんな仲良し」
「それは暴論……ですけど……確かに、戦争自体は止まりますね」
欲しいものが手に入らないから、力ずくで奪おうとしているわけです。まあ、その心理自体は理解できますし戦争の理由としては納得です。なので、欲しがるものをあげてしまえばいいというのは、有効な方法であることは間違いないですね。
ただまあ、その後の問題が出て来ますけど。各家のパワーバランスとか、その他もろもろ。ですが、それを交渉のカードにすることはできるんじゃないでしょうか。
「雷火家の秘術がどんなものかにもよりますが、それを交渉材料にするのはありかもしれません」
「確かに、そうすれば喣金家の当主どのは戦争を仕掛ける理由がなくなるでしょう。ですが、戦争を仕掛ける表向きの理由は梨蛟が不当な扱いを受けたことにすると思われます。それを大義名分に動けば、釜木家の正当性を主張できますから」
「つまり、そっちも潰さないといけないわけですね」
それに関しては、梨蛟さん本人がこのことを知っているわけですから、どうにかなるでしょう。となると、やはり問題なのは秘術の方です。
「では一度、この話を雷火家に持ち込みましょう。明日の朝までに戦争を止めるためにも、雷火家の方々に知ってもらった方がいいはずです。迎撃準備が万全と向こうが知れば、それだけで諦めてくれるかもしれませんし」
「わかりました。では、こちらは夫の動きをなるべく抑えておきます。明朝……日の出前に、こちらの屋敷で落ち合う、ということでよろしいでしょうか。その際は、魔法でお越しいただくのが確実と思われます」
「ええ、そうしましょう」
というわけで、再び雷火家へ行くことが決定しました。できれば、アポも取ってない家に瞬間移動で行きたくはないのですが……今回はそうも言っていられない状況なので、雷火家へ直接跳ぶことにします。どうにか、止められるといいのですが。




