二百五十一話 協力すればこんなことだってできます
「ミツカミさーん? いらっしゃいますかー? ルナちゃーん! いたら返事してくださーい!」
エア・ルームを展開してもらいつつ奥へと向かいますが、声をかけても返事がありません。どこまで行っても、あるのは無数に枝分かれした洞くつのみ。このままでは、私たちまで迷う二次遭難が発生してしまいます。
いえでも、ルナちゃんが迷子ではなくミツカミさんに連れて行かれているなら遭難ではないですね……となると、普通に私たちが遭難する事態が発生して終わりです。
「ミーシャ様、ルナ様の気配はどちらの方から感じるのでしょうか」
「すみません、枝分かれがヒド過ぎてさっぱりわからないです。強いて言うなら、なんとなーく右側からそれっぽ気配は感じますけど……道として合ってるかまでは不明です」
ルナちゃん本人に通信機を持たせた方がよかったんでしょうか。いえでもこの場合、もしもルナちゃんに通信機を持たせていても連絡は取れないですね。ルナちゃんは裸の状態で通信機を保持し続ける方法を持たないですから。
となると……もう少し精度の高い走査魔法の開発でしょうか? でもここみたいに迷路状になっていたら、いくら正確な位置がわかってもそこまで行くのが難しいですよね……道がわからないから、こうして困っているわけですから。
どうにかして地図を手に入れた方がいいかと思案していると、ふとシルフさんがなにかを思いついた様子を見せました。
「ミーシャ様、一つご提案があるのですが」
「なんですか?」
「一度このエア・ルームを解除させていただければ、わたくしの風魔法でおおよその道がわかる可能性があります」
「ホントですか?」
シルフさんによれば、ここで風を吹かせてその反響やらなんやらで道を知ることができるそうです。射程はそこまで長くないので、何度かやる必要があるそうですが。
「なるほどわかりました。では邪魔にならないように水面に降りられるところを作るので、そこから調べてもらっていいですか?」
「かしこまりました」
さて、どうやって降りるところを作りましょうか。凍らせる……とここに住む方たちに迷惑かけそうですね。となると、あとは岩を隆起、は戻すのが大変です。流れをせき止める、のはマズいでしょう。うーん、なるべく後に影響が残らない着地点の作り方は……
悩む私に、今度はクロノスくんが声をかけて来ました。
「ミーシャさま、であればしょーせーがお役にたてるであります」
「なにかいい方法があるんですか?」
「はいであります。ちょっとだけ、みずのじかんを止めればあしばができるであります」
「なるほど、一部だけ時間を止めれば多少水の流れが変わるくらいで済みますね。水というか、お湯ですが。クロノスくん、お願いできますか?」
「まかせてくださいであります!!」
ふんす、と鼻息を荒くやる気な様子のクロノスくんは、目をつぶると足元に意識を集中させました。すると次の瞬間、それまで動いていた足元のお湯が一部だけピタリと動きを止めたではないですか。
「せいこーであります!!」
「さすがクロノスくんです。ありがとうございます。ところでこれ、どれくらいもちますか?」
「このていどであれば、ごふんはもつであります!!」
ずいぶんと頼もしい言葉が返って来ました。以前は数秒止めるのが精いっぱいでしたが、一メートル四方くらいであれば五分も時間を止められるんですって。クロノスくん、いつの間にかこんなに成長して……なんだか嬉しいですねぇ……
なんだか、我が子の成長のようで感慨深いです。まあ、私子供なんているわけなかったので、実際は全然違うかもですけど。
とにかく、クロノスくんのおかげでシルフさんがこの複雑極まりない洞くつ内部を調べてくれます。私はもしものことがあった時のために、待機する役です。
時間を止めてもらった足場に降り立つと、すぐにシルフさんは魔力を練り始めました。そしてゆっくり息を吸うと、すさまじい勢いで風を解放します。ごうっという音が響き渡ったかと思うと、かすかにあちこちから風が抜ける音が聴こえました。
しばらくその音や風の流れに意識を集中させていたシルフさんが、やがてすっと一つの方向を指さしました。
「ミーシャ様がルナ様の気配を感じるとおっしゃっていた方角に行くには、まずこちらの道を行く必要があります」
「ありがとうございます、シルフさん。ルナちゃん自体の気配はわかりましたか? シルフさんも探知できていると、私としてはとてもありがたいのですが……」
「申し訳ありません。わたくしでは、細かい気配までは判別できず……ですが、あちらに道が続いていることは確かです」
「いえ、大丈夫ですよ。すみません、ムチャを言って」
シルフさん、別に気配探知特化とかじゃないですからね。道はわかっても、ルナちゃんの気配を辿るのはさすがにムリでしょう。こういう時は、適材適所の役割分担です。
そこからはシルフさんのナビゲーションと私の大ざっぱな気配探知を組み合わせ、先に進んで行きました。十分も進んで、ようやくそれらしきついたての前にたどり着き、私は二人に目で合図を送ります。
二人が頷くのを確認してから、私は中に向かって声をかけました。
「ルナちゃーん!! いたら返事してくださーい!!」




