二十二話 水中ダンジョンにも敵はいるんですね…… 1
シルフさんの泡の結界、『泡沫の守護』に乗って水中を進みます。ちなみに名称は私が勝手に考えたものなのですが、シルフさんに提案したところ速攻で受け入れられたので決定ってことになりました。
水中で襲いかかって来る魔物は、やはり魚系が多かったです。
上半身が人間、下半身が魚の人魚を始めとして、人と魚のミックスな半魚人、やたらと鋭い牙とモリを持ったサメなんかもいました。コボルトやゴブリンとの兼ね合いを考え、それぞれマーメイド、フィッシュマン、バイトシャークと名付けてみました。まんますぎというツッコミは、英語を知らない三人からはなかったです。
ちなみにですが、マーメイドは別におっさんだけではありませんでした。気味の悪い白髪の老婆なんかもいたので、普通に両性いるみたいです。まあ、そうでないと繁殖できないので納得と言えば納得ですが。
「ふうむ、けっこう進んで来ましたが、終わりが見えませんね」
まっすぐ進むこと三時間。終わりが全く見えません。これは困りましたね……
「あ、そう言えばフィーマさん、体調は大丈夫ですか? 減圧症も怖いですが、入ってからかなり経っていますからお腹が空いたりとかは」
「げんあ……?」
「ええと、水深が深いところに急に行って帰って来ると、体調が悪くなるんです。さっき魔物を退治するのに急浮上したので、大丈夫かなと」
「それでしたらご心配なく。この中は空気の圧力は一定にしております!」
話を聞いていたシルフさんが、ドヤ顔でそう言って来ました。
「あ、そうなんですね。ありがとうございます」
「これくらい当然のことですとも!」
一言お礼を言っただけなのに、とても鼻を高くしていました。わかりやすくていいのですが、あまり天狗になってしまう後が困りそうなので今度は少し諫めた方がいいかもですね。この程度までなら可愛らしいのでいいですが。
「お気遣いありがとうございます、ミーシャ様、シルフ様。確かに少々小腹が空いて来ましたが、携帯食料持参ですので問題はないです!」
言うなり背負っていたカバンから取り出したのは、干し肉でした。ちゃんと日持ちをする食料持参とは、後先考えずについて来たわけではないようですね。とても安心しました。
まあ、最悪襲いかかって来る魔物の食べられそうなやつを調理すれば、食料は手に入るのでフィーマさんが飢え死にする心配はないでしょう。
そんなノリで更に進んでいると、突然フィーマさんが辺りを見回しだしました。
「ずいぶんと明るくなって来たような気がしませんか?」
そんな風にフィーマさんに言われてから、初めて気がつきました。本気を出すと光が一切なくてもぼんやりと見える私や精霊二人とは違い、普通に光が必要なフィーマさんだからこそ気が付けたのでしょう。
今になって考えれば、水深百メートルはある場所にいるのに、明かりも点けずに目視で辺りが見えることがおかしいですよね。
光量が増えると共に、なにやら景色にも変化が表れはじめました。
それまで眼下に見えていた美しいサンゴの森が途切れ、今度はガラスのような海藻の群れになったのです。しかも一つ一つがぼんやりと夜光塗料のような色で光っており、それのせいで辺りが明るくなったのがわかりました。
そのまま進んで行くと、デンッと威圧感のある建物が見えて来たではないですか。
「竜宮城……にしては、なんだかボロいような……」
それもお城、と言うよりも、刑務所のようなでした。高い塀に囲まれ、中央にそびえ立つ塔には格子がはまっているように見えます。あちらこちらに、大きなヒビが入っているのも見えますね。水中なので鉄ではないようですが、だからと言ってなにかと訊かれれば答えに窮する素材でした。
「なんか閉じ込められてそうな見た目なのですなー」
私の腕の中で今の今まで静かに眠っていたノームちゃんが、いきなりぱちりと目を覚まして言いました。あまりにもやることがなさ過ぎて、いつの間にか寝ちゃっていたんですよね。
「たしかに、ノームの言う通り虜囚でもいそうな雰囲気だな」
「シルっちもそう思うのですな? ミーシャ様、できればあの建物は見なかったことにして通り過ぎた方がいいと、精霊としての勘が言っているのですな!」
「そうしたいのはやまやまなんですが……多分、手遅れです」
私がそう言い終えるのと、同時のことでした。
ゆっくりと広がっていた小さな亀裂が、ビキリと音を立てて建物全体に及んだのです。
目の端には引っかかっていたのですが、見ないことにしてたんですよね……でも、そうは問屋が卸さないようで。
建物全体にまで広がったヒビがヒビであったのは、本当に一瞬のことでした。あっさりと建物はガラガラと音を立てて崩れ、中に縛められていたなにかが姿を現したのです。
「な、なんですかこの表現に困る生命体は……」
一応、魚にカテゴライズされると思われます。ウミヘビのごとく下半身が長いのですが、しっぽの形状は間違いなく魚のものです。私の知識で一番近い下半身は、多分サンマかと。
そして上半身ですが、これがまた特徴的です。境界が曖昧なので上半身下半身という表現でいいのか迷いますが、ともかく。胴体に直接つながっているのは、ケルベロスのように三つ並んだ頭でした。
正三角形を描くように存在する頭は、それぞれが別の魚のものです。上がピラニア、右下がチョウチンアンコウで左下が……なんでしょう、やたらカラフルですけど……よくわかりませんが、無駄に鮮やかなレモンイエローの熱帯魚です。
強いて名前を付けるとすれば、ケルベロスフィッシュですかね?
「うー、やっぱり精霊の勘は当たるのですな……」
「仕方がない。これを避けるのはムリだろう」
強敵が現れたことがイヤそうなノームちゃんを、シルフさんがやれやれといった様子で慰めていました。なんとなく申し訳ないですが、私にはどうすることもできなかったですしね……
とにかく。今は気持ちを切り替えて、目の前のケルベロスフィッシュをどうにかしましょう。
私はそろそろダンジョン終わらないかなー、でも次の扉見つけちゃったしムリだろうなーと思いながら、ケルベロスフィッシュに相対したのでした。




