二百一話 自信がないのは問題ですが……
この村最後と言っていい、研究をしてくれるドワーフ。それが一人しかいないということなのですが、この場合どうするのが正しいのかわかりません。本人曰く、落ちこぼれらしいので……
ドワーフの中にも、器用不器用があるのでしょう。私のような凡人から見れば、ケタ違いの器用さかもしれませんが。根本的に器用な種族の中では大したことのない、むしろ不器用だと思われてしまうのでしょうね。
もし、私程度の器用さだったとしたら……あれですね、ドワーフの方たちにとってはいない方がマシレベルになるかもしれません。
私も精々、米粒に文字が書けるくらいですし。あれ、ちょっとガンバれば一文字くらいなら割と簡単なんですよね。あれに写経できる人でも、おそらくドワーフで一番不器用な方にも適わないんじゃないでしょうか。
そう考えると、ドワーフという種族のすごさがわかります。他の種族では、逆立ちしたってマネをすることは不可能でしょう。なのでガドラスさんも、私からみれば相当器用なはずです。
それによく考えてみると、ここに来て最初に遭遇したあのマナキュールの門番。あれこそがガドラスさんの研究成果だったのでしょう。そんなようなことを言っていた記憶があります。
経緯はどうあれ、マナキュールを自力で創れるような人であれば任せても大丈夫な気もしますが……あれを一人で創り出したわけですから、まるっきりなにもできないわけではありません。むしろ、すごい成果を出しています。
もし研究を頼むとなれば、ある程度頑丈な設備は必要でしょうけど。たとえば、シェルター的なものが。あの門番のように、逃げだしたり暴走したりすれば、とんでもないことになってしまいますから。ちょっとその辺、交渉してみましょうか。
「そういうことであれば、このマナ・ダイヤモンドはガドラスさんに加工法の研究をしていただきたいのですが」
そうお願いすると、ガドラスさんは飛び上がらんばかりに驚いていました。
「じ、自分ですかっ!? え、よりによって!? いややめておきましょう。危ない橋をわざわざ渡る理由なんてないです! どうせ失敗するのが目に見えてますって!! だったらなにか被害が出ないように、自分はなにもしないのが一番だって思うんですよ!! だって自分ですよ!?」
「あなた、自分に対する信頼度低すぎませんか……?」
自信がないにもほどがあります。そこまで全力で否定しなくてもいいと思いますよ? 意外とすごいもの、すでに創っているわけですし。
「大丈夫ですよ。別に必ず成功させろと言ってるわけじゃないんですから。加工法がないならないで、仕方がありません。ですが、先ほどのマナキュールのようなものが創れるあなたなら、もしかしたらマナ・ダイヤモンドの加工法も見つけられるんじゃないかと思ったんです。ねえ、シルフさん」
「ええ、確かにあの門番はまだ改良の余地がありますが、あの素材を一から創り出したのだとすれば、研究の成果としては充分すぎるほどかと。わたくしは、あのような素材見たことも聞いたこともありませんでしたから」
シルフさんにも肯定され、ガドラスさんはますます自信なさげに挙動不審になっていきました。
「いやでも、あれは偶然の産物で……まさかあんな物体ができるだなんて夢にも思ってなくてですね、次もうまく行くとは……」
「研究なんてそんなもんですよ。うまく行く時もあれば失敗する時もあります。それに、偶然の産物で世界に広まったものなんてたくさんありますよ」
まあ、これは地球での話ですけど……ですが、それがこの世界に当てはまらないとは誰にも言えません。
「心配でしたら、今からこれを加工する際に事故が起きないように、設備の一部に魔法をかけます。と言っても、ただの結界ですが。そうしておけば、多少失敗しても周りには被害が出ずに済みますから」
「……自分で、本当にいいんでしょうか」
「ええ、もちろん。あなただから頼むんです」
もし、もっと他に研究してくれる方がいらっしゃったら。もし、マディルさんがまだこの村にいたら。別の人に頼んでいたかもしれません。ですが、今できるのはガドラスさんだけ。なら、ガドラスさんにガンバってもらうしかありません。
それに。ガドラスさん、確かに他のドワーフに比べたら不器用なのかもしれませんけど。とても真面目で、仕事を任せても大丈夫だという安心感はあります。ガドラスさんであれば、きっと投げ出さずに最後まで研究を続けてくれることでしょう。
しばらくの間、ガドラスさんは悩むように空中に視線をさまよわせていました。けれどやがて決意してくれたのか、まっすぐに私を見ました。
「じ、自分でよければ。謹んで、お受けしたいと思います」
「ありがとうございます、ガドラスさん」
うまくいくかどうかは、まだわかりませんが。これで少なくとも、第一歩は踏み出せました。結果は吉と出るか凶と出るか。今日と出るにしても、せめて私がどうにかできる範囲でのことにしてほしいですね。それなら、いくらでも私がリカバリーするので。
というわけで、マナ・ダイヤモンドの加工法を探してくれる方をゲットすることができたのでした。




