二百話 色々適当すぎます
ガドラスさんもよく迷子になると言っていましたが、それもムリからぬことです。なぜならこの村、本当にメチャクチャな道ばっかりなんですもの。
天井に空中、さらにここは地下なのにさらに下へもぐったりと、とにかく忙しいです。しかも右に行ったはずなのに、気づけば元の場所に戻ってる――と見せかけて、まったく違う方向にいる、なんてこともザラですし……
「この村、一回道を整備した方がいいのでは……」
「ですよね……自分もそう思います。どうにかするいい方法、なにかありませんか?」
「うーん、難しいですね……」
同じドワーフならまだしも、私部外者なので言うことを聞く義理はないんですよ。それに、大多数のドワーフの方たちにとっては、特に不満のない普通の道扱いらしいのがまた厄介です。感覚や常識の違う相を説得するのは、難易度が高いんですよ。
まあ、一応。最終手段的な方法がないわけではないです。ただこの方法を使ってまで道を整備させたいかと言うと、ちょっと微妙なんですよね。これもドワーフの方たちの問題ですし。あと、最終手段が生前フォルムでの説得なので、個人的になるべく避けたいです。
なぜ生前フォルムが神扱いというかあそこまで気に入られてるんでしょうね? ドワーフの方たちがみんなロリコンとかいう理由だったら……ええと、身の危険を感じるのでよけいにやりたくないですね。
道の件はさておき、あちこち回ってみましたがなかなかマナ・ダイヤモンドを加工できそうなヒントは得られませんでした。ガドラスさんに白金等級の方をかたっぱしから紹介していただいたのですが、どの方にも加工はムリだと言われてしまいました。
マナ・ダイヤモンド本体をどうにかするのは難しくても、後付けのリミッターくらいはどうにかなると思っていたのですが……考えが甘かったみたいですね。
「すみません、お役に立てなくて」
「ああいえ、ガドラスさんのせいじゃありませんから。完全な未知の物質なのが問題であって、今後たくさん発見されるようなことになればきっとどうにかできますよ」
それがいつになるのかわからない以上、このマナ・ダイヤモンドは厳重に保管した方がいいでしょうか。それとも、一番どうにかできそうな可能性の高い方に預けて、研究してもらった方がいいのでしょうか。
そんなことを考えながらもなんとか村を一周し、ドギスさんの家の前まで戻って来られました。まさか村を見て回るだけなのに、ここまで疲れるとは思ってもみませんでしたよ……
「どうなさいますか、ミーシャ様」
「そこなんですよねぇ……シルフさんとしては、預けるのと封印するの、どちらがいいと思いますか?」
「わたくしとしましては、預けた方がよろしいかと。ここで完全に封印してしまうと、今後マナ・ダイヤモンドを加工できる者が生まれない恐れが出て来るかと。ただ、それだと暴走した時の危険がないとは言えません」
「ですよね……私もそこで引っかかっているんです」
すさまじく純度が高い、マナのかたまり。使い方によっては、新たに世界を創れる可能性すら秘めています。それを考えると、渡すのも心配で……ですがもし、ドワーフの方たちが自力で別のマナ・ダイヤモンドを見つけた場合。それをいつの間にか加工していることもあり得るわけで。
もし、私の知らない間に事故が起こったら……そう考えると、私がある程度の設備を整え、そのうえで研究なり加工なりしてもらうのが、一番安全なのかもしれません。少なくとも、知らない間に村が丸ごと吹き飛んでいた、となるより遥かにマシでしょう。
と、いうわけで。マナ・ダイヤモンドの研究を引き受けてくれそうな方の心当たりをガドラスさんに訊いたわけですが、なぜだか渋い顔をされました。
「ええとですね、皆なにかを創るのは好きなので、加工でしたらいくらでも引き受けてくれます。ですが、研究となると……面倒がって引き受けてくれる同族はあんまりいないんですよ」
「なるほど、研究は苦手なんですね……」
根っからの職人気質なのでしょう。なのでちまちました研究には、興味がないと。理屈はわかりますが、チャレンジ精神が旺盛とは言えません。というか、それならこれまではどうしていたんでしょう?
ガドラスさんに訊いてみると、帰って来たのは意外な答えでした。
「普通の同族は研究なんて面倒だってほっぽらかしてましたが、前の村長は違ったんですよ」
「え? マディルさんですか?」
「ええ。マディル村長はなにかを創るだけでなく、いつでも新しい素材を探し、色んなもんの研究をする人でした。今回どこかへ出かけてしまったのも、もっとたくさんの未知の素材を探すためってのが大きな理由らしくて……」
そう言えば、ドギスさんがそんなこと言ってました。なるほど、ここでは新しいことをする人は少なく、つまらないからという理由でマディルさんは旅に出ることにしたわけですか。なんだか、気持ちはわかるような気がします。だからと言って村長の仕事放り出して旅に出ていいことにはなりませんが。
あれですね、引き継ぎって大事です。
「では、もう研究を引き受けてくれるような、奇特なドワーフの方はいらっしゃらないんですか?」
その質問に。ガドラスさんはとても気まずげにそろそろと手を挙げました。
「そ、その、一応自分研究というか、実験メインではありますが、ええと……」
実力が、とぼそりとつぶやく声が聞こえ。この人に預けても大丈夫なのかと、悩むハメになったのでした。




