二十話 ダンジョンに知り合いがいたりすることもあるのです
玉座の裏にあったとびらをくぐると、その先に待っていたのはこれまでと同じ謎物質でできた空間でした。天井もちゃんとあり、普通に室内です。
そしてそのど真ん中に、これ見よがしに階段が設置されていました。なぜか螺旋階段ですが。しかも一段一段空中に浮いているので、本当に登ってもいいのか悩む仕様です。
天井の高さから見て、五メートルも登れば次の階に着くかなと思った時でした。階段の上の方から、何か茶色いものが落ちてみるみるうちに私のところへ――
「わわっ!?」
驚きつつもとっさに魔法で受け止めると、落ちて来たなにかには見覚えがありました。
「って、ノームちゃんじゃないですか!!」
茶色い物体。それは土属性の精霊である、ノームちゃんでした。
外見は、小型犬とモグラを足して二で割ったような感じで可愛らしいです。なにより、ふわっふわのもっふもふなのです。しかもぬいぐるみサイズなので、抱きしめるのに最適でもあります。
ノームちゃんは精霊なので、実体のない私でも触れることができます。なので魔法ではなく手で受け止め直すと、そのツヤツヤもふもふな感触で一気に癒されました。ずっと抱きしめていたくなる抱き心地です……
あまりにふわふわ感に思考を放棄しかけたところで、ノームちゃんが目を覚ましました。
「うーん……はっ!? こ、これはこれはミーシャ様!! 久しぶりであるのですな!! お元気そうでなによりですな!!」
「お久しぶりですね、ノームちゃん」
「久しいな、ノーム」
「おー、シルっちではないのですな! 久しぶりなのですな!」
微妙わかりづらい日本語で話すノームちゃんは、短い手を上げて応える仕草が超絶かわいいです……!! このまま本体のところまで持って帰って、毎日もふりたいくらいですよ!!
と、そこでフィーマさんが戸惑ったような目で私とシルフさんの間で視線をさまよわせていることに気付きました。
よく考えれば、この状態ではフィーマさんはノームちゃんを目視することが叶わないのです。
「すみませんノームちゃん。実体化してもらってもいいですか?」
「むむっ? おお、人間もいるのですな。気付かず申し訳ないのですな」
そう言うと、ノームちゃんはすぐに実体化してくれました。元が精霊だからか、実体を持っても触れていることが可能です。
「はっ、初めまして土精霊様!! わたしは近くの村に住むフィーマと申します!!」
「私の友達ですよ」
「い、いえそんなめっそうもない!!」
キョドるフィーマさんにコメントはせず、ノームちゃんはポンと手を打ちました。手にも毛が生えているので、実際はもふんっといった感じでしたけど。
「そうかそうか。ミーシャ様の友達なら、オイラとも友達なのですな。フィっちーと呼ぶのですな! そっちは気軽にノッチーと呼ぶのですな!」
「そそそそんな恐れおお多い!? 友達というだけでご迷惑だというのにっ……!!」
「? オイラ迷惑とは思ってないのですな。思っていたら友達にならないのですな。それともフィっちーは友達が迷惑なのですな?」
「そういうわけでは……」
「なら決まりなのですな!」
嬉しそうに破顔するノームちゃんに根負けする形で、フィーマさんにまた一人友達が増えたのでした。
「ところでノームちゃんは、なぜこんなところにいたのですか? 確かあなたは、いつも地中で暮らしていたと思ったのですが」
あちこちを旅するのが好きで、一所に留まるのが苦手な方なのです。なので連絡を取るのは至難の業なのですが、そんな方がなぜこんなところにいるのでしょう?
私の疑問に、ノームちゃんは小首をかしげてさも当然といった風に答えました。
「オイラも精霊の端くれなのですな。よくわからない危険そうな場所があったら、調べた方がいいと思ったのですな」
「そうでしたか……ありがとうございます、ノームちゃん」
まさか自主的に捜査しに来てくれているだなんて……!!
嬉しい誤算でした。さっきの巨大スライムで思いましたが、やはり戦力が不足していたと思うのです。ここで強力な土魔法が使えるノームちゃんの参戦は願ったり叶ったりでした。
「ではこれから、私達と一緒に来てくれますか? 私達も調査中なんですよ」
「それは奇遇なのですな! 一緒に行くのですな!!」
ノームちゃんに快諾していただいたので、これで三人パーティから四人パーティになりました。
「やはり今度、もっと精霊同士で連絡が取り合えるネットワークを作り出しましょう。緊急の時に連絡が取れないのは、やはり不便ですから」
相性に左右されない連絡手段がいいですね。今回のこのダンジョン攻略も、もう少し人数を割くべきでした。何が待ち構えているか本気でわからないのですから、戦力が多いに越したことはありません。
私に実体があれば、また違ったことが色々できるんですけどねー。と考えて、ふと疑問に思ったことがありました。
「そう言えばとても今更なのですが、フィーマさんには私がどんな風に見えているのですか?」
「ど、どんな風と言いますと?」
「ええと、今の私には実体がない状態でして。まあ、私の場合は実体を持てないと言った方が正しいのですが。とにかく、幽霊状態なわけでして。フィーマさんの目には、どう映っているのかなーと思ったのですよ」
とりあえず階段周りには魔物が出て来ないようでしたので、みんなで階段を登りながら訊いてみました。
最初に持つべき疑問だったのですが、フィーマさんがあまりに自然に私と話すので忘れていました。私は実体化をしていないので、よくよく考えるとフィーマさんが見えているのはおかしいのです。
フィーマさんは数秒ほど悩んだ素振りを見せていましたが、なんとか言葉にしてくれました。
「ええと、なんと言えばいいのか……ちゃんとそこに存在していらっしゃることはわかるんですけど、はっきり見えているわけではないのです。なんとなくお姿はわかるのですが、向こう側が透けていて……先ほどの攻撃が当たった直後は、ほとんどお姿が見えなくなっていました」
ふむ、まさしく幽霊状態なわけですか。つまりあれですね、マナの濃度で見え方が変わるわけです。なら、私も思いきりマナの濃度を上げればなにか面白いことができるかもですね……
そんなことを考えているうちに、私達は二階部分へとたどり着いていたのでした。




