十九話 ダンジョンには必須と言えば必須ですけど 3
スライム弾は実体のない幽霊状態の私にも命中し、物理的には存在しない体をドロドロと溶かしていきます。完全に油断しました。実体がないので、物理攻撃は効かないと思っていたのですが……
「「ミーシャ様!?」」
二人の見事にハモった悲鳴に本気でヤバいのでは、と思った時、融解が止まりました。どうやら、体全部溶かされるような事態にはならずに済んだようです。でも、何かが妙なような……
「なんか縮んで――」
「ミーシャ様、その御姿はいったい!?」
慌てるシルフさんの声にピンと来た私は、すぐに水で作った鏡を目の前に出現させました。
「これまたずいぶんと懐かしい姿に……」
一言で言えば、生前の姿でした。座敷童みたいな、和風のおかっぱ少女。この姿は、どれくらいぶりでしょう。千年単位でしたっけ? まあ、この姿でいた時間は実はけっこう短いんですよね。座敷童期間、二十年とないですもん。享年十七年ですし。
というか座敷童っぽいのは、おかっぱのせいですよ。なぜボブカット、と注文しておかっぱに仕上がるのか――って、今重要なのはそこじゃないです。
スライム弾が当たった私の体は、魔法で変化させていた部分だけがキレイに溶け、私本来のこの姿が露出した、といった次第のようです。痛みは一切ありませんが、イラッとはしますね。
「ミーシャ様、お怪我はございませんか!?」
「お体の具合は……!?」
「大丈夫ですよ。久々に身長が縮んだせいで、見通しが悪くなったくらいしか実害ないですから」
口々に心配され、逆に申し訳ないです。ダメージはないのですが、違和感がありました。おそらく魔法を発動させるのに使ったマナそのものを溶かされてしまったため、この姿になったのでしょう。
「それにしても、本気で厄介ですねこれ……」
ここまで攻略難度高いとなると、やはりラスボスでしょうか。でもなんか、玉座の後ろに扉っぽいものが見え隠れしてるんですよね……ってことは、中ボスでしょう。これで中ボスとは、先が思いやられます。
この場で巨大スライムを倒す方法、何かないですかね……炎魔法、氷魔法、雷魔法、全ての案が危険なので却下ですから。
木魔法で吸収、する前に溶かされますね。光魔法で蒸発、させても熱が発生するからやっぱり蒸し焼きになります。スライムは厳密には水ではないので水魔法で操れないですし、残りは土魔法と闇魔法……いえ、この際属性とか無視でいいですね。
「お二人共、少し下がっていただけますか」
「りょ、了解しました!」
「さすがはミーシャ様、何か妙案を思いついたのでございますね!?」
「シルフさんの期待に添えるかまではわかりませんが、まあやってはみます」
慌てて下がるフィーマさんに合わせ、シルフさんが風の壁を張り直してくれます。言わずとも守ってくれるようになって、私はとても嬉しいですよシルフさん。今度、なにかシルフさんのお願いを一つ聞くことにしましょう。
そんなことを考えながら、二人が下がり切るのを待ちます。スライム弾は私でも当たるとマズいみたいなので、慎重に避けながらある程度接近。それから、巨大スライムに向かって両手を向けました。
こんなことをやるのは初めてですので自信はありませんが、上手くいくことを祈りましょう。
「ええと、水分子をイメージして……」
実物を見たことはないので完全なる想像ですが、水分子っぽいものをなんとなくイメージします。小さい水色の球が二つと透明な球が一つくっついている感じですかね。うろ覚えですが、たぶんそんなやつです。
次に動き回っているそれが、ピタリと静止するところをイメージしてみます。
変化は、劇的に現れました。
それまで盛んにスライム弾を飛ばしていた巨大スライムが、ビシィッと音がしそうなほどキレイに動きを止めたのです。そしてみるみるうちに、その巨体を凍らせていきました。
正味、一分くらいでしょうか。それくらいで、カチンコチンに凍りついたスライムの氷像が完成したのです。このままでは溶けた時に危ないので、粉々に砕いておくのも忘れません。
分子構造がバラバラになるところを思い浮かべた結果、凍ったスライムはダイヤモンドダストとなって消え去って行きました。ここまですれば、さすがに復活されることはないでしょう。
水分子の振動を止めて水を氷にしたため、周囲の温度はさほど下がらずに済みました。氷魔法では、できない芸当です。あれは周辺の気温を下げることで凍らせますから。なんにせよ、成功してよかったです。
ホッと胸をなで下ろす仕草をすると、虚しく右手が空を切りました。
「……」
スカッてしましたよスカッて。よし速攻戻しましょうそうしましょう。もはや私の本当の姿はあれであり、これは進化前のサナギみたいなもので、いえやめましょう虫と一緒は勘弁なので。この姿はあれです、タマゴから生まれたばかりの状態みたいな、レベル1の姿で今からメガな感じで進化するのです。
内心をすさまじい速さで言い訳が駆け巡りましたが、気がつかなかったフリで女神の姿へ変わる魔法をかけ直します。
「ミーシャ様、よくぞ御無事で!!」
「さすがは世界樹の女神様です!! あのような変な魔物を、一瞬にして倒すだなんて!!」
私が二人にとっての元の姿に戻ったので終わったと判断したらしく、声がかけられました。
「まあ、運がよかっただけですよ」
本気でヤバそうな時は、フィーマさん用に防御魔法を作って、更にスライムに氷魔法辺りで凍らせる算段でしたから。
とりあえず中ボスと思しき巨大スライムを倒した私達は、玉座の裏にあった扉から奥へと進んだのでした。




