百八十二話 うっかりしていました
本日分の魔法の練習を終え、今日もルナちゃんをどこかにあずかってもらおうとしていた時でした。
「あ、あの、ダイスさん!!」
そう声をかけて来たのは、つい今朝撃沈していたワービスさんでした。
「はい、なんでしょうか?」
「そ、その、よろしければ、俺のところで晩ごはんなんてどうでしょうかっ!?」
真っ赤な顔でそう言ったところを見ると、どうやらまだダイスさんのこと諦めてなかったみたいです。ダイスさんも予想外だったのか、困ったような目をこちらに向けて来ました。
晩ごはんくらいなら大丈夫だとは思いますが……うーん、でも一人で行かせるのはちょっとまずいですよねぇ……うっかり余計なことを言わないとも限りませんし。ダイスさんなら問題ないでしょうが、あとでつじつまが合わなくなるのは困ります。
と、なると。あまり気は進みませんが、とれる方法一つです。
「ダイスさんを一人にするのは心配なので、私もついて行っていいでしょうか?」
「え、ミーシャ様がですか!?」
この世界に来てから初めてかもしれません。ここまで露骨に、『お前邪魔だよ』『空気読めよ』みたいな目を向けられたのは。
わかってます、わかってはいるんですよ。ワービスさんにとって、ダイスさん以外は邪魔だということは。ですがボロが出ることだけは避けたいんです。ダイスさんの今後に関わって来る、重要なことなんです。
「あ、いやその、俺なんかの家にミーシャ様に来ていただけるのはたいへん光栄なのですが、そのぅ……」
「僕からもぜひお願いします」
ダイスさんは私の思惑を察してくれたようで、ニッコリと微笑んでそう言ってくれました。想い人からそんな笑顔で頼まれてしまったら、断れる人はそうそういないでしょう。
「だ、ダイスさんがそこまで言うのであれば……」
ほら、笑顔に見とれすぎて本心がちょっともれてますよ。その言い方だと本当は来てほしくないと思ってることがまるわかりですよ。
まあワービスさんから見ればお邪魔虫なのは間違いないですから、仕方ないんですけどね。なのでシルフさん、その、貴様今自分がどういう態度を取っているのか理解しているんだろうな、みたいな顔はやめましょう? あと殺気放つのも。
それとなくシルフさんをなだめつつ、私たちはワービスさんの家まで行くことになりました。他の人からも誘いがあるかなと思ったのですが、それは皆無だったのは意外です。どうやらみなさん、ワービスさんに気を使ったみたいですね。
ちなみにシルフさんは外で見張りをしてくれるそうなので、外でなにか起こってもすぐにわかります。
ワービスさんの家に着くと、ちょっと外で待っていてくれと言ったあと家主は慌てて中に駆け込みました。ドタバタいう音が微かに聞こえて来るので、大急ぎで片付けているのだと思われます。
外から見た感じだと、時代劇に出て来るような木造の家、って感じですかね。屋根はワラっぽいですし、途中で見かけた井戸も木製でした。家によって若干造りが違うのは、建てた年代のせいでしょうか。
元々キレイな方だったのか、ものの数分でワービスさんは私たちを中へ呼びました。
「お邪魔します」
本当に邪魔だよと我ながら思いましたが、どうすることもできないのでそのまま中へ入ります。ダイスさんも同じように入って来て、戸を閉めました。ごく普通の引き戸ですので、カギなんかはついていません。セキュリティが心配ですが、まあこの辺の人たちみんな知り合いだから大丈夫とかでしょう。
田舎だからかと思いつつ中へ意識を向けると、かまどがあるような和風の家だということがわかりました。下で火を熾して鍋とかかけるんでしょう。中央には囲炉裏があり、天井からぶら下がったフックに鍋がかけられています。
「すぐ用意するんで!! そ、その、好き嫌いとかは……」
「特にはな……あ」
答えかけたところで、ダイスさんの動きが止まりました。それからヤバい! と書かれていそうな顔でこちらに来ると、ひそひそとこんなことをつぶやきました。
「ど、どうしましょうミーシャさん。僕骨なので、もの食べられないんじゃ……」
「あ」
わ、忘れてました……!! そうですよ、ダイスさんは本来骨なので、口になにか入れても下に落っこちるじゃないですか!! 着ているものがびしょびしょになれば、ワービスさんもさすがに不審に思うでしょうし……
すでに今の姿を見慣れてしまったせいで、重大なことを忘れてしまっていました。どうにかして誤魔化さないと、ダイスさんの正体がバレてしまいます。もしもバレてしまえば、追い出されたり悪ければ攻撃されてしまうかもしれません。
ワービスさんの招待を断らなかった時点で、お腹が空いてないとか宗教上の理由で食べられないとかいう言い訳は通用しないでしょう。ど、どうにかする方法を考えなくては……!!




