百七十八話 そんな話もありました
寝起きの機嫌は最悪と言っていいルナちゃんですが、ダイスさんの姿のせいで一気に目が覚めたみたいです。手間が省けたので、私としては助かりますが。ちなみに起こして来てくれたシルフさんはとても疲れる思いをしたようで、若干ぐったりしています。しばらくそっとしておきましょう。
「うわ超美人さんがいるッス!? 誰ッスかあれ!? っていうかなんで袴なんッスか!? どこから持って来たんス!? というか髪キレイッスねつやっつやじゃないッスか!!」
テンション高いですね……ただでさえそれなりに騒がしいルナちゃんですが、これはいつもより三倍くらい騒がしいです。
このまま無視をしたくなりましたが、そうもいかないので一旦私だけ結界の外に出ました。ダイスさんには、中にいるナノさんたちに魔法を教えてもらってくださいと言ってあります。ナノさんたちも快く、というかいつもよりやる気に満ち溢れた声で了承してくれましたので、すごく心配です。
間違いとかではなく、ナノさんたちはやる気がある方がなにしでかすかわからないので怖いんですよね。いきなりダンジョン造るような、規格外のことやらかすので。
というわけで、ルナちゃんの相手はなるべく早く終わらせ、終わらせて……なんでしょう。それはそれでムリゲーな気しかしません。でもやるしかないです。
「ええとですね、ルナちゃん。あの方は――」
「待ってくださいッス、センパイ! あたしは言われなくてもわかってるッス!!」
絶対わかってないに全財産賭けますよ、私。ええわかってないに決まってますとも。そもそも財産と呼べるものを今の私は持ってないのと相手がいないので賭けが成立しないのはさておき、全身全霊をかけて断言します。わかってないです、この子。
ですがここでツッコんでも面倒なので、ルナちゃんが勝手に宣言するに任せました。
「その人はあたしの後輩でこれから新たな神になる感じの、地球からの転生者ッスね!?」
どうだ、と言わんばかりに胸を張っていますが、掠りもしてません。
「この方はダイスさんと言いまして、」
「ほらやっぱり名前が英語ッス、あたし正解ッス!!」
話を、話を聞いてくださいなルナちゃん……全力でげんなりしますから。
「地球からの転生者ではありませんし、名前が英語なのは私が名付けたからで……ああもう、ルナちゃん、面倒なのでこっちに別結界張るから来てください」
ルナちゃんも巻き込んで結界を展開し、これでようやくなにを話しても大丈夫です。ダイスさんの結界に呼んでもよかったかなとも思いましたが、それだとダイスさんいつまで経っても練習ができなかったと思われるので、結果的に正解だったと思います。
「それでですね、あの方は昨晩近所の森で見つけたスケルトンの方です」
「スケルトン? なにが透けてるんスか? はっ、まさか透明人間ッスか!?」
「いえまあ透けてるっちゃ透けてますけど……」
肉がないので骨が透けている、と言えなくもないです。ですがたぶん、スケルトンの語源って全然違うと思うんですよ。確か……なんでしたっけ、ラテン語かなにかだったような……? しかもスケルトンが透けてるって、和製英語というか日本でしか通じない意味じゃなかったでしたっけ。
英語の知識なんてもううろ覚えです。最後に勉強したの、数千年前ですしねぇ……アニメとかによく出て来る英語とか、そういうのなら多少覚えてるんですけども。
「話戻しますけど、スケルトンっていうのはあれですよ、ゲームとかによく出て来た骸骨のことです」
「ああ、あのザコキャラッスね!?」
「あの、スケルトンであるダイスさん本人がいる前で、ザコ扱いはどうかと思うんですけど……」
確かにザコいスケルトン多いですよ? たいてい一撃で死ぬようなやつ多いですよ? でも、です。世の中には強いスケルトンもいるんですよ。いえまあ正確にはあの方骸骨ではありますがスケルトンではないですけど。
「とにかく、そのスケルトンです」
「……え、めっちゃ髪生えてるッスし肉あるんスけど。はっ、まさかヨミヨ――」
「違いますよ甦ったわけではなく幻術の仲間です」
しかも甦ろうにもダイスさんには生前がないというか、元からスケルトンとして生まれて来ているっぽいんですよ。なのであれは関係ないです。
「じゃああれ、センパイが作ったんスか?」
「まあ、そうなりますね。イメージが定まりきらなくて、ああなってしまいまして」
「なるほど、わかったッス。はじめましてッスダイスさん!!」
突然ダイスさんに突撃して行ったルナちゃんでしたが、アッサリ結界に弾き飛ばされました。
「ちょっ、大丈夫ですか!?」
「か、壁があるッス……」
「昨日説明した通り、魔法の練習中ですから結界張ってますよそりゃあ。ていうかルナちゃん、よくダイスさんの名前一発で覚えましたね?」
「それだけわかりやすい名前してれば憶えられるッス」
まあ、思いっきりサイコロって意味ですからね。いくらルナちゃんでも忘れようがなかったみたいです。それに三文字と短い名前ですし。
色々納得してくれたようなので、いよいよルナちゃんをダイスさんにまともに引き合わせることにしました。結界の一部を解除し、二人で中に入ります。
「というわけで改めて、よろしくッスダイスさん!!」
「ええ、はじめまして。そちらは確か、ルナさんというお名前だとミーシャさんからうかがっております。仲良くしていただけると嬉しいです」
「仲良くするッス!! というわけでダイスさん、ちょっと手触らせてほしいッス!!」
「あのルナちゃん、いきなりそういうのは……」
「べつに構いませんよ」
そう言って差し出された手を握ったルナちゃんは、それが見た目通りではなく骨の感触なのに相当驚いたようです。
「幻術すごいッス……センパイセンパイ、あたしも魔法ちゃんと使えるようになりたいんスけど!!」
……そういえば、そんな話していましたね。ルナちゃんにあんまり魔法に適性がないせいで、すっかり忘れていましたが。今から誤魔化すことって、可能ですかね……?