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百七十二話 見る目があると思います

「いやぁ、ホントごめんなさい。ついテンション上がっちゃって。ほら僕って骨じゃないですか、やっぱしゃべるのはムリかなーって思ってたんで。舌どころか声帯ないわけですし」


 テンションが落ち着いたのか、ダイスさんは割と普通の口調で話し始めました。文章だとていねいになるタイプみたいで、だいぶフレンドリーでしたが。


「あ、もしかして期待外れだったりします? 見た目こんな骨なのに、中身普通かよ、みたいな。うわどうしよう、もうちょいキャラを骨に寄せるべきでしたかね? こう、語尾にホネ、ってつけるとか。あ、つけた方がいいですホネ? 違うな、いいですかコツ? うーん、しっくり来ないなぁ……」


「いえあの、普通でいいです普通で。そんなキャラ付け求めてないですよ」


「でも僕、キャラ薄かったりしないですかね? 森に来る人色々見て来ましたけど、それに比べるとなんかこう、特徴乏しくないです?」


「見た目が骨の時点で充分キャラ濃いですから、一切心配いらないです」


 気にするところ間違っていますよ思いっきり。どうもダイスさん、文字で会話するとあんな感じでも、こうしてしゃべるとずいぶん饒舌みたいです。今までしゃべれなかった分の鬱憤(うっぷん)を、晴らしているんでしょうか。


 ていうか、この森に来た人どれだけキャラ濃かったんでしょう。ダイスさんがキャラ薄くないかどうかで不安になるって……半魚人とかデュラハンとか、はたまた口裂け女とかならわかりますけど。


 シルフさんは意外に騒がしいダイスさんに驚いたらしく、態度を決めかねているっぽいです。まあ、筆談だとかなり腰低くてていねいな雰囲気でしたからね。


「それでダイスさん。これで最初の願いは叶ったわけですが、他は大丈夫ですか? さすがに金銀財宝とか、不老不死――はいらないにしても、あまり難しい願いだと叶えられませんが……一人で生活できるようになるための願いは、ある程度は叶えますよ」


 この状態で、この人を放置はできませんから。それに、魔法を使えるからって暴走されたら困りますし。しゃべれるようになったということは、呪文さえわかれば普通の魔法が使えるってことですから。


 パッとは思い付かなかったのかダイスさんはわかりやすく首をかしげていましたが、不意にポンと手を打ちました。


「あ、じゃあじゃあ、見た目人間に見えるようになる的な、偽装魔法とかないですかね? それかけられれば、人間に混じって暮らせると思うんですよー。ほら、今しゃべれますし」


「それはありますけど……いいんですか? 人間に混ざって暮らすのって、相当たいへんだと思いますよ? 見た目の偽装は簡単でも触覚を騙すのは難しいので、誰とも接触できませんし……それに、ほぼ間違いなく寿命も違います。仮に仲良くなった人間がいたとしても、そのうちに一人になってしまいますよ」


 これは……まあ、一部経験談ですかね。今のところ私の周りは寿命が長い人ばかりなのでまだ直接的な別れはないですが、いつかそういう時が来るでしょう。その時、私がどう思ってどうするのかはわかりませんが……さみしくなることは、間違いないです。


 私としては、そんな心配からの質問だったのですが。ダイスさんはそれを聞いた瞬間、こう言ったのです。


「大丈夫ですよ、だってミーシャさんいるじゃないですか!! だから僕、完全に一人になることはないと思うんですよ!!」


「……ふぇ?」


 あ、あれっ? 私、そこまで話しましたっけ!? 名前は普通にシルフさんが呼んでいたので知ったのはわかりますけど、世界樹うんぬんとかまったく話した記憶が……というか、ちゃんとした自己紹介してないですよ!?


 なのになぜ、ダイスさんはこうも自信満々な風なことを言えるんでしょう……?


 ものすごくポカンとしているであろう私の顔を見たダイスさんの方が、むしろあれ? という感じに首をかしげていました。


「え、あれだってミーシャさんも長命な感じの人ですよね? どう見ても人間じゃないオーラですし、なんかすごい精霊っぽい人に敬われてますし。もしかして違いました!? やっちゃいましたかね僕!? うわ早とちりだったらごめんなさいです!!」


「い、いえ、合ってますけど……」


 まさかここまで言い当てられるとは思っていなかったので、ただ動揺しただけなんですが……よくわかりましたねこの人。他にそんな人、いませんでしたよ。


 名乗る前に私の正体をここまで看破した人、たぶんダイスさんが初めてです。村の人たちは魔物や幽霊の系統だと思ったのか驚いて攻撃して来ましたし、ただの人間には私の姿見えないですし……大佐は逆に見えすぎて、私を普通の人間だと思っているようですし。


 なんというか……大佐のようにケタ違いのレベルではなく、人間のレベルとしてはかなり高い魔法適性を持つと思われます。人間のレベルMAXって、もしかするとダイスさんくらいなのかもしれません。


「なるほど、たしかに本当の意味で一人になるおそれは少ないです。でも……私がずっと一緒にいられるわけではありません。なので」


 ただの思い付きですが、ダイスさんが受け入れてもらえる可能性のある場所が一か所あるのです。


「エルフの村で暮らす、というのはどうでしょう?」


「エルフってあの、耳が長く人を食らうという魔物の一種の!?」


「どんな話が伝わってるんです!?」


「え、違うんですか?」


 どこで話がねじ曲がったのか、あり得ない話に発展していました。とりあえずまずは、ダイスさんのエルフに対する間違った情報を修正するところから始めましょうか。


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