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百六十八話 森の中を探索してみましょう

 ルナちゃんの話に出て来た近所の森は、そこまで深い場所ではありません。昼間に行けば、普通に行って帰って来ることができるでしょう。が、今は陽もとっくのとうに暮れた夜半過ぎ。数メートル先も満足に見えない危険地帯と化していました。


 まあ、私は灯りを点けられるのでそこまで困りませんが。


「灯りを点けておけば、そこまで危険じゃないですね。うっすら魔物の気配もありますけど、そう強くないでしょうし。狩って食べる分にはちょうどいい相手でしょうね」


「さすがはミーシャ様です! 一瞬でそこまでわかるのですね!」


「ええまあわかりますけど……シルフさん、なんかいつもよりテンション高くないですか?」


 なぜかシルフさんのテンションが、いつもより遥かに高いのです。どこか嬉しそうというか、全体的に鼻歌を歌いそうなくらいルンルンしてるというか……


 私の質問を聞いたシルフさんは、首をかしげてこう即答しました。


「ミーシャ様と二人きりでの任務、嬉しくないわけがないではないですか!! これで喜ばない者など存在しません!!」


「ええとですね、その、そんなにテンション上げられても、これといったことはなにもできないので困るのですが……」


「なにをおっしゃいますか!! ミーシャ様であれば、必ずわたくしの期待なぞ簡単に超えると信じておりますとも!!」


「いえですから、期待されても困るんですって」


 ただ近所の森を見に行くだけで、ここまで嬉しそうにされても困惑するしかありません。しかもこの森で感じられた気配が、いつまでもここにいるとは限らないのです。普通に移動してる可能性もありますし、そもそも村人たちの勘違いの可能性だってないとは言い切れません。


 もしそうだとしたら、ちょっぴり危険な散歩をしただけになります。


「大丈夫です、ミーシャ様であれば間違いなくなにかしらを見つけます。わたくしが保証いたしましょう!!」


「えーとですね、いったん落ち着きましょう?」


 うーん、これはあれですかね。最近二人でいるようなことなかったですし、他の人いると気を張るせいでテンション上げられないのかもしれません。特に他の精霊さんがいる前では、しっかりしようという意識が働くみたいですし。


 こう考えると、シルフさんって長女キャラなのかもです。下の子がいるとお姉さんやってくれますが、下の子がいない時は存分に甘えて来ると言うか。過剰に期待を寄せることを、甘えていると表現するのであればですが。


 そうですよね、よくよく考えてみればシルフさんは最初に生まれた精霊さんなわけで。全精霊さんたちのお姉さんと言っても過言じゃないです。シルフさんの中で、ナノさんたちの扱いがどうなっているのかはわかりませんけど。話しぶりからするに、ナノさんたちも弟や妹扱いなのかもしれませんね。


 ルナちゃん相手に甘えるのはほぼ不可能でしょうし、つまり実質私と二人きりの時しか甘えられないわけで……この説が正しいのであれば、この状態も仕方ないのかもしれません。私としては少々困りますけど。


 色々考えた結果、シルフさんにとやかく言うことはせずたまには思いっきり羽を伸ばしてもらうことにしました。どうもシルフさんの場合、一人でいてテンション上がるタイプじゃないようなので。


 それとは別に、必ずどこかで休んではもらいますが。いくら精神的に元気でも、肉体的にも元気とは限りませんから。まあ、シルフさんも基本実体がないので肉体的に疲れるのかどうかはよくわかりませんが、そこはスルーしておきます。


 なのでテンションの高いシルフさんに困惑しながらも、私たちは順調に森を順番に見回って行きました。ここで二手に分かれないのは、いくら灯りがあってもこの中で一人になるのは危ないからです。


 うっかりなにかのトラップやナノさんたちの気まぐれが炸裂して、どこか異空間に行ったりしないとは言えませんので。


 しばらくしゃべりながら歩いていた時のことでした。突然、シルフさんが足元を見て不思議そうになにかを拾ったのです。


「どうしました?」


 尋ねても、すぐには返事がありません。シルフさんがこんな風に困るというか固まるだなんて、いったいどれだけ妙ちきりんなものを拾ったんでしょう?


 もう一度同じ質問をすると、ようやく我に返ったように手の中のものをこちらに見せて来ました。


「ミーシャ様は、これをなんだと思いますか?」


 その言葉に込められた困惑は、初めて聞くレベルのものでした。そしてシルフさんの手の中にあった物体は、たしかにシルフさんを混乱の渦に叩きこむに相応しい物体でした。


 骨。思いつく限りもっともシンプルな表現をすると、そうなるでしょう。もう少し具体的に言えば、不自然なまでに白い下あごの骨でした。


「……(おとがい)って、人間にしかないって聞いたことあるような気がします」


「では、やはりこれは」


「ええ、おそらくは人間の骨です」


 これが、ここにあるということは。近くに他の骨もあるはずです。下あごがない人間が普通に生きて行けるとは思えませんし、ならば他の部位も――白骨化した遺体が、どこかにあるはずです。


「……少し、辺りを探して――」


 もしも無念のうちに死んだ方であれば埋葬しなければと思い、シルフさんに声をかける直前のことでした。


 目の前に、下あご以外全身そろった白骨が現れ。そして、慌てた様子で手をブンブンと振ったのは。


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