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十六話 ダンジョン(?)攻略開始です 2

 警戒を初めて、僅か数十秒のことでした。


『バウッ!!』


 大型犬のような鳴き声と共にどこからともなく現れたのは、おそらく魔物。なぜおそらくかと言えば、その魔物がなんとも言い難い姿をしていたからです。


「魔物、ではあるんでしょうが……まさか、コボルトとか言わないですよね?」


 一言で言うとするならば、犬顔のちっちゃいおっさんでした。


 いえこれじゃ伝わらないですね。正確に言うと、パグそっくりの顔をした、二頭身で中途半端に毛の生えたおっさんです。って、なにも情報が増えてないですねこれ……


 とにもかくにも、妙な生命体でした。しかも、口からはだらだらと粘性の高いヨダレが滴り、息が荒く棍棒を持っているのです。もしコボルトでないとするのであれば、変質者になりますね。毛のお蔭でどうにかなっていますが、ほぼ全裸ですもの。辛うじて腰巻らしきものを巻いているだけで、それ以外は何もなしです。


「あの、お二人はあれに見覚えありますか?」


 隣にいるシルフさんとフィーマさんに尋ねてみますと、どちらも警戒したまま困惑顔で頷きました。


「ええと、あれはコボルトと呼ばれる魔物なのですが……」


「あ、やっぱりですか」


「わたくしの知る限りでは、この周辺には生息していないはずなのです。もっとも近いところでも、五十キロほど離れております」


「わ、わたしも生きている実物は初めて見ました……前に村長が、どこからかはく製をもらって来たことはありましたが」


 ふむ、微妙な距離ですね。コボルトの身体能力は知りませんが、人間でも踏破できる距離ですし。けれどずっとこの辺に住んでいるフィーマさんが見たことないと言うのであれば、やはり生息域が違うのでしょう。問題は、そんな魔物がなぜここにいるのかという点です。


 そんな風に悩んでいると、それを隙ととったのかコボルトが棍棒片手に襲いかかって来ました。


 適当に追い払うか、と考えた矢先、すぐ近くから銀色に閃く物体が高速でコボルトの脳天に突き刺さりました。


『キャウンッ!?』


 まさしく犬といった悲鳴を上げたかと思うと、コボルトはばたりとその場に倒れ込んだのです。数秒ビクンビクンと痙攣していましたが、それもやがて完全になくなりました。


「……今のは、フィーマさんですよね?」


 驚きと共に矢を射終えた体勢のままのフィーマさんの方を見ると、慌てた様子で直立不動になりぶんぶんと頷きを返して来ました。


「す、すみません、差し出がましいマネを……!! わたしなんかが何もしなくとも、ミーシャ様でしたら一瞬で片付けられたものをっ……!!」


「あ、いえ。責めるつもりは毛頭ないです。むしろすごい腕前ですねと、褒めたかったんですよ」


「わたしごときを褒めるだなんて、そんな恐れ多い……!!」


 どうも無自覚のようですが、フィーマさんの弓の腕は確かなものです。一撃でキレイに頭を撃ち抜いた腕前は、かなりのものかと。少なくとも、私には無理です。


 フィーマさんが褒められていることが気に入らないのかシルフさんは仏頂面でしたが、突っかかりはしませんでした。ケンカをしないでくれと頼んだので、それを実行してくれているのでしょう。


「この様子でしたら、このまま三人で奥に進んでも大丈夫そうですね」


「ミーシャ様、次こそはわたくしが必ずや敵を討ちとってご覧に入れます!!」


 とか言ってるそばから、今度は天井から降って来る影が。


 それと同時、ヒュンッと微かな風切り音が聞こえたかと思えば、地面に転がっていたのは真っ二つにされたゴブリンと思しき三頭身くらいの緑の皮膚を持つおっさんでした。


 ゴブリンらしき魔物が死んだのを確認すると、シルフさんが今にも『褒めて褒めてー!!』と言わんばかりの表情でこちらを見ていました。尻尾があれば、確実にブンブンと振っていたことでしょう。


「ありがとうございます、シルフさん。あなたのお蔭で助かりました」


「いえいえ滅相もございません!! これがわたくしの役目でございますので!!」


 えへんと薄い胸を張るシルフさんは、お使いに成功した子供みたいで可愛かったです。というわけで頭を撫でてみたのですが、真っ赤な顔になったかと思うとあたふたし始めました。


「あああああののの、みみっ、ミーシャ様!? これはいったいなにごとでございますでしょうのですか!?」


「なんとなく、シルフさんが可愛かったので。つい」

「かかかかわいいいいいだなんてそそそっ、そんなもったいなさ過ぎるお言葉……!!」


 動揺し過ぎて、もはや何を言っているのかわからないレベルです。意外と可愛いところ多いんですよね、この方。


 とりあえずなでなでがひと段落したところで、周りを冷静に見回してみました。


「これまであの太陽に気を取られまくっていたので気づきませんでしたが、ここほとんど屋外ですよね? と言うかもはや、私達がいるのはダンジョン内ではない可能性まで浮上して来ちゃいましたよこれ」


 周りを見渡せば、そこは草原でした。RPGなんかで、最初の町の周りにありそうな雰囲気の。


「それはいかなる手段か、あの扉をくぐった者を別の場所へ飛ばす魔法が使用されている、と言うことでしょうか」


「あくまでも可能性の話ですけどね。テレポートされているとしても、後ろにポツンと扉だけ浮いたままなのが気になりますし」


 後ろを振り向けば、先ほどくぐったばかりの扉がちゃんと存在しています。ただ完全に空中に浮いている状態で、扉の後ろにも空間があるんですよ。ただ360度どこを見ても草原しかなく、どの方向へ向かえばいいのかすら不明なんですよね。一応、扉から真っ直ぐ進む道選ぶつもりですが。


 おっと、そう言えば松明を点けっぱなしでした。ここはもう明るいので一度火を消し、それからフィーマさんに返します。


「これでよし。とにかく、二人共気を付けてください。いくら襲って来るのが雑魚でも、油断は大敵です」


「「はいっ!!」」


 二人の良い返事を聞き、私達は更に探索を続行するのでした。


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