十五話 ダンジョン(?)攻略開始です 1
「うわぁ、本当にダンジョンですよここ……」
私達三人はダンジョンの入口から中を覗き込みながら、このまま中に入っていいものか悩んでいました。
ちなみにここまでの移動には、テレポートの魔法を使っています。私とシルフさんは徒歩でも構わないのですが、フィーマさんはそうも行きません。片道だけで丸一日余裕でかかる距離なので。
着いたのはいいのですが、ダンジョンらしき建造物の二等辺三角形部分しか入口がないです。しかも、中は真っ暗。すごくダンジョンっぽいですね。
「どうします?私達はともかく、フィーマさんは灯りがないと進めませんよね?」
「それなら心配ご無用です!こんなこともあろうかと、松明を用意して来ましたので!」
そう言って、背中に背負っていたカバンから松明を取り出しました。
けっこうな大荷物ですのでなにが入ってるか不思議でしたが、ちゃんとダンジョン攻略に必要なものを持って来たようです。他にも弓と矢筒を背負っているので、攻撃手段もバッチリ。戦力に数えても大丈夫そうです。
「では、松明は私が持っています。と言っても、浮かせるだけですが」
一応光魔法で灯りを点けることは可能なのですが、なんの触媒もないと光らせ続けるのは面倒なのです。なので両手がフリーになるように、燃やした松明を浮かせて光源を確保するのがもっとも楽できるといった次第です。
フィーマさんは最初恐縮していましたが、これが一番効率がいいと説明すると納得してくれました。
シルフさんが浮かせるとも言ってくれたのですが、シルフさんの場合風で浮かせるので火が消えかねないため、今回は私の役になりました。
とりあえず、入口から中へ入ってみることに。
入ってすぐは、ごく普通の洞窟のような質感の壁が広がっていました。けれども最初の角を曲がった途端、どこか生物めいた気味の悪い感じへと変わったのです。
巨大生物のお腹の中ってこんな感じかも、と余計なことを考えてしまったので、気持ち悪さが増しました。
「フィーマさん、息が苦しかったりはしませんか?」
「大丈夫です!強いて言うのであれば、壁が気持ち悪いのでなんか変な気分ですが……進むのに支障はありません!」
その言葉は力強く無理をしている様子もなかったので、素直に信じることにしました。
「シルフさんはなにか感じますか?」
「特にこれと言ってはありません。空気も洞窟の中の割には不気味なほどキレイなので、人間が行動するのにも問題はないかと」
意外です。まさかシルフさんが、人間のことも心配してくれるとは。さすがにここで倒れられたら〜とか、そんな感じかもですが、一歩前進ではあります。
そのままなにもなく、最初の部屋を突破しました。広さはだいたい体育館くらいの空間でしたので、横断にそれほど時間はかかりません。
最初の部屋なのでなにもないのか、それともあったのに気付かなかっただけか……どちらにせよ、ここから先はなにが起こっても不思議ではないでしょう。用心してし過ぎることはありません。
気を引き締め、なぜか金属製のドアノブのついたドアをフィーマさんに開けてもらいます。当然ながらドアノブなんてものは初見ですので、開け方を教えるのにちょっぴり苦労しました。
ドアをほんの少し開けた瞬間、どこか遠くで獣の吠え声が聞こえて来ました。
「いますね確実になにかヤバイのが」
絶対凶暴なやつですよ間違いないです。中見なくてもわかりますよこれ。
シルフさんは危険がどうこうよりも、キョトンとした感じに首を傾げていました。
「魔物、でしょうか。こんなところで、どうやって生活しているのでしょう。エサになるような植物や虫、動物がいるようには見えませんが」
なんと冷静な観点。確かにそうです。こんなところに、植物があるとは思えません。それとも、植物型の魔物とかがいるとかですかね? その可能性は結構高そうで嫌なのですが。
とにかく中に入りもせずにくっちゃべっていても埒が明きませんので、私達は警戒しつつも中へ入りました。
中に入った途端、目に飛び込んで来たのは異様な光景でした。
「ここ、屋内っていうか、ダンジョン内ですよね? なぜ太陽が……?」
私達を出迎えたのは、燦々と光り輝く太陽でした。前の部屋が体育館くらいの大きさで天井もそれくらいの高さでしたのに、ここからは天井がどこにあるのか見えないくらい高いのです。と言うより、普通に空があります。
「どういう技術を使えば、このような空間ができるのでしょう……わたくしには、到底不可能な所業です」
「ですよね。ナノさん達って、本当にどこまでやれるんでしょうね……?」
そして不思議なことに、この空間にはナノさん達が一人もいません。まあ、ナノさん達が単体で存在していることはないそうですが。
フィーマさんはあまりの光景に圧倒されているのか、口をポカンと開いて天井を眺めているので、こちらの会話は聞いてないみたいです。
よく考えると、フィーマさんは私が訊かないでくれと言ったことは訊かないでいてくれるので、ナノさん達のこともちゃんと知らないんですよね。ナノさん達のことは話してもいいのかもしれませんが、魔法のことを抜きに説明する自信がないので話してないのです。
ありがたいのと同時に申し訳なく思いながら、隣で空を見ているフィーマさんに声をかけました。どこからか、妙な気配を感じたためです
「フィーマさん、恐らくですが近くになにかがいます。気を引き締めてください」
「わ、わかりました!!」
声をかけられた我に返ったフィーマさんは、それまで背負っているだけだった弓を手に持ちました。矢筒から一本矢を取り出し、いつでも射ることができるように弓につがえます。これならよほどのことがない限り、魔物が来ても大丈夫でしょう。
私達は最大限に周囲を警戒しながら、ダンジョンの奥へと進み始めたのでした。




