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百四十四話 人が住めないわけではなさそうです

 フラウちゃんの住んでいるはずのシウス氷山から更に北へ、だいたいに十キロほど瞬間移動で。その後徒歩で十キロほど行った先。そこに広がっていたのは、実に中途半端な雪景色でした。


「山よりこっちは、まだ雪降ってるんですねぇ……」


 あの氷山が寒いのは、基本的にフラウちゃんが眠っているせいだと言えます。ですがここより先が寒いのは、元からだったはず。なのでここから歩いて行って雪に埋もれていたとしても、そっちにフラウちゃんがいるとは限りません。


 まあ逆に、そっちに行ってもわからなさそうですが。


 私が知る限り、フラウちゃんは眠る時間が長ければ長いほど辺りの気温を下げます。電子レンジとは真逆ですね。


 電子レンジはマイクロ波を食品に当て、食品に含まれた水分子を高速で振動させることによりその摩擦熱で加熱しています。フラウちゃんは逆に辺りの水分その他の分子の動きを緩やかにすることで、気温を下げているのです。


 と言っても基本的には魔法なので、そういう物理的な理由以外に氷のマナを集めやすいという理由があるのですが。


「ここまで来ても、手がかりらしい手がかりはないですね……」


 強いておかしなことを上げると、見た感じ人がいてもおかしくない環境ではあるはずなのですが。どれほど周りを散策しても、人の気配はまったく感じられません。


「フラウちゃんがいても、この辺りの方にそこまで強い影響はないと思うのですが……」


 なのでフラウちゃんの不在がこの場所に人がいないことと、直接的な関係性はないと思うのですが……


 でもまあ、あれですよね。わざわざこんな寒いところに住む理由、ないですもんね。シルフさんがいないので詳しい気温知るのが面倒なためわかりませんが、地球でいうと真冬の山形とかその辺りでしょうか。実際に行ったことはないので、ただのイメージですが。


「となると、他に理由があるはずなんですけどね……」


 見たところ、それらしい理由はありません。あれですかね、作物が育たないからとかですかね。ここいらだと、輸入するのも大変でしょうし。


 そのまま一時間くらい辺りを調べましたが、手がかりになるようなことはついに見つかりませんでした。ただわかったのは、この辺りはマナの濃度が薄いこと。それから、ナノさんたちの姿もあまりないことです。


 一応ナノさんたちにも聞き込みはしましたが、全員フラウちゃんの行き先に心辺りはないとのことでした。


「仕方ありません。一度、全員集合をかけて……」


 そう思った矢先のことでした。なんだか足元がムズムズしたかと思うと、シルフさんの声が聞こえて来たのです。


『ミーシャ様、聞こえますか?』


「ええ、聞こえますよ」


 私自身は通信機を持っていませんが、足元にある私の根っこが直接声を伝えてくれているのでシルフさんの声が聞こえます。ただこれだけだとうまく会話ができないので、私の枝を持っている必要がありますが。


「なにかわかりましたか?」


 これで聞こえるかなと少々不安になりましたが、ちゃんと返事がありました。


『その、実は少々妙なウワサを聞きつけまして……』


「ウワサ、ですか?」


 どうやらシルフさんの話によれば、南へ行ったノームちゃんがおかしなウワサを聞いたと言うのです。ノームちゃん本人が私に連絡しなかったのは、どうやらノームちゃんがかけても私のところに通じなかったそうで。どうもノームちゃんとはあまり相性がよくないか、距離が離れすぎてしまったようです。


 そして妙なウワサというのは、なんでもシウス氷山から南に数キロ行った先の小さな村で聞いたのだとか。


 スア村という名のその村の、さらに二十キロほど南下した先。フズリ村では、最近ずっと猛吹雪に襲われているそうなのです。


『そこの村人の話では、そのせいでフズリ村へ買い物にも行けず困っているとのことでした。フズリ村はスア村よりも南にあるので、よく野菜を買い付けに行くようなのですが……最近それがままならないため、食料難に陥りかけているそうで』


「それはけっこうな大事じゃないですか!」


 本来であれば、この時期に吹雪くことなんて絶対にないのだとか。ていうか今夏ですから、当然と言えば当然ですが。


 真夏のこの時期に、スア村よりも南にあるフズリ村で起こる猛吹雪……ほぼ間違いなく、フラウちゃんがからんでいると見ていいでしょう。真夏に猛吹雪を起こせる存在なんて、私が知る限りごく限られていますから。


 でももしここでまさかの大佐とか出て来たら、うっかり割と全力で攻撃してしまうかもしれません。まぎらわしいことしないでくださいよ!! と。


 あ、でもフラウちゃんを連れ出したのあの人だってこともありえますよね。その場合、本気でシメます。具体的には、上半身と下半身で別々のオブジェのようにしようかと。あの方基本が石なので、それぐらいなら死にゃしないでしょう。


 シルフさんにノームちゃんへそこで待つようにと伝言を頼み、とりあえず元の地点まで戻るために振り向こうとした時でした。


「ひゃっ!?」


 無意識のうちに北へと歩いていたのですが、壁のようなものにぶつかる感触がしたのです。


「……? なにもないですよね?」


 ぶつかったところを見てみますが、特に変わった様子はありません。手を伸ばしてみると、壁にぶつかると言うよりなにかに引っ張られているような感覚がありました。


 そこで、ふと思いつくことが。


「もしや、ここが私の根の北端でしょうか」


 なるほど。それでここから先には人が住んでおらず、私も前に進めないんですね。私の根っこが届かない場所なら、かなりマナが薄いはずですから。


 一つ疑問が氷解したところで、今氷解けたらまずいんですけどねとか思いながら、シルフさんのいる位置まで瞬間移動を発動させました。


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