十四話 王の墓、という共通点はありますけども
とある日の真夜中のことでした。この世界にまだちゃんと時間のわかる時計がないので正確な時間はわかりませんが、おそらく0時前後と思われます。
そんな時間になにが起こったかと言えば、辺りにいきなり轟音が響き渡ったのです。
ズゴゴゴ、とか、そんな音でした。アニメとかで、ラスボスの城が浮き上がるような感じの大きな音です。
「な、なにごとですか!?」
驚き過ぎて言葉もない私とは違い、フワフワと近くを漂っていたシルフさんが大慌てで叫んでいました。
とりあえず音がした方を見るためにけっこうな高さまで浮き上がった私は、信じられない光景を目の当たりにしたのです。
「ピラミッド……ですか、あれ?」
遠くの方にもうもうと土煙が上がっており、なんとピラミッドらしき建造物が姿を現しているではありませんか。
なぜらしき、で断定できないかと言えば、そのピラミッドもどきは四角錐の部分の他に、細長い二等辺三角形がくっついているからです。
「あの形どこかで……いえ、形は違んですが……前方後円墳っぽいですね」
前方後円墳って、鍵穴みたいな形をしていたと思うのですが。あの丸の部分が、まるっとピラミッドに置き換わった感じです。私が無知なだけで別の名前があるかもなのですが、わからないのでピラミッドもどきとしておきます。
「まさかとは思いますけど……」
嫌な予感に辺りを見回すと、実に楽しそうにピラミッドもどきを見るナノさん達がいました。
『わーい、ダンジョンでっきた、ダンジョンでっきた!!』
「だ、ダンジョン?」
え、待ってください? ダンジョンって言いましたこの方達!?
「あの、ナノさん達?」
呼びかけてみましたが、返事がありません。シカトとか、地味に傷つくんですけど……
ナノさん達は気分屋なので、神が話しかけても聞いてない時は聞いてないんですよね。真面目に命令すれば別ですが、そこまで緊急性ははないと思いますし。ていうか思いたいですし。
とにかく、今はあのダンジョンとやらをどうにかするしかありません。
「ミーシャ様、いかがいたしますか?」
いつの間にか私の隣にふよふよ浮かぶシルフさんが、困惑顔で尋ねて来ました。
確かに、これは類を見ない感じのイベントですからねぇ……
「とりあえず、中を調査した方がいいでしょうねぇ……」
「ならばわたくしが!!」
「ソロで攻略に行くのは、あまりオススメできません」
なにかあっても報告するのが難しいです。それに中はなにが待ち受けているかわからないですし。
「そうですねぇ……やはりここは、私とシルフさんとウンディーネさんで行きましょうか。私がいれば、たいてのことはなんとかなると思いますし」
「あの真っ青女とですか……」
そこまでイヤな顔しなくてもいいじゃないですか。仲悪いのは知っていますが、拒絶反応示さないで欲しいです。
どう説得しようかと考え始めた時でした。シルフさんが突然、険しい表情を浮かべ虚空をにらみ出したのです。
「……聞いてたな貴様。なに? ……自分としてはありがたい、いやなんでも……わかった、伝えておく」
喜んでいいのか困ればいいのかわからないような微妙な表情で、シルフさんがこんなことを言って来ました。
「ウンディーネのやつは今の衝撃により、騒ぎ出した泉の動物をなだめたいそうです。なので、しばらく同行は難しいと」
「あらら」
ウンディーネさんはあの泉を、とても大切に思ってますからねえ。あそこが穢れるのを、本気でイヤがります。なので離れたがらないんですよね……
シルフさんの話によれば、泉の動物が落ち着き次第合流するかも、とのことでした。
まあどうしてもウンディーネさんの手が必要というわけでもないので、今回は私達二人だけで行くことに――
「わたしも行きますミーシャ様!!」
「どっから湧いたんですかあなた……!?」
息を弾ませて唐突にやって来たのは、なにを隠そうフィーマさんでした。いえ隠すもなにも、ここに来るような存在は限られていて、精霊さん達を除けばフィーマさんしかいないんですけども。
「あんなにも大きな音が響き渡れば、わたしでなくとも気になって飛び起きるでしょう。ミーシャ様がなにかご存知かと思いやって来たのですが、調査に行かれるということはそうでもないご様子。わたしも人間としてできることがあるのではないでしょうか!!」
「う、うーん……」
気持ちはとてもありがたいのですが……普通の人間である、しかも魔法も使えないようなフィーマさんが一緒に来て、大丈夫なんでしょうか。どう考えても今の私よりも人間は脆いですし、留守番していただく方が嬉しいんですけど……
そう言おうと思ったのですが、あまりにも真摯な目をするフィーマさんを見て、言い出せなくなってしまいました。それによく見れば、けっこうな大荷物を抱えています。それに、弓矢まで。何事かが起こっている予感はしていて、ちゃんと準備もして来てるんですよね……
最悪、私がちゃんと見ていれば大事にはならないと思うのですが……
「……仕方ありません。絶対に先走らないと約束していただけるのであれば、同行してもいいです」
「ありがたき幸せ!!」
「いえですから、そこまでかしこまらなくてもいいんですよ?」
前途多難な予感に頭を抱えながらも、私達はダンジョンへと向かったのでした。




