十三話 友達って、具体的になにをするのでしょう?
フィーマさんとお友達になってから、二週間が経ったそうです。そうです、と伝聞調なのは、私の感覚だとまだ一時間くらいだからだったりします。
私はいつものように私の本体である世界樹の根元でボーっとしていると、ふと思ったのです。
「友達って、なにをすればいいんでしょう?」
冷静になって考えれば、よくわかりません。友達ができたこと自体が初めてなので、友達同士がいったいなにをしているのかわからないのです。
とりあえず、これまでの人生を振り返って考えてみましょう。参考にできるマンガや小説なんて、山のようにあるはずです。
「学校帰りにクレープ屋に寄り道したり、カラオケに行ったり……」
ダメですね。どれもこれも、この世界では実現不可能です。
「あとは……ゲームとか」
友達とまでは呼べませんが、昔多少よく話すクラスメイトと、ゲームで対戦をしたことがあったはずです。
まあ、時間を持て余しまくっていたせいで育成時間が山ほどあった私が、いわゆるガチパ、ガチのパーティーでいったところ相手をコテンパンにして全滅させたので、それ以来交流なくなりましたけど。
……今になって考えると、私性格悪いですね。記憶を掘り起こしてみると、勝負を挑んだのって最新作が出てからわずか一週間後でした。いくら発売日に買ってもらうことができたとしても、普通のご家庭のお子さんはゲームを一日中やらせるわけないでしょうに。
これ以上黒歴史を掘り起こすと鬱になりそうなので、いったん忘れることにしましょう。今大事なのは、友達とは何をするか、という点です。
「あの、シルフさん」
「なんでしょうか」
「シルフさんってこの世界の遊びとか、何か知っていますか?」
私よりは近所を見回っているので詳しいかと思い訊いてみますと、返って来たのは難しい顔でした。
「知らなくはないですが……」
「なんでもいいので、お手ごろな感じの遊びないですか? 少人数でもできるようなものがいいのですが」
しばらく悩んだ末、シルフさんの口から出たのは、私もよく知る遊びでした。
「わたくしが知っている遊びとなりますと、あやとりとかでしょうか。あれでしたら、少人数で行うことも可能かと存じますが……」
「そう言えば、そんな遊びありましたね」
昔、ナノさんだったかシルフさんだったかに話したことがあったのでしょう。それがこの世界に伝わり、残っているわけです。
「ふむ、ヒモがあればできますね……シルフさん、ちょっと私とやってみませんか?」
「そ、そんな!! ミーシャ様は、わたくしが嫌いになったのでございますか!? 後生ですから、お傍にはいさせてください!!」
「……はい?」
なぜか今にも泣きだしそうな顔で、足元にすがりつかれてしまいました。
えーっと、この方は何を言っているのでしょう。とてもとても嫌な予感がひしひしとします。
「あの、シルフさんの知るあやとりとは、どんな遊びなのでしょうか?」
そう訊いてみますと、シルフさんは先ほどまでの泣きそうな顔を引っ込め、真面目な顔で咳払いをしました。
「では、僭越ながらご説明させていただきます。あやとりをするために、まずヒモを用意します」
ふむ、ここは私の知るあやとりと手順が同じですね。
「それから、森へ行き獲物を捕らえます」
「アウトです」
「何がですか!?」
もうダメですね。獲物て。絶対ロクでもない遊びじゃないですか、異世界版あやとり……!!
説明していただいているのに途中で打ち切るのも悪いので、とりあえず最後までは聞きます。
「え、ええと、それから獲物を逃げられないようにし、首にヒモを巻きます」
あ、わかっちゃいましたよオチ。
「そして首のヒモを順番に引っ張り、獲物を殺してしまった方の負けです。それがわたくしの知る殺獲りという遊びの全てとなります」
ですよねそうですよね。絶対血生臭いエンドを迎えると思いましたよ!!
殺めるに獲るで殺獲りと来ましたか。なぜこうもねじくれて情報が伝わっているのでしょう。ナノさん達、百パーセント気分で適当な話を広めてますね……
そこで、妙なところに気がつきました。今の説明を聞いていた限り、シルフさんが泣いてすがる理由が見当たらないのですが。もしかしてあれですかね、自分が勝負に勝ってしまったら、私が機嫌を損ねてもう会ってくれないとか思い込んじゃったとか。
そう思いシルフさん本人に訊いてみますと、予想の斜め上の回答が返って来ました。
「この辺りに簡単に捕まえられるような獲物はおりませんので、てっきりわたくしを獲物役に見立て、首の絞め加減を研究するものかと……」
「しませんよそんなこと!!」
なんですかその勘違い!! 私、そんなグロいことなんてしませんよ!!
呆れてため息しか出て来ません。遊びの件は、また後日フィーマさんがいらっしゃった時に直接訊くことにしましょう。
――後日
「あ、ミーシャ様、あやとりという遊びを村の者達がやっているのを見かけたのですが――」
「お願いですから、フィーマさんくらいは道徳というか、倫理観的な部分を学んでください。割とって言うか、心底本気で」
この後フィーマさんに、生きるために必要な時以外でむやみやたらに生物を殺さないでくださいと、必死にお願いすることになったのでした。




