十二話 一応、女子会ってことになるんでしょうか 2
十五分も言い合うと、疲れたのか二人共大人しくなりました。
「それで、今日来た件なのですが」
「え、ええ。この辺でなんやおかしなこと起こっとらんか、ちゅうことでしたね。特になんもあらしまへんよ」
ぐったりと疲れた様子でしたが、質問にはちゃんと答えてくれました。シルフさんととてつもなく仲の悪いウンディーネさんですが、やることはちゃんとやってくれます。
隣で同じくぐったりしているシルフさんは、それが気に入らなかったのか不満げな顔です。
「水の、やはりお前が報告に来るのが筋だろう。なぜここを離れん」
「うちがあんまここを離れると、水が穢れるからやて前も言うたやろ。一度離れると浄化し直すのめんどいねん」
「その程度の手間を惜しむのは、ミーシャ様の手足となるべき我々としてはだな――」
「そろそろケンカやめましょうよ」
「「それは向こうが!!」」
「はいはいわかりました、どっちもどっちです」
私が言い切ると、二人ともしょんぼりと肩を落としていました。怒られるのがわかっているんですから、最初からケンカしないで欲しいところです。
「それでウンディーネさん。こちらは最近私のところによく遊びに来る、近所に住むフィーマさんです」
「お、お初にお目にかかります! ただいまご紹介にあずかりました、フィーマと申します!!」
ガチガチに緊張しているフィーマさんがほほ笑ましかったのか、ウンディーネさんは穏やかに笑っていました。
「これはどうもご丁寧に。うちは水の精霊ウンディーネや。よろしゅうな」
「そ、そんなわたしのような人間ごときによろしくなどと――」
「話が進まないので、もうそのくだりやめましょうね」
面倒なので強制的にやめさせ、本日の趣旨であるおしゃべりに移ります。正確に言えばおしゃべりではなく、フィーマさんにもっと経験させたいというのが本当の目的ですけど。報告云々については、究極的に言えばシルフさん経由で訊けばわかりますしね。
フィーマさんは悪い方ではないのに、環境のせいで辛い目に遭っています。せめて私以外にも、ちゃんとお話できる方を見つけてほしいと思っての行動なのですが……やっぱり精霊の知り合いではなく、人間の友達を見つけてあげたいところです。
「そう言えば、ウンディーネさんとシルフさんは魔力でパスを繋げられるんですよね? 他の方とはできないんですか?」
「うち、氷のフラウちゃんとならできるで」
「私は光の精霊である、ウィルとなら可能です」
魔力のパスを繋ぐのには、相性が重要なんだそうです。
そこでふと、思いつくことがありました。
「フィーマさんって、魔法使えたりします?」
「マホウ、とは……?」
「あらら?」
まるで初めて聞いた単語とでも言うようなリアクションをされ、どうも人間はまだ魔法を認識してないことを知りました。ふむ、これからの進化の過程で気づくんですかね?
んー、じゃあ下手なことを言わない方がいいですね。変な進化の仕方をしたら困りますし。
「いえ、気にしないでください。そのうち、あなた方が自力でどうにかするでしょう。私が過干渉をしてしまいますと、人間の進化がねじ曲がってしまいますので」
そう言うと聞かない方がいいことだと理解してくれたのか、フィーマさんはそれ以上聞かないでくれました。
「お詫びに今度、他の精霊の方も紹介しますね」
「い、いえそんな、わたしのような人間ごときがっ……!!」
「まったくもう、その『人間ごときが』ってやめましょう? 私はけっこう、あなたと話しているの好きですよ。色々発見があるので」
「そそそ、そんな本当に恐れ多いですっ!!」
顔を青くしたり赤くしたりしているフィーマさんは、とてもかわいいです。こんな妹でもいれば、少しは人間としての人生楽しかったでしょうねぇ……
そんなことを考えていたからでしょうか。生きているうちに一度言ってみたかったことがあったのを、思い出しました。少々迷いましたが、フィーマさんに言ってみることにしました。
「フィーマさん、私と友達になりませんか?」
「ふぁいっ!?」
私の提案が急すぎたのか、飛び上がって驚いていました。見てるだけで面白いですねこの人。
「私はフィーマさんと友達になりたいのですが、ダメですかね?」
「だっ、ダメだなんてそんなことあるわけなくて、でも本当恐れ多いですから……!!」
そうだぞ人間、恐れ多いぞ!! とでも言いたげなシルフさんでしたが、空気を読んでくれたのか何も言わないでいてくれました。本当に必要な空気は読んでくれるので、とてもありがたいです。
「嫌、ですか?」
「嫌じゃないです!!」
「じゃあ、決定ですね」
「い、いいんですかミーシャ様!! わたしが友達でも……!!」
「当たり前です。私が友達になりたいって言い出したんですから」
人間だった頃には、言うことができませんでした。客観的に見て、原因は私だけにあったわけではないと思います。でも、一度でも言っていれば。もしかしたら、友達の一人や二人、いたかもしれません。
そんな思いがあったからか、半ば勢いで言ってしまった形ですが。後悔はしてないです。
「あ、じゃあうちも自分の友達になるわ。人間の友達なんて、うちもおらへんし」
ウンディーネさんも勢い、というかノリでしょうけど、そんなことを言い出しました。
シルフさんは少し悩んだ様子でしたが、何も言いませんでした。私が友達になると言ったので、てっきり自分もなる! と言うかと思っていたのですが。シルフさんが私のやることを盲目的にいいと言わない人で、よかったと思います。でも人間嫌いは治してほしいです。原因不明ですし。
フィーマさんはしばらくオロオロと困った様子でしたが、やがて今にも泣きそうな顔で、こう言いました。
「わわっ、わたしでよければ喜んで!!」
そんなこんなで、フィーマさんに二人ほど友達ができ。ついでに私にも、人生初の友達ができたのでした。




