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百十八話 一人暮らしの家ではありますが……

 瞬間移動を使ってみますと、なにやら妙な感覚はあったもののガラスの塔の内部に侵入することに成功しました。


「ふうむ、思ったよりもふっつーの部屋で、いささか拍子抜けです」


 入ることができた塔の内部は、思ったよりも普通でした。いやほんと。


 そもそも私がどんなところを想像していたかと言えば、こう悪の大王が住んでいそうな玉座とかあるような場所なのですが。実際は、大学生が一人暮らししてるアパートみたいな感じでした。


 部屋の隅にはベッドがあり、そこから見やすい位置にテレビがあり、その二つを結ぶ直線上にはガラスのローテーブルが。そしてベッドの逆端には小さな冷蔵庫、その上にちょこんと乗っているのは電子レンジ――

「って、よく考えたら全然普通じゃないですか!!」


 地球の大学生のアパートだったら普通ですけど、ここ異世界!! バリンバリンの異世界でした!! じゃあ異常ですあり得ないですよね!?


 この数々の電化製品、いったいどこから持って来たんですか……!?


「しかも、ベッドの触り心地がすっごく化学繊維っぽいんですけども……」


 え、なんですかこれ? ここだけ異世界なんですか? いやでも、上を見れば天井がガラス製ですし……ていうか、床はこれ土間ですよね? 地面踏み固めただけですよね?


 なんですかこのアンバランス極まる部屋。なにをどうすれば、こんな部屋が作れるんでしょうか。しかもここ、扉も窓も存在しないんですよ?


「んー、ちょっと魔法で探ってみますか……」


 というわけで、探知魔法開始。


 すると、ある意味とんでもないことが判明しました。


 ここに存在する品々、ほぼ全部幻覚です。


「え、いやなぜです!?」


 ちょ、ちょっと待ってください? 幻覚? なんのために――というのは、まあおそらく見た目にこだわった結果的なことでしょう。ですが、なぜこんな地球にしかないような品々の見た目を、あの大佐が知っているのでしょう。見た目だけでなく、感触まで。


 知っているのとは別枠で、感触のある幻覚作るってあの人相当魔法の実力があるというヤバイ事実が浮かび上がって来たりしてるのが心配です。


 ていうか冷静になって考えれば、私が触れる時点で普通の物質じゃないと気づくべきでしたね。


「いつなにをどうやれば、地球の光景がわかるんでしょう……? 私の心を読めば……いえ、そんな感覚があればさすがにわかりますよね」


 一応私、探知能力には優れている方なはずなんですよ。にも関わらずまったく察知できないって、それがマジなら大佐の警戒レベルを最大限にまで上げなくてはなりません。


 私に察知できないほどの力。それはつまり、私よりも大佐の魔法力が優れているということになってしまいます。


「他に地球のことを知る方法なんて……方法、なんて……」


 ありましたよ。この方法であれば、私には察知できません。


「ルナちゃんから情報取られましたか……!!」


 あの子、魔法適性も魔法耐性もほぼ皆無ですからね……ルナちゃんからなら、割と簡単に情報が取れることでしょう。そしてたぶん、いえほぼ確実に気づかないですね。


「大佐、本気で厄介な相手ですね……」


 ぶっちゃけ、もう敵に回したくないなぁとか思っていると、背後でなにかが動いたような気がしました。


「誰ですか!?」


「それむしろ我のセリフなのだが!?」


「あ、なんだ大佐ですか」


 後ろにいたのは、帰宅したと思しきカーネル大佐でした。


 ホッと胸をなで下ろす私に、大佐がなぜか狼狽しているようです。


「いやいやいや、汝はそんなに落ち着いていてよいのか!?」


「えー……いやまあだって、大佐ならまだマシですよ。厄介ですし面倒ではありますが、正体割れてますから」


「汝、思ったよりも肝が据わっているのだな……」


 なぜだか呆れ顔の大佐は、深々とため息を吐いていました。


 ここって大佐の家なわけですから、そりゃそのうち帰って来ることくらい想定してますよ。


「それで、あなたはこんなところでなにをしてるんです?」


「それも我のセリフだぞ、ミーシャよ。ここは我の家であり、仕事を終えれば帰るのは当然であろう!! 汝らを撒くために少々寄り道はしたがな!!」


「仕事て。あのヤバイジュース売りのことですか」


「そうだ!! この世界の民を我が敵にするための、壮大な仕事である!!」


「えぇ……」


 壮大な仕事って、ただのジュース売りですからね? たしかに売っているジュースそのものはけっこうマズいシロモノではありますが、それ自体が壮大かと問われれば否定せざるを得ません。


「それよりも、だ!! なぜ汝は我が居城にいる!? ここは誰にも入れぬ、我だけの秘密の城だというのに!!」


「それはまあ、あれですよ。瞬間移動的なやつでどうにかしました」


「バカな!! 瞬間移動は一度も行っていない場所には行けぬはず!! だからこそ我はこの出入口のない塔を作ったのだぞ!?」


「え? そうなんですか?」


 私、普通に初見の場所でもひょいひょい飛んでましたが……ふうむ、大佐と私の魔法適性の差でしょうか。それとも、なにか他に理由があるのか……


 私は真面目に返したつもりだったのですが、大佐はそうは思わなかったようです。


「ぐぬう、汝は何度も我を愚弄してからに……!!」


「いえ、そんなことないんですが……むしろとても厄介で面倒な方だと、かなり本気で頭を悩ませていますよ?」


 その言葉は本心だったのですが、大佐はまったくそうは思わず。逆にそれを自分のことを煽っている、と取ってしまったようで……


「もう一度勝負であるぞ、ミーシャよ!! 今度こそ我は汝に勝ち、世界を敵に回す第一歩を踏み出すのだっ!!」


 確かに私をマジな感じで倒した場合、本気でマズいレベルの戦争が起きそうではありますが……ほぼ間違いなく、シルフさんがマジ切れするので。


 そう考えるとこの勝負、受けない方がいいでのすが……でもこのまま大佐を放置した場合、なにをやらかすか読めないんですよね。となると、いっそ受けてしまった方がいいのか……悩むところです。


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