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十一話 一応、女子会ってことになるんでしょうか 1

「ミーシャ様、本日もご機嫌麗しゅうございます!!」


「フィーマさんあれから毎日来ますけど、あなたヒマなんですか?」


 ついついそんなことを言ってしまうのは、ふれふれ坊主事件以来、厳密に言えばそのあとの大雨洪水事件のあとから、本当に毎日欠かさず来ているからです。私の感覚からしてみれば、もうずっといるのと変わりません。


 そんなわけでうっかり辛辣な口調で言ってしまいまして、フィーマさんがめっちゃ落ち込んでしまいました。


「す、すみません……わたしのような人間ごときが来たら、迷惑ですよね……」


「そうだぞ人間!! これはもう、貴様の命を持って償うしか、」

「シルフさんは話がややこしくなるので黙っていてください」


 どうもシルフさんは人間が嫌いなようで、やたらと突っかかって行くんですよね。私からすれば、そこまで目の敵にしなくても、って感じです。


「ええとそれで、フィーマさんはここに何しに来ているんですか?」


 これ以上シルフさんにしゃべらせておくと本気で面倒そうなので、フィーマさんに直接訊いてみました。すると返って来たのは、どことなく寂しそうな自嘲です。


「……その、わたしは親兄弟もなく、生まれた時から一人でした。孤児ゆえに疎まれ、そのせいで生贄にも選ばれたわけで……初めてわたしなんかとまともに会話をしてくれたのは、ミーシャ様が初めてだったんです。それで嬉しくて、ついしょっちゅう来てしまって……ご迷惑でしたね」


 ど、どうしましょう。とんでもなく重いやつ来ちゃいましたよ。私、こういうシリアス苦手なのですが……


「いえそういうわけでは、そ、そうだ。フィーマさん、私は今日これからウンディーネさんのところに行こうと思っていたのですが、一緒に来ませんか?」


「ウンディ……?」


「あ。あなた達は通常状態の精霊が見えないんでしたね」


 シルフさんが見えているのは、文句が聞こえるように本人がわざわざ実体化しているからだったりします。


「ここにいるシルフさんの他にも、何名か精霊がいるんです。今日はそのうちの一人である、ウンディーネさんのところに行こうと思っていて」


「わ、わたしのような人間ごときが、そんな恐れ多い……!!」


「そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。私も遊びに行くようなものなので」


 一応、何か変わったことはないかと近況を聞きに行く、という名目ではありますが、実質ただのお茶会です。お茶を飲む体がないので、適当におしゃべりをするだけですが。


 じゃあそれお茶会じゃないじゃん、というツッコミはなしの方向で。


 本当は精霊のみなさんを全員集めて、報告会のようなことをしたいのですが、精霊というものは自由な方が多くて難しいんですよね……呼べば来るには来るんですけど、全員一堂に会したりなんてすれば、戦争が起きかねません。無用な争いは避けたいです。


 しばらく悩んでいたフィーマさんですが、シルフさん以外の精霊というものに心惹かれたのか、どことなくキラキラとした目でお願いしますと言って来ました。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 さて、ところ変わってとある泉に来ています。


 私の足元の泉からおよそ一キロのところに、同じようにキレイな泉があるのです。


 その泉の上をヒラヒラと舞う蝶の羽根はガラスのようで、一目でただの蝶でないことが覗えます。泉も蝶も陽光を反射させ、美しい輝きを放っているその光景は、とても幻想的でした。


「こ、ここが水の精霊様のいらっしゃる場所……」


 フィーマさんは初めて見る景色にいたく感激しているようで、あちこち見回しては幼子のようにはしゃいでいます。本来はきっと、とても明るい子なのでしょう。


 子供扱いしてますけど、よく考えれば人間として生きてた頃の私と、歳あまり変わらないんですよね……前にだいたい十四、と言ってたはずです。つまり、二つ三つしか違わないという。でもまあ、年下には変わりないし、いいですよね。


 そんなことを考えながら歩いていると、ふいに水のマナの気配が強くなりました。


「ウンディーネさん、近くにいますね?」


「お久しぶりですなぁ、ミーシャ様。珍しいやないですの、人間連れとるなんて」


 どことなくのんびりした口調で声をかけて来たのは、この泉の主でもあるウンディーネさんです。フィーマさんがいるからか、わざわざ実体化してくれています。


 水がそのまま形を取ったような色と質感の肌をしており、全体的に水色の方です。腰まで届く長い髪と、イタズラっぽい瞳は海のような深い青。向こうが透けて見えそうなくらい薄い布を何枚も重ねた、ミルク色のドレスを着ています。身体の線が強調されるデザインなので、スタイルの良さが目立っていました。


 いかにも水の精霊といった風貌で、まんま水の精霊なウンディーネさん。強いて変わったところをあげるなら、私の話の影響か微妙にうさんくさい関西弁を使うところですかね。私は関西の人間ではなかったので、正しい関西弁知らないんですよ。


 突然現れたウンディーネさんに驚くのはフィーマさんだけで、私もシルフさんも気配を感知していたので驚いてはいません。驚いてはいませんが、さも驚いたと言わんばかりのわざとらしい顔で、シルフさんが口を開きました。


「おやおや、いたんだな水の。陰険なお前らしい登場だ。いやはや登場の仕方も性格悪くできるだなんて、お見それした」


「嫌やわぁ、そんな褒めんといて? 風なんて自由な属性持っときながら、ずーっとミーシャ様のお傍から離れんどこぞのストーカー精霊と違うて、うちは自らの領分をわきまえとるだけやで?」


「ほうほう。自分が根暗でじめじめしたナメクジのような存在だという自覚はあるのだな。そうだよな、そうでなければ存在するだなんて高度な芸当、ナメクジには不可能だものな」


「うちがナメクジとは、えらいおもろいジョークやわぁ。頭も胸もかるーい(笑)自分にしか、思いつかんジョークやんな?」


「自分が尻も中身も重たいからって、そんなに卑屈になることはないぞ?」


「……」

「……」

「「ははははは!!」」


「あ、あのぅ、ミーシャ様……」


 壮絶に火花を散らして睨み合う二人に、フィーマさんが完全に怯えてました。


「放っておいても大丈夫ですよ。あの二人は、いつもこうなので」


 ひたっすら仲悪いんですよね、あの二人。なぜかは知りませんけど、初対面からああですもん。他の精霊にはケンカ売らないのに、どうしてあの二人だけはお互いいがみ合うのかサッパリわかりません。


 あの二人のケンカが終わるまで、しばらく待った方がいいみたいです。


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