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百九話 ケンカの原因はなんでしょう?

 雷の精霊ヴォルトさんと、木の精霊ドリアードさん。昔はそこそこ仲がよかったように記憶しているのですが、なぜこんな大ゲンカになっているのでしょう。見境もなく周りに被害を及ぼすような方たちではなかったはずなので、そこがとても疑問です。


「二人とも、少し落ち着きましょう?」


「「ですが……」


 またハモってしまい、睨み合いが再開してしまいました。ああもう、だからケンカはやめてくださいと言っているのに……


「とにかく、話し合いが必要です。お二人とも、順番に話してください」


 まずは、二人別々に話をしてもらいました。一緒に訊くと、ケンカにしかなりませんから。


 二人の話を聞いて統合した結果、だいたいこんな経緯でケンカが発生したようです。


 ヴォルトさんはノームちゃんと同じようにあちこちを旅する方なのですが、基本徒歩のノームちゃんとは違い、お気に入りの『スーパーヴォルト号』という名の雷雲に乗って旅をしています。


 ……ええと、言いたいことは色々ありますが、今はネーミングについてのツッコミはなしの方向で行きましょう。


 そしてその雷雲に乗って旅をしている時に、ここを通りかかったようです。運悪く霧が深い日だったのですが、そのせいで高い樹に気づかず、雷雲の底がかすってしまったのだとか。で、放電した雷が直撃して、その樹が焦げてしまったと。


 現物を見せてもらいましたが、たしかに焦げていました。上の方は葉っぱもほとんど落ちてしまうほどで、かなりのダメージを負ったように見えます。


 その時にすぐ謝ればここまでこじれなかったのでしょうが、場所が悪かったのかヴォルトさんが気づくのが遅れたそうなのです。それをドリアードさんは意図的に無視したと捉え、文句を言ったそうなのです。


 木の槍を地面から伸ばすという、物理的な攻撃手段を伴ったうえで。


 なぜそこで攻撃を混ぜたんだと訊いたのですが、ドリアードさん曰くなんとなくというか、なぜか無性にイライラしていたせいのようです。


 ヴォルトさんとしては意味もわからず攻撃をされたわけで、当然のようにやり返した。そしてそれを宣戦布告と受け取ったドリアードさんがさらに追撃を加えた結果、この大ゲンカに発展したそうで……ようするに、不幸なすれ違いが産んだ悲劇、というわけです。


 ただ二人にそれは納得してもらったのですが、それでも気が収まらないようで。どうしても互いに相手に謝ってほしいようなのですが、妙に意地を張ってしまい……相手が先でないと、謝らないと言っているのです。


 この案件の場合、客観的に見れば先に謝るべきはヴォルトさんだと思われます。事故とはいえ、ドリアードさんが大切にしている森の木を焦がしたわけですし。


 ただ、直後にドリアードさんが実力行使に出ているのが問題です。先に手を出した、という点ではドリアードさんにも一定の非があるわけで……いくら手加減していたとしても、手を出すのはいただけません。


 となるとやはりドリアードさんが先に謝った方がいいのかという気もしますが……言ってしまえば、ここで堂々巡りになるわけです。どっちが先に謝ればいいのか、微妙なので。


 私が勝手に決めて守らせてもいいのですが、それだと確実に後々遺恨が残ります。謝罪を強制された方はいい気はしないでしょうし、余計に不満を募らせることだってあり得ます。そうなると、別の問題が起きかねないわけで……


 ここはどうにかして、本人たちに自主的に謝らせないと場が収まりそうにありません。


 でも、どうしたら自主的に謝ってくれるんでしょう? 二人とも悪い人ではないので、自分が悪いと思ったらちゃんと謝ると思うんですよ。ここはどっちが悪いかハッキリさせて、悪かった方にそれを理解させるしか……いやでも、どっちが明白に悪い、って話でもないのが厄介なんですよねぇ……


「どうしましょうねぇホント……」


 ヴォルトさんとドリアードさんを離した状態で、私たちは一か所に集まって相談を始めました。


「誰か、なにかいいアイディアはないでしょうか?」


「いっそ、いっせーのーせで謝らせるとかどうッスか?」


「うーん、それはもう最終手段というか……それでは根本的な解決になってないですし、なによりもやっとしますよね」


 どっちが悪いかはよくわかんないけど、とりあえずどっちも謝っておこうぜ、みたいな話ですからね。表面上は納得できても、やっぱりしこりは残ってしまうでしょうし……


「というか、どちらが謝っても、さいしゅうてきには変わらないのでないでありますか?」


「そうなんですけど、そういうわけにはいかないんですよ」


 それができたら、こんなに頭を抱えていません。


 はぁ、と盛大なため息を吐くと、それまで黙っていたシルフさんがどこか険しい顔で口を開きました。


「あの、ミーシャ様。少しよろしいでしょうか。謝罪の件とは、若干異なるのですが……」


「え? ええ、大丈夫ですが……」


 珍しいですね。シルフさんがこんな風に話題を変えるだなんて。


「そもそもこの件、なにかがおかしいのです」


「と、言いますと?」


「さっき会った時から気になっていたのですが、なぜか二人の態度が以前より刺々しいのです。もっと言えば、イライラしているように見えます」


「それはケンカのせいで……」


「本来であれば、ミーシャ様が来ているのにも関わらず私情による戦闘を続行するような性質ではないのです。わたくしたち精霊にとって、ミーシャ様は創造主でありもっとも尊敬すべきお方。そんなミーシャ様より優先される事柄など、存在いたしません」


「そこまで言われるとなんだかむずがゆいものがありますが、言われてみれば妙ではありましたね……」


 もしかして、もしかすると。この件はただのケンカでは済まないなにかがあるのやもしれません。


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