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十話 一難去ってまた一難って、誰が考えたんでしょうね? 2

 そんなわけでCM明け。いえまあそんなもの挟んでないんですけどね、実際。


「ええと、話が呑み込めないのですが、順を追って説明していただいても?」


「え? この格好を見ておわかりにならないのですか……?」


「すみませんが、わかりかねます」


 それ、何か意図があっての格好だったんですね……コスプレにしては珍妙すぎますし、意図がなけりゃしねえよ、と言われればそれまでですが。


 意図があろうとなかろうと、格好だけ見ても何がしたいのかサッパリです。強いてあるとするのであれば、散髪のためかてるてる坊主のコスプレって線くらいでしょうが……どっちも違うでしょうねぇ。


 私のお願いに、娘さんは本気で困惑した様子でした。それほどこの格好は有名なのでしょうか。私、流行遅れなんですかね……?


「この格好は、我が部族に代々伝わる雨乞いの儀式の格好にございます」


「雨乞い?」


 雷が必中になる……やつではないですよね、さすがにそれくらいわかります。けれどこの格好で雨乞いとは、また変な部族が生まれたものですねぇ。


「ここ百年ほど、雨がほとんど降らなくなってしまったそうで……畑は痩せるばかり、このままでは口減らしのために幼い子供達が処分されてしまいます!!」


「そんなことになっていたとは……」


「ですからこの白装束を身にまとい、逆さ吊りになって女神様に自身の命を差し出しに来たのにございます」


「また物騒な儀式を……」


 えらい迷惑な儀式です。と言うか代々伝わっているくせに、その格好見たの初めてなのですが。


 そう思ったところで、ピンと来るものがありました。


 てるてる坊主みたいな格好で、逆さ吊りになる儀式。それはつまり、逆さまのてるてる坊主を吊るすということで。言ってしまえば、人間版ふれふれ坊主を捧げる儀式なわけです。てるてる坊主を逆さまに吊るすと雨が降るという話を、どこかでナノさん達にしたのかもしれません。それで突然こんな儀式が。


「申し訳ないのですが、その儀式に意味はないといいますか……」

「でっ、では、このまま雨は降らないままなのですか!?」


「残念ながら……そもそもの話なのですが、私が天気をどうこうしているわけではないんですよ」


 天気、勝手に変わりますし。確かに私は世界樹で女神扱いですけども、天気をどうこうする力はな――いや、力そのものはあるかもです。やったことがないだけで。


 私の言葉に、娘さんはこの世の終わりみたいな顔で落ち込んでしまいました。


「ど、どうしよう、このままだと畑が……!!」


 確かにそれは死活問題ですよね。地球基準だとこの世界、どの辺りの時代なんでしょう? 世界が生まれてから数千年クラスですけど、地球なら人間どころか生物すら生まれてないでしょう。


 なんとなく見たところ、石器時代くらいですかね。でも被ってる白い布、ちゃんと布なんですよねぇ……毛皮ではないですし。と言うかめくれた部分をよく見ると、白い布の下は毛皮の服です。もうなんか時代めちゃくちゃですね。


「め、女神様!」


 世界の構造と言うか、時代について考えていると、娘さんがとても切実な様子ですがりついて来ました。私に実体がないことに気付いていなかったようで、盛大にすっ転んでいましたが。


 顔から地面に突っ込んだのも気にせず、娘さんはそのまま再び土下座の体勢になりました。


「お願いです、あなた様のお力で雨を降らしていただけないでしょうか!!」


「あ、やっぱりそうなっちゃいますよね」


 目の前に可能な存在がいるわけですからね。そりゃ頼みたくもなりますよね。


 けど困りました。可能かどうかはさておき、こういうことってしてもいいんですかね? たいていの場合人間に手を貸すと、助長して面倒になるのが常です。元人間の私が言うことではないですが。


 この世界の人類、割と生まれたばかりなのでサンプルがないんですよね。手を貸すべきか、自分達でどうにかさせるか……放置して死人が出られるととても寝覚めは悪いですよね。


 ……て言うか今気づきましたが、百年くらい前から雨降らないって、もしや私のせいでは? 百年ほど前と言うと、ちょうどノアの方舟を追い払った頃です。もしや私が水を追い払い過ぎたせいで、雨も降らなくなったとか?


 だとしたら、この干ばつは私のせいってことになりますよね……


 さて、どうしたものでしょう。


 しばし考えていましたが、最初から他に選択肢がないと言っても過言ではありませんでした。


「わかりました。どうにかする努力はしましょう」

「ホントですか!?」

「ミーシャ様、よろしいのですか!?」


 これまで黙っていたシルフさんが、驚いた顔でこちらを見て来ます。娘さんとの会話に入って来なかったのは、遠慮していたようですね。


「ええ、今回の件は私に責任があるようですからね。できるかどうかはやってみなければわかりませんが、やるだけのことはやりませんと」


 そんなわけで、私、シルフさん、娘さん|(ここでようやく判明したのですが、フィーマというそうです)の三人は、娘さんの住む村が一望できる丘までやって来ました。


 ここで初めて知ったのですが、なんと私、移動距離が伸びていました。より正確に言うのであれば、根っこが伸びている場所ならどこにでも行けるようです。しかも私の根っこ、百キロ単位で伸びてるんですよね。ってことは百キロは移動できるということになります。けっこう便利ですね。


「では」


 息を深く吸い込むと、空に雨雲がやって来るイメージをします。そのまま精神を集中させて、その雲から雨が降って来るところを想像しました。


 すると次の瞬間、ザーザーと音を立てて大量の雨が降って来ました。


「や、やった、雨だ!! 雨ですよ!! さすが女神、ミーシャ様です!! ありがとうございます、ありがとうございますっ!!」


 大喜びではしゃぎ回るフィーマさん。とりあえずこれで、干からびて死ぬことはないでしょう。


 けれど、これで一つわかったことがあります。今の私は、その気になれば天気も余裕で操る力があるわけです。気をつけて使わないと、あっという間に世界を滅ぼしてしまうでしょう。そこだけは本当に気をつけねば。


 ホッとした私とシルフさんは、大雨の中踊り狂うフィーマさんをその場に残し元の場所へと帰ったのでした。



       ――数日後



「み、ミーシャ様、お願いです、雨を止ませてください!!」


 半泣きで私の元へ駈け込んで来たフィーマさんは、来るなり土下座しました。


「か、加減って難しいですよね」


 数日間雨を降らせ続ける空を見て、私はそんなことを呟いたのでした。


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