人が生きるのに娯楽は必要なのか・太陽に向かって走ること
さてグランドマザーから聞いた世界の創造と破滅の話には色々と見るべき点があると思う。
因みにホピは自分たちが何かに書いたりして記録を残すということは創造主に許されていないことだとしている。
ものを記すのは創造主タイオワやその子供であるソツクナング、神の代理人であるマサウのみに許されたことなのであるし、既にホピはマサウより予言の石板を受け取っているとされている。
つまり予言を勝手に書き換えてはいけないということだな。
これは、今までの歴史書などが様々な人間によって勝手に書き換えられてきたことを考えれば正しいことだろう。
人間は自分の都合のいいように歴史を書き換えたり抹消したりするのが大得意なのだから。
まあそれに記録というのが必要になるのは支配階級と非支配階級に別れた政治が行われている国などであるわけだから、そういったシステムを嫌うであろうホピに文字がないのはわからないでもない。
なのでここでの生活には物や文字を使った娯楽というものはない。
スマホやパソコンがないからコンピューターゲームがないのは当然として、ホピは勝者と敗者を決めるようようなゲームに意味を見出さないし、文字もないからからカードゲームや将棋のような賭け事や勝負をつけるような娯楽もない。
記録をつけないから本もない。
当然だが神の意志に背くような麻薬や酒もない。
「まあ、酒というのは穀物や果実に余剰がないと作れないからな」
そんなことを俺がつぶやいていると村の若い男……名前は忘れたがひょっこり顔を出していってきた。
「やあ、ツトム、みんなで走りに行くんだが、一緒に来ないか?」
ホピは走ることは神へ祈ること同じものと考えて重んじている。
移住するようなことはしないが、歩いたり走ったりして体を動かすことは、創造主タイオワの医師にそっていると考えているようだ。
「ああ、今から行くよ」
俺達は汲んできた水を母なる台地にこぼして捧げてから、自分たちもそれを飲み太陽に向かって走り始めた。
この世のものはすべて創造主タイオワやマサうから借り受けた借り物に過ぎない。
だから神に捧げることができるのは、私たちの身体の動きと声だけだ。
すなわちポカングホヤとパロンガウホヤだな。
「何も考えずに走るのは楽しいが……運動不足の俺にはきついぜ」
ホピはずっとこういったことを続けてきたから大して食べず飲まずで走ることも苦ではないらしい。
しかし、運動不足なうえに精製された糖という毒物をずっと摂取してきた俺には色々きつい。
「やっぱり環境って大事だよな……」
足をもつらせてひっくり返った俺を周りのみんなが心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫か?」
俺は母なる大地に倒れ伏したまま言った。
「あ、ああ、大丈夫だ、俺は気にしないで行ってくれ」
彼等は首を横に振った。
「お前をおいてゆくのはタイオワの喜ぶところではない」
彼等は交代で俺を背負って村まで連れて行ってくれた。
「本当にすまないな」
彼等は笑っていった。
「楽しみは分かち合うことで大きくなる。
苦しみは分かち合うことで小さくなる。
また一緒に行こう」
ああ、本当に彼等はいい人ばかりだ。
「ああ、また一緒に行こう」
俺たちに必要なのは創造主の教えを守り、そして元気に生きている姿を見せることなのかもしれないな、そうすればワイオワも地球という星を安心してみていられるのだろう。