カチナダンス・雨乞いの儀式
さて、俺がここに来て少したった日のことである。
ホピの生活は農耕に加えて祈りと踊りの儀式を日常の重要なものとしている。
「今週末雨乞いの儀式を行う、お前もちゃんと参加しろ」
「あ、ああ、いいけど俺は何の役?」
「いや、まだ屋根の上で見ているだけで良い」
族長の言葉に俺はホッとした反面やっぱりまだちょっと疎外感が残ってる気もした。
ホピはカチナを信仰している。
カチナというのはホピ族がかつては目に見える姿をしていた、太陽や月星と言った天体・動物・植物・岩・雲・川など自然のあらゆるものの中に存在する精霊のような存在をいう。
そして、カチナは、1年のうち冬至から夏至までの半年間、ホピの村にやって来ると信じられている。
彼等は聖なる山に住んでいて、元々からカチナは目に見えない存在だったが、とあるときの旱魃により存続の危機に陥っていたホピを助けるために、目に見える人間的な形に姿を変え人々の前に姿を現れ、食料を分け与え、ホピを助けてホピの生活を豊かにしたが、やがてホピの生活が怠惰に堕落すると、カチナ達はホピの村を立ち去ってしまった。
しかし、彼等は立ち去る前にホピの人々に儀式の行い方等を教え、正しく儀式が行われた時にはカチナ達が現れ手助けすることを約束したという話だな。
それからずっとホピは口伝で祭りや儀式をちゃんと毎年カチナによって決められた時期に行うことによって生き延びてこれたと彼等は考えている。
砂漠地帯に住むホピにとっては雨乞いの儀式であるレインダンスは特に重要で、彼等はカチナが十分な量の雨を降らせ村の人々が十分い食事を取れることが最高に豊かなことと考えている。
ホピがカチナの教えを守りカチナと仲良くし、ちゃんと儀式を行って正しい心を保てば、カチナはホピの行動を正しいと認め雨を降らせ、トウモロコシの収穫がもたらされると信じているのです。
「まあ、最低限生きれるだけの食料をちゃんと確保できるかどうかは大切だよな」
なんせ、ここは砂漠のど真ん中、地下には色々資源が埋まってるにせよ、ホピにとってはそれらは不必要なものだ。
儀式の際はまず建物の地下にあるキバと呼ばれる神聖な部屋でカチナ役として参加する男は儀式の計画を立てて誰がどのようなカチナ役をするか決めてカチナに祈りを捧げ、カチーナの精霊の姿になり、頭をすっぽりとおおった仮面をつけ、カチナに教わったとおりに歌い踊り、カチナの魂を持っている人形に込めて女の子に渡すのだな。
カチナとして参加しないものは民家の屋根の上にはしごで登って、その様子を眺め、最後には下にいるカチナから投げ渡されるとうもろこしやパンをありがたく受け取って、はるか昔にカチナがホピを救ってくれた事に感謝の祈りを捧げるわけだ。
「ありがとう、ありがとう」
俺は周りにいるホピと同じようにカチナにむけて大きな声でいう」
「ありがとう、自然の恵みをありがとう!」
やがて俺たちの祈りがカチナに届いたのだろうか。
ポツポツと雨が降って来て、それは次第に強くなっていく。
「おお、カチナが恵みの雨をもたらしてくれたぞ」
「ありがたい、ありがたい」
「本当にありがたいな」
雨の中でも儀式は続き、やがてカラッとはれ上がると、畑には潤いがもたらせていた。
「たしかにカチナはいるんだろうな」
ホピの歌や踊りの一体感によびよせられたカチナが多分この中にいるのだろう。
だから儀式の最中にカチナの数を数えてはいけないのだそうだ、カチナは見られてはいけないことになっているからな。