ご褒美として……
結局、オレは脇役なんだろうと思った。
買いあさった異世界チートハーレムのラノベの主人公みたいに強い能力や、はたまた一見すると使えなさそうだけど使える能力とか、そういうのは一切なし。
オレにあるのは、この世界に来ることと戻ることだけ。
それさえも、俺だけの能力ではなく、アウトランナーと合わせた能力とも言える。
しかも、その異能力も気軽に行き来できるわけでもない。
異世界のどこに来られるのか、どの時間に来られるのか……いや、それどころか時間線さえわからないのかもしれない。
適当に来て、適当に過ごして……それってキャラと出会うまでの生活と、もしかしたら根本的に変わっていないのではないだろうか。
オレは村人たちに、深くお礼を言われた。
アズパパに「さすが婿様! 神人の威厳はすばらしい」と肩を叩かれた。
アズには、「お疲れ様です。さすがアウト様です」と愛らしく微笑まれた。
ミヤには、「かっこよかったです。惚れ直しました」とお世辞を言われた。
オレがやったことは、褒められたことなのだろうか。
嘘をついた。
見栄を張った。
ハッタリかました。
こう考えると、やったことはやはりキャラと出会う前のオレと同じじゃないか。
仕事が終わったと嘘をついた。
いい車を買って見栄を張った。
本当は能力があるとハッタリをかました。
うん、やっぱ変わらない。
なのに、オレはなんで……。
なんで今、こんなに気持ちいいんだろう。
(つーか、答えは簡単だよな……)
今回のことは、自分のためじゃなかった。
アズや他の村人たちを守りたかったという大義名分があった。
(まさに大義名分……だけど……)
わかっている。
自分の期待を裏切りたくなかっただけなんだ。
結局、自分のことだけなんだ。
でもさ。でもだよ。
大義名分って大事なんだ。
本当は別に悪いものじゃないんだよ、大義名分。
行動にちゃんと意味があると言うことなんだ。
「適当」じゃないと言うことなんだ。
そしてオレは、チートな異能力がないにしてはがんばった。
「適当」ではなく、真摯にがんばった。
結果、成功させた。
みんなが喜んだ。
だから、オレも喜んだ。
やったことは、脇役の悪あがきみたいなものだった。
決してカッコイイものじゃなかった。
でも、これはやっぱり、前に進んだということのはずだ。
だから、素直に喜び、少しぐらいのご褒美を受けとっても罰は当たらないだろう。
「はぁ~……。気持ちいい……」
思わず心からの声が漏れる。
オレがいるのは、広い広い露天風呂。
村の角にある、隙間だらけながら丸太で囲まれた空間に、しっかりとした木材で組まれた湯船が鎮座していた。
湯船は地面に埋め込まれていて、なにかの土でまるでコンクリートのように隙間が埋められている。
そこにたゆたゆと満ちているお湯は、裏山の方にあると言う源泉からの掛け流し。
成分はわからないが、きれいに透きとおり体をゆっくりと温めてくれる。
裏山から流れてくるまでに程よく冷めているのだろう、少しぬるめで長く入っていてもさほどのぼせなさそうだ。
普段は村人たちが使っているらしいが、今は功労者たるオレの貸し切り風呂としてくれた。
なんという贅沢。
もちろん、村の女性たちがまちがって入ってくるようなラッキースケベ展開はありえない。
昔のオレなら、そういうラッキースケベ展開を望んだだろう。
けど、今のオレは、そんなの望んでいない。
知らない女の裸より、ひとりの静寂を選びたい。
そういう気分の時もあるよな。
「気持ちいい……」
思わず言葉にもれる。
チョロチョロというお湯の流れる音だけが、まるでオレの心音にとってかわるように広がっている。
浴槽に用意された枕木に頭を乗せれば、目の前には真っ黒な空に……いや。真っ黒じゃないな。
昔、誰かが言っていたっけ。
たくさんの星があると、空は真っ黒ではなく勝色になるって。
藍染めの色をもっともっと暗くした色を言うそうだ。
確かにうっすらと青みがかっている様に見える。
(勝色……つーか、「勝った色」って、今のオレにピッタリじゃね?)
今、視界を埋め尽くすほどの星が空に輝いている。
ここに来る前に見た、道の駅【川場田園プラザ】の夜空よりも遙かに凄い。
星降る夜という言葉があるが、ああこれのことかと実感する。
(勝色の空に祝福の星の雨……。こんなオレでもロマンチックな気分になっちまうなぁ……)
そう考えてオレは思いだす。
――勝色の空に星の雨……ロマンチックじゃん!
そう言って微笑んだ彼女。
ああ。「勝色」を教えてくれたのは、昔つきあっていた彼女だ。
そうか。彼女はこんなすばらしいことをオレに教えてくれていたのか。
ふと思い出し、もやっとした気持ちが湯気と一緒にわき出てくる。
今だから思うが、オレは彼女に何もしてあげられなかった気がする。
つーか、本当にオレは彼女に酷い態度をとっていた。
もう会うこともないとは思うけど……もし会ったら一言でも謝りたいな。
(元気かな……)
星の中に、ふと懐かしい顔を思い浮かべる。
丸いメガネをかけて、地味なイメージのあった彼女。
ちょっとボーイッシュな口調のくせに、やることは凄く女性っぽかった。
(考えてみたら、きっとオレのためにがんばってくれていたんだろうな……)
最後はあきれ果てられて捨てられた。
当時のオレはそれを逆恨みしていたっけ。
……ああ。やばい。
思いだしたら、恥ずかしくてたまらなくなってきた。
恥ずかしさを流すように、オレはお風呂のお湯を顔にかける。
お湯を払いながら、顔を上げる。
「……ん?」
その視線の先に、オレは2つの人影を見つける。
それは、人生最大のピンチが訪れた瞬間だった。




