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戦いに勝ったのだった。

「いや。伝説ではない」


 オレの「失敗」の文字を打ち消してくれたのは、また魔術師だった。

 もしかしたら、この魔術師こそ、オレの救世主かもしれない。

 ありがとう、無駄に頭のいい魔術師!


「神人は本当にいる。……先日のアンデッド大量討伐事件があっただろう」


 魔術師の言葉に、少し上目づかいをしてから筋肉バカが「おお!」と反応する。


「あれか。禁区であった、神人が関わったとかいう噂の。神人とその仲間数人で、アンデッドを5万ぐらい斃したとかいう眉唾物の……」


「本当だ」


「……あん?」


「あれは本当のことだ。私はその神人が戦うところを見ていたからな。今まで見たこともない力で、次々と斃していた。しかも、1体1体ではない。あるエリア内を1度の攻撃でまとめて葬っていた」


「……まじかよ」


(……まじかよ)


 オレも筋肉バカの言葉にハモるように心で呟く。

 5万って……5万体だよな?

 アンデッドモンスター5万体を斃しちゃったの?

 それ、とんでもなくね? それ、オレと同じ神人なの?

 なにそれ、まさにチートキャラって奴?

 そいつが仲間だったら、超助かるんだけど!


「ほほう。そうか。アイツ(・・・)と遇ったのか」


 ――って、思っていたら、なに言ってんだ、オレ!?

 とんでもないハッタリが口から飛び出てしまった。

 しかし、口に出したからにはもう止められない。


「……貴様、あの神人の知り合いか?」


「まあ、な。たぶん、それはオレの友人だ」


「…………」


「おっと。アイツの事を教えてくれと言われても教えられないぜ。簡単に情報を渡すわけにはいかないからな」


 つーか、ぶっちゃけ知らないから教えられないだけだけどな。


「…………」


 魔術師が顎に手を当てながら、こちらを睨む。

 おかしい。

 正面に立っているのに、不自然にも顔の鼻下から半分からがうかがえない。

 フードの陰になっているからと最初は思っていたが、正面から見るとまるでそこに闇がかかっているかのようだ。

 そしてその闇の中に光る赤い光が、こちらを突き刺すように見つめていた。


(ヤバいヤバいヤバい……ちびるちびる……怖いマジ怖い……)


 必死に耐えた。

 一世一代の大芝居だ。


「神人。もう一度、名前を聞いておこうか?」


「……名前を聞くなら、自分から名のるのが礼儀だろう!」


 お芝居モードのままで、定番の台詞を言ってみる。

 別に名のってもいいんだけど……すまん。一度、言ってみたかったというのもある。


「神人の礼儀など知らんが……まあ、いいだろう。私はニンバス・クロニクル」


「ニッ……ニンバス・クロニクルだと!?」


 顔を顰め、うぐぐと呻るアズパパ。

 それに合わせるように、周りもざわめく。


「……なに? 有名人?」


 オレの質問にアズパパが、横で顔をひきつらせたままコクリとうなずいた。


「ある街をひとつ一夜で滅ぼしたことがあるそうだ……」


――ゴクリッ


 思わず喉が鳴る。

 なにそれ。強い上に凶悪なの?

 ってか、あのアズパパまでちょっとビビってませんか?

 計算外に強すぎたってこと?


「で?」


「……はい?」


 魔術師に声をかけられ、オレは少しうわずって応えてしまう。


「貴様の名前だ。さっき聞いたが記憶に残していなかったんでな」


「あ、ああ。……アウト。神人のアウトだ」


「アウトか。今度は憶えておこう」


 憶えなくていいです。いや、マジで。


「アウト、ここは貴様に免じて退いてやってもよい」


「ちょっと待てよ! やらないってのか!?」


 筋肉黙れ。魔術師様が退くと言っているだろうが。


「こいつが神人というのも、あの化物神人と仲間というのも……どうやら、本当らしい」


「……マジかよ?」


「その魔法生物の魔力の質……あの化物じみた神人と似たような臭いがする……」


 魔力って臭いあるの?

 いや、でも、なんか納得してくれている?

 理由はわからんけど。


「あの化物神人を敵に回したくないし、その魔法生物とやらもなにやら得体が知れない。……まあ、貴様自体はどうも大したことなさそうだが」


「…………」


 ぐーの音も出ない。


「ただし、こちらも帰路がある。3日分の美味い食料と水、酒。それを2人分。友好的な来客に土産を持たせるぐらいかまわんだろう?」


「…………」


 オレがアズパパに視線を送ると、アズパパは首肯する。


「ちょうど我が娘と、アウト様の婚姻の儀があり美味い料理もまだ残っている。すぐ用意させよう」


「ほう。結婚か。それはめでたいな。はれて、この村は神人と血縁を結んだ訳か」


「……そうだ。この村に害する者がいれば、このアウトランナーが地の果てまで追いかける。こいつ、速いから逃げるのは難しいぞ」


 今ひとつカッコイイ台詞は思い浮かばなかったが、できるかぎり威しをかけてみた。

 胸を少し張って、オレは魔術師を睨んでいる。

 虚勢を張ってはいるが、これでも覚悟は本物だ。


「…………」


 すると、魔術師は鼻で嗤ってから、両肩をヒクリと動かした。


「わかった、わかった。それもお前の名前と一緒に憶えておく」


 つーか、オレの名前は忘れてくれていいです。

 むしろ忘れてください、お願いします。


 とにかく、それで手打ちとなったのである。

 オレは戦いに勝った。

 つーか、虎の威を借る狐のハッタリだったけどね……。


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