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ネコ耳に……

「……ネコ耳?」


 他にどう表現していいかわからないほど、頭の上にあるそれはまちがいなく、琥珀色のネコ耳だった。

 最初はカチューシャかと思って触ってみるが、外れるどころかどう見ても頭と一体化している。

 しかも、触るたびにピンクの唇から「あぅん~」と、妙に艶めかしい声まで漏れる。

 こめかみ当たりの髪をあげてみるが、そこに本来あるはずの耳もない。

 だが、どうしても信じられないオレは、彼女のヒップに手を回す。


(ネコなら尻尾があるはずだ……)


 決して、やましい気持ちじゃない。

 やましさなど少しもない……と言えば、ウソになるが、それよりもどうなっているのかを知りたかった。

 だから、手にそれが触れた時、オレは興奮するよりも、喜んでいたと思う。

 本当にあった。

 そこに、尻尾があったのだ。


「……あれ?」


 しかし、さらに触っていて、少し妙なことに気がついた。

 短い。

 尻尾が異様に短い。


(つーか、これは……もふもふ?)


 オレはお尻をまさぐるのをやめて、体を半分ひっくり返して彼女のお尻をマジマジと見る。

 そこには、確かに尻尾があった。

 ただし、丸い。

 髪の毛と同じ、琥珀色の毛がボールのようについている。

 オレはさらに調べるように尻尾を触ってみる。

 布製ズボンのお尻の上の方には、縦に切れ目が入っていた。

 そして上がボタンでとめてある。

 たぶん、尻尾を通すためのものなのだろう。

 わざわざそんな作りをしていると言うことは、つまりこの尻尾も後から付けたりしたものではないということだ。


(つーか、どう見てもこれ、ウサギの尻尾じゃねー?)


 でも耳は……と思い、視線を顔に戻すと、先ほどまで瞑られていた双眼がパッチリと開いている。

 そこにあるのは、少し猫目気味の赤みを帯びた双眸。

 しかも、かなりつりあがり、褐色の肌でもわかるぐらい頬を真っ赤に染めていた。


「あ……」


「…………」


「つーか、これは……」


「にゃぴょん!? ……なにするか、このエロオヤジ!」


 もの凄い怒声と共に、彼女のパンチがオレの顔面に炸裂した。

 しゃれぬきで、オレの体がぶっ飛ぶ。

 比喩ではなく、地面を転がされた。

 本気で死ぬかと思うぐらいの痛みが全身に走った。

 手で顔を触ると、掌に鼻血がついていた。


「ってな! なにすんだ、テメー!」


「それはこっちの台詞! キャラのお尻、まさぐった!」


「ま、まさぐってねーよ!」


「うそつけ、エロオヤジ!」


「オヤジじゃねー! オレはまだ、26才だぞ!」


「十分、オヤジ!」


「つーか、そういうお前は何才なんだよ!」


「キャラは、鮮度抜群、16才!」


「16だと? なんだよ、ガキじゃん! つーか、ガキのケツなんて興味ねーし。オレはだいたい、ケツより胸の方が――」


「胸!? キャラの胸まで触った!?」


「えっ!?」


「にゃぴょん! もう、オマエ、許さない!」


「つーか、『にゃぴょん』って、言葉までネコとウサギが混ざってんのかよ!」


「うるさい! とにかく、キャラの体を触った罪は重い。これは神が謝ってきても許さないレベル!」


「レベルたけーな!」


「償いとしてオマエの命、このキャラ様がもらう!」


 そう言うと、彼女は腰に手を当てた。

 そこに握られていたのは、大きめのナイフ。

 片手で突きだされた剣先が、オレの方を真っ直ぐに狙う。


(まさかナイフを持っていたとは……尻に夢中で気がつかなかった!)


 ギラッと光る刃は、それが本物の金属であることを疑わせない。

 非常に痛そうである。たぶん、刺されたら死ぬね。

 しかも、逃げ切るのは、かなり難しそうだ。


「まっ、まあ……つーか、落ちつけよな……」


「うるさい! キャラは………うぐっ……」


 言葉の途中で、彼女はいきなり膝を折る。

 そして、まるで糸が切れたように、地面にへたってしまう。

 今まで気力で保っていたのが限界に来たのか、顔色さえ悪く見えた。


「おい。つーか、おまえ。大丈夫なの――」



――ぐうううぅぅぅぅ~~~~!



 オレの言葉を遮ったのは、アニメでしか聞いたことがないような腹の虫の鳴き声。

 そのあまりの立派な鳴き声に、彼女は顔を真っ赤にまた染める。


「……もしかして、おまえ……腹、減ってんじゃね?」


「…………」


「カップラーメンならあるけど、食うか?」


「く、食うかって……それ食べ物の名前か?」


「おお。そりゃーもちろん、食べ物だ」


「……く、くれるのか? 金はないぞ」


「そんじゃさ、いろいろと触っちゃった、お詫びっつーことで、ひとつ……な?」


「…………」


「…………」


「……しょ、しょーがない。それで手を打つ!」


 オレは自分用に買っておいた朝飯を犠牲にし、自分の命を守ることができた。

 それはカップラーメンが、神様の謝罪に勝った歴史的瞬間だった。


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