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女史を家まで送ったら……

 オレは自分を褒めてあげたい。

 つーか、褒め称えたい。


 よくぞ今日という日を生きのびたと……。


 想像がつくだろうか。

 どこにいても誰かの殺意を感じているという、生きた心地のしない状態を。

 針のむしろに、薄いクッション一枚で座らされている気分だ。

 もちろん、その薄いクッションとは女史のことだ。

 不幸中の幸いとして、今日は仕事の関係上、ほぼずっと十文字女史と二人きりだった。

 そのために狙われる機会は少なかったとは思う。

 それでも、ちょっと女史が目を離した隙に、肘鉄を入れてきたり、足を踏むやつは何人もいた。

 小学生のいじめのようだが、これがエスカレートすれば殺されることもありえるかもしれない。

 このままではトイレに行くのも人気がない時ではないと、下手すれば便器に顔を突っこまれて汚水をすすらされることになるかもしれない。


「まったく……勘弁してくださいよ、女史……じゃなく教子さん」


 終業時間を遙に過ぎてやっと帰宅しようと、十文字女史を送るためにアウトランナーの中である。

 つまりはプライベートなので、名前で呼ばないと怒られる。


「……ごめんなさい。さすがにやり過ぎたと反省しているわ」


 助手席の女史が苦笑しながらも頭をさげる。


「でも、ここまでしないと、大前くんは信用しないかもしれないと思ってね」


 信用しないという意味がわからず、オレは思わず女史の顔を見返してしまう。

 いったい何を信用しないというのか、それを尋ねようとした瞬間に女子の方から口を開く。


「昔の大前くんと違って、今の大前くんはわりと謙虚でしょ」


 助手席から少し彼女は体を傾けて、運転席側のオレによってくる。

 オレは目線を泳がせて挙動不審になりながらもなんとか答える。


「謙虚……つーか、単に己のレベルの低さをちゃんと認識したって感じっすかね~」


「だからね、『オレなんかにまさか』とか思うんじゃないかなって。それで逃げられても癪だしね」


「た……多少は思っていました……」


 図星を突かれたことと、女史の肉食度に身が強ばった。

 さらにダメ押しで体を乗りだした女史の「でしょ?」という言葉と視線が、運転席にオレの体を縛りつける。

 いつの間にかアウトランナーという密室に、不思議な甘い香りが充満している。

 まだ会社の駐車場を出ていないというのに、早くもオレは彼女の用意した檻に閉じこめられていた。

 つーか、それ以前に、周りが敵だらけで彼女の側から離れられなかったオレは、とっくに檻の中だったのかもしれない。


「あとは、これだけ大々的にしてしまえば、無駄なお誘いを断れるかなって」


 ふと空気を変えるように、彼女は助手席に体を戻す。


「毎日のように声をかけられるとね……」


「な、なるほど……」


 少し安堵しながら納得した。

 それは確かに鬱陶しいだろう。


「まあ、中には今日もメールとかで、大前くんより自分の方がいい男だアピールがあったけど」


「ま、まあ……当然、そうなりますよね……」


 こちとら社員の底辺にいる。

 そんなのに負けた、高嶺の花を奪われたと思ったら、黙ってられない者たちは多いわけだ。

 オレが逆の立場でも、同じ事を考えていると思う。


「もちろん、私は大前くんがいいと答えておいたわ」


「…………」


 ずっと気になっていたことは、それだ。

 なぜオレがいいのか、オレにはてんでわからない。

 思いつくことと言えば、1つだけだ。


「じょ……教子さんが『オレがいい』と言う理由って、やっぱり異世界にいけるから……っすか?」


 オレの怖々とした質問に、女史は小さなため息をついてから苦笑する。


「……まあ、そうね」


 彼女の返事に息を呑む。

 だが、その後にまだ言葉が続いた。


「そう思うわよね、きみなら。予想内よ。でもね、考えてみて。私が貴方と仲良くしようとし始めたのは、あなたが異世界に行けると知る前よ」


「そ、そうですが……なら、オレのどこがそんなに?」


「そうね……」


 彼女が少し黙考を始める。

 オレはその間がどこか堪えられなくなり、車を動かし始める。


「いいところは、たくさんあるわよ」


 車が駐車場から出る。

 まずは、女史の家まで送ることになっていた。


「たくさんっすか……」


 真っ暗になった夜空の下、外灯が照らす道をアウトランナーは進みだす。


「そんなにたくさん……あるとは思えませんよ」


 そうだ。わかっている。

 彼女の言う「たくさん」は「ひとつもない」をごまかす為のものだろう。

 具体的にどんなところかと聞いても、答えられない、もしくは適当に答えるはずだ。


「そんなことないわ。まずは、やはり己を知っているところね。そしてそれをごまかさずに素直に受け入れた。たぶん、そのおかげで大前くんは大きく変わったんだと思う」


 ところが、彼女はまじめに答え始める。


「それに周りを意外に見ているところ。なんだかんだと気づかいできているでしょ。バーベキューの時もだけど、仕事でも評判はいいの。雑用係の大前くん、あちらこちらからひっぱりだこでしょ」


「つーか、それはオレが暇そうで、いろいろと面倒なことを押しつけやすいから……」


「最近の大前くん、暇そうなところは見たことないけど? 雑用係の予約待ちさえあるぐらいじゃない」


 言われてみればそうだ。

 自分の仕事の予定は、一月先まで入っているぐらいである。


「それにね、『面倒なこと』を頼めると評判なのよ。いろいろと気が利いているって」


「ホ、ホントっすか! 驚きっすよ……」


「本当よ。だから、みんな大前くんに手伝ってもらいたいってリピーターも新規も増えているんでしょ」


「…………」


 褒められることになれていないオレは、クールを気取ってみるものの頬の筋肉が痙攣を始めてしまう。


「あと、わりと努力家。それにチャレンジャー」


「チャレンジャーっすか?」


「ええ。そうではないと、そんなに異世界に行けないでしょう。……それから、キャンプとかの趣味が合うところも、私としてはいいところね。あと、確かな味覚もポイント高いわ。そしてなにより――」


 そこに一呼吸。


「――私が大前くんを『いいな』と感じたの。貴方と一緒なら、いろいろと楽しそうだな……って」


「…………」


 そこからしばらく、2人とも無言だった。

 オレは恥ずかしくなって赤面して声が出なかった。

 ならば女史はどうして黙っているのか。

 そう思って横目でうかがったうも、彼女の表情は暗い車内でよくわからないのであった。

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