裸足のあたし
「ちゃんと返してね?」
その言葉は、溶けて崩れる氷河のようにあたしの心を粉々に砕いた。
そんな言葉を言われるのは、別に初めてとかじゃないのに…。
何でか、「返す」という単語がすごく冷たく寂しいものに感じて悲しかった。
整理が出来なくて、そばにあった熊のぬいぐるみを投げてみたりして抵抗した。
それでもヘラヘラしてるあの人が、すごく憎らしくって…玄関に行ってあの人の靴を持って、ベランダから外に投げた。
自分でも、子供じみた悪戯だったと思う…
でも、やめられなかった。
靴が無ければ帰れないとでも思ったのか。
すごく単純で、軽率でただの子供みたいな行動に腹を立てないわけもなく、あの人はすごい形相で、あたしを振り切って出て行った。
「…ごめん、なさ…」
ポロっと出た謝罪の言葉。
それでも、放心状態のあたしは、足に力が入らなくてすぐに出て行ったあの人を追うことが出来なかった。
その間も、今日一日の思い出がフラッシュバックしてあたしの頭が、追いかけろと警鐘を鳴らしてきた。
早くしないと見失ってしまう、あの人は車を持っていない…家に帰れない距離ではないけど、限られたこの時間をあたしにさいてくれたのにこの仕打ちは心が痛んだ。
あたしは、自分の足に力いっぱい命令した、動けと。
小学生が何人か外で遊んでいたが、気にもとめず無我夢中で裸足で駆け出した。
そんなに離れてはいなかったようだ、出て数百メートル行ったところで、背中を捉えた。
「…けいちゃん!待ってよ!」
腕を掴んで、必死に謝った。
「…追うなら、靴はいて追ってきて…」
あたし腕を勢い良く振り払って、すわった目で冷たくそう言い放った。
怖くて、それ以上何も言えなかった。
何もつかめなかった手を握りしめて、お互いに背中を向けて歩き出した。
振り返る事すら怖くて出来なくて…あたしの心は完全に活動を停止した。
これが、あたしの恋。
全てにおいて、時間が決められてる。
一歩通行で、Uターンもできない…燃え上がってしまった想いに、自分すら翻弄されて、今日みたく暴走してしまう。
家に帰ってからも、気持ちがぐるぐるとしてたまらなかった。
台所の車のキーをつかんで、家を離れた。
こういう沈んだ時は、いつも外を徘徊する。
実家の裏の山のお気に入りの小さい滝のそばだったり、こじんまりとした街が一望出来る小高い丘の上の神社だったり、夕日が綺麗に見える海辺の公園だったり…自然は偉大で、優しくなだめてくれる。
自分が悩んでることが、とても小さなものに感じてくる。
今は、夕日がとても綺麗だろう…そう思い海辺の公園に行くことにした。
日が傾いてきても、公園には多くの恋人たちがいた。
いつもは、どうとも思わない甘い光景も、今は苦々しく感じた。
もう春も終わりとは言え、夕方の風は少し冷たさを帯びていて、肌寒い。
芝生がたくさん植えられていて、歩道以外が緑で埋め尽くされている。
あたしは、そこにそっと裸足で踏み入った。
ひんやり冷たくて、芽が若いからか柔らかくて…歩くたびに開放感に満ちていった。
オレンジ色の夕日に照らされながら、1人芝生の上を堪能しながら歩いた。
公園には、見晴らし台みたく回りより抜きん出て高く作られた人工的な丘がある。
そこは、小さなピンクの花も植えられて芝生とのコントラストが綺麗だった。
そんな丘の上からみる夕日は、海にも反射してより輝いて見えた。
でも、夕日は沈んでいくもの。
どんどん見えなくなる姿が、まるであの人の背中のようで寂しく思えた。
自然と涙がこぼれ出た。
「けいちゃん…どうしてこうなっちゃうんだろう…」
こんなに人を好きになったのは、生まれて初めてだった。
付き合うことになるなんて思ってもいなかったけど、少しでもそばにいられるだけで幸せだった。
あの人は、あたしを幸せにしてくれるけど、同時にとても残酷だ。
あたしは、あの人の全てを愛することは出来ない…いや、許されないの。
「好き」とは言える。
でも、「愛してる」は言えない。
それを一年前のあたしに言ってあげたら何か変わっていたのかな…。
読んでいただき、ありがとうございました。
初めて投稿させていただきました。
文章は、まだおぼつかなく読みづらい部分もあると思いますが、ご容赦ください。




