回想と女神と逃亡劇
エルピス視点でお送りします・・・
・・・思い返せば私の受難は、あの糞女に出会った時に始まったのだろう・・・
私はただ、あの『箱』の中で寝ていただけなのだ
いろいろな者が押し込まれていた箱の中は、確かに騒々しくはあったけど、
それでも私は、あの質感や、材質の香り、何よりあのデザインに心を奪われたのだ!
・・・だからあの日、神々の悪ふざけに巻き込まれた日も、プロメテウス様に教えられた方法で『禁忌箱』に忍び込み、普通に寝てた・・・
箱があの馬鹿女に開けられたとき
寝ていた私は、逃げ出すのに手間取ったのだ
そして、箱を開けてしまったことで焦燥しきっていたあの馬鹿女は私を見つけた瞬間・・・
『にへら』
と、笑ったのだ!
私は、この時の奴の笑みを一生忘れることは無いだろう・・・
馬鹿女の演技力もさることながら
面倒な後始末を『全て』私に押し付けた手腕は賞賛に値する
舌先三寸とは、まさに奴のことだ!
私を見捨てて逃げ出した奴等の捕縛を、半強制的に公約させられた私は、神界から人間界に派遣させられることとなったのだ。
・・・公約の内容に、『逃げ出した者達を、全て捕縛するまで私は天界に戻らない』という一文を、あの馬鹿女が書き足していたことが解ったときは、マジ殺そうかと思った・・・
そして、人間界に落とされて大分時が経った
無論、最初からやる気など皆無だ・・・
唯一の救いは、禁忌箱が支給されたことだろうか・・・
これにより私は、気の遠くなる時間を箱の中で自堕落に過ごしたのだ・・・
そして今日、謎の白い棒により私の安息は破壊された
■
あの場を飛び出し、少し経った・・・
今は、ベンチのある公園で休んでいる
なぜ私が、こんな惨めな思いをしなくてはならないのだろうか?・・・
禁忌箱で寝ることが趣味であると女神仲間に話した時のことが思い出される、
十年単位で馬鹿にされ続けた・・・
故に今、段ボールで顔を隠しているが彼女は赤面しているのだ
・・・だから、話しかけてきたその男の言葉に私は過度に反応してしまった・・・
青い制服を着た中年の男だった、人の良さそうな顔をしている
その後に同じ制服を着た男、こちらは少し若い。なにやら黒い箱に向かい、何か喋っている。
「ねぇ君、何で段ボールなんか被っているの? ちょっと、オジサンに話を聞かせてもらえるかな?」
「はい通報のあった公園ですが・・・、不振な格好をした子供を〇〇公園で保護、今、井波巡査長が事情を聞いています。・・・、はい、裸足であることから何らかのトラブルに・・・」
・・・どうやら二人はケイサツというものらしい・・・
普段の彼女なら、気付かれる事も無く、たとえ気付かれたとしても簡単に対処出来た筈だ・・・
・・・少なくとも、この後行う様な馬鹿な行動には出ない・・・
飛んだ・・・
中年警官が近づいてきた瞬間、3メートルほど飛んだのだ・・・
そして電信柱に着地する・・・
中年は唖然とした顔で私を見上げ、若い方は黒い箱を手から落とす・・・
そして私がまた跳躍しようとしたとき、ようやく・・・
「・・・あっ! ま・・・・」
なにか喋ったようだがもう聞こえない
そのときには、付近の高い建物に移動していた・・・
赤面していることを悟られたくない
動揺していることを悟られたくない
そして、涙ぐんでいることは絶対に悟られたくない!
・・・彼女はそのとき、そんなことだけ考えていた・・・
それからの逃走劇は、近隣住人やドライバーの皆様に多大なご迷惑をお掛けしたのだが省略する
彼女は後に語る、『この国の警察は鬱陶しい!』と・・・
注:この事件が原因で多数の事故が起きましたが、奇跡的に死者も重傷者もゼロでした
その後、冷静になった私は
禁忌箱を身に付けているから、追われているんだということに気づく・・・
近場の公園に禁忌箱を隠し、逃亡。
しかし、この時代に裸足でボロボロのワンピース姿、さらに移動手段を全く変えていなかったため、またしても追われることとなる・・・
一番の誤算は、あの男が禁忌箱を拾っていったことだ・・・
やっとの思いで、撒ききったのに、取りに戻ってみれば無くなっていたのだ・・・
少し泣いてしまったのは、誰にも内緒だ・・・
■
そして取りに来てみれば、これはなんの仕打ちだ?
一回目に鳴らしてみても(なんとなく押さないと開かない気がした)、出てこない。
二回目は人の気配を感じ、逃げてしまった・・・
そして三回目、私は声にならない悲鳴を上げたのだ・・・
コイツ、ゼッタイ、コロス